第20話 初めての挫折
* * *
僕は彼らが建物を出たのを見届けた後、再び真壁の方を向いた。
真壁と視線が合うと彼は口を開く。
「あいつが何を企んでるのか知らねぇーが続きやるぞ」
そう言うと手に持っている竹刀を適当に振り回し始めた。
竹刀持つならちゃんと構えろよ……
「おい! 真壁」
「はぁ!? 何だよ?」
僕は当初、完全に力に乗っ取られると全く会話が出来なくなるものだと思っていたので、攻撃的ではあるがちょっとは会話が出来る今の状態であることに少し安堵した。
可能性は限りなく低いとはいえ、説得でどうにかする方法もあるかもしれない。
「元々は僕のせいだったよな」
「何わけ分かんねぇーこと言ってんだ? クソッ!」
真壁は明らかに苛立った様子で竹刀を投げつけてきた。
僕はそれを何とか避けきる。
「竹刀は投げるもんじゃないだろ」
「うるせーっ!! さっきから言ってるが、これは剣道じゃねぇー。ルールとかねぇーんだよっ!」
「剣道をやろうと言い出したのはお前だろ」
「はぁ!? だから何言ってんだよっ!!」
「お前が強引に剣道やるぞって誘ったんだろ。忘れたのか?」
「…………さっきから何の話してやがる?」
「5年前の話だ」
僕が剣道を始めたのは5年前。
中学に入学したばかりの頃僕は、最初バドミントン部に入ろうと思っていた。
理由は単純で、小学生の頃友達とやったバドミントンが楽しかったから。
なのに真壁の奴……。
そんな俺に剣道やろうぜ! と突然言ってきた。
お前がやりたいのは剣道じゃなくてチャンバラだろ! と突っ込んでも聞く耳を持たず、僕を無理やり武道場に連れて行った。
強引に連れられ剣道部の見学をした僕はそこで感銘を受ける。
真壁も「何か思ってたの違う……」とは言いつつも目をキラキラと輝かせ、次の日も僕を連れて見学に行った。
僕らはすぐに剣道部に入部届けを出した。
それは僕がバドミントン部の見学に1度行くことなく即決だった。
それから僕らは競うように剣道の腕を上げていく。
ことある耽美に試合をやったりした。
今思うとその頃が1番剣道を楽しんでいたと思う。
そして高校生になっても僕らは迷わず剣道部へ入部した。
また中学の頃のようにお互い競い合いながらやっていくものだと思っていた。
しかし、そうはならなかった。
高校入部後すぐに真壁は剣道を辞めてしまったのだ。
辞めた理由として、僕は高校入学後も着々と腕を上げる一方、彼は伸び悩み始めたからだ。
いや、真壁が伸び悩んでいたのは中学の頃からお互い気づいていた。
中学3年の頃からだろうか? だんだんと差が付き始める。
それでも真壁は、その差に気づかないふりをして僕にいつも勝負を挑んで来ていたことを、僕は薄々感じていた。
段々真壁と話す機会がなくなり出したのもその頃からだ。
真壁が部活を辞めたのを知ったのも、顧問の先生から全体への連絡のときに聞いたのが初めてだった。
他の友達はみんな知っていたのに僕だけが知らなかった。
次の日、僕は部活を休み真壁を捕まえて話をした。
真壁は苛立ったり声を荒らげることもなく、終始「もう剣道を続ける気力がないんだ」と言い続けるだけだった。
僕は真壁を何とか説得しようと考えていたが、そんな真壁を見て何も言えなかった。
「なんだ……そんな話かよ」
「ああ。その話だ」
僕の昔話に真壁は聞き耳を持ってくれたのか、急に床に座り出す。
真壁はみんなからお人好しな性格なこともあり愛されていたので、部活を辞めるときそれを引き留めようとする声はたくさん上がった。
だけど僕は真壁に説得はしなかった。
真壁は1度決めたらなかなか意見を曲げない奴だと真壁とずっと一緒にいた僕は知っている。
無理に説得してももう剣道部には戻らないと思い僕は諦めた。
僕は真壁が剣道を辞めた後も必死に練習を続けた。
言い方は悪いが、今まで実力差に気づかないように振る舞っていた真壁のことをどこか心配していたので、真壁が居なくなったことによりそれが解消され、僕はより一層剣道に集中出来たのだ。
剣道により集中した僕は、大会で優勝争いが出来るくらいの実力を付けた。
それと同時に周りの空気も変わった。
僕が個人戦で活躍し出すと周りの部員も、そんな僕の足を引っ張っていられないからと練習に力を入れだし、いつしか団体戦でも優勝を目指す部へと意識が変わっていったのだ。
そのように変わっていく仮定で、いなくなった真壁の話をする奴もいなくなった。
しかしそんな日々は長くは続かなかった。
去年(2年生)の夏の大会。
僕はその大会で1回戦で負けたのだ。
凄まじい速さと一瞬のスキを見逃さずに攻めてくるそいつに俺は完敗した。
そこで僕は「こういう奴が大会で優勝したりするんだろうな」と悟った。
果たして僕にあいつを倒せるような力を手に入れることが出来るのだろうか?
越えられそうにない高い壁を初めて感じた。
しかし、僕を1回戦で破ったそいつは優勝出来ず、その大会では準優勝だった。
僕が全く歯が立たなかった奴でも優勝出来ないことに、僕はその瞬間何かを失う。
それから僕は全く勝てなくなった。
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