第19話 ロマン派orリアル派

「え……? 分からないの!?」


 高梨さんが間の抜けた声を上げる。

 いかにも知っているかのように語っていたのなに、分からないと言われたらそりゃそうなるよな。


「うーん。分からないって言うとちょっと語弊があるかも。ごめん」


 決して何も分からないという訳では無いのだ。有力な説が2つあり、人によって意見が分かれると言った方が適切だ。


「有力な説が2つあるんだ。 1つ目はこの書についての知識があるかどうか。そして2つ目はこの書に選ばれし人物かどうか」

「2つ目の方が何かそれっぽい!」


 高梨さんもロマン派か。


 この2つの説。

 後者の方がファンタジー的な説なので、こっちを信じている人をロマン派と言う。

 対する方の説は現実的にありそうな話としてリアル派と言うのだが、俺はリアル派だ。


「ねぇ? はやてくんの話を聞いてて今思ったんだけど、もしかして私も選ばれる対象になってる……?」


 高梨さんは目の前ににある『願望の書』を小指でちょんちょんとつつきながら聞いてくる。


 何か起こると困るからつつかないでくれ……。


「高梨さんに何か強い願望とかがあったとして、2の説なら可能はあるかな」

「え? 1つ目じゃ無いの? だって私今、颯くんにこの本のこと教えてもらったじゃん!」

「あー……あれだけだと知ったことにはならないよ。俺が教えたのはこの書の本当に基礎的な概要だけだから」


 さっき簡単に話した程度の知識では知ったうちには入らない。説明し尽くすには時間がかかるし、仮に時間があったとしても彼女は知らない方がいい。


「話はこれくらいにしようか。そろそろ戻らないと橋下が心配だ」

「そうだね。 …………じゃあ中を見てみよっか!」


 そう言って高梨さんは一切躊躇ちゅうちょすることなく本を開こうとする。


 何!? ……ちょっと待てよ!!

 今の俺の話を聞いてたのか!?

『願望の書』の効果が発動するかもしれないんだぞ?


 怖くないのか!? 洒落にならない。


 俺ならいい。

 でも高梨さんは関わっちゃ駄目だ!!



 俺は高梨さんをすぐに止めようとしたが、高梨さんは既に『願望の書』の中を開いてしまっていた。


 どうしようもなく俺は高梨さんを見ていることしか出来なかった。


 高梨さんは開いた『願望の書』の中をまじまじと見ている。

 もし高梨さんが『願望の書』に選ばれる人物なら、ここで橋下が言っていた現象が起こるはずだ。



「…………」

「…………」



 しかし、何も起こらない。


 これは、高梨さんは条件を満たしていなかったということだろうか?


「何も起こらないね。何書いてるかも読めないし……」


 開いたページを見ている高梨さんは難しそうな顔をしながら呟く。

 俺はその言葉にほっとする。


 良かった。

 もし『願望の書』が発動していたら、どうしようかと思った。


「高梨さん……とりあえずそれ閉じようか」

「あっ! うん」


 高梨さんはそっと閉じて机の上に置いた。


 何も起こらなかったとはいえ、ずっと開いたまま見ているのもあまり良くはない。


 こういう物は極力触れない方がいいのだ。



「私は条件満たしてなかったみたいだけど、黒田くんも試してみるつもりなんでしょ?」


 俺は、何故か高梨さんが少し残念そうに呟いたように見えた。


「そうだよ。この書で力を得た真壁を止めるなら、この書の力を使うしかない。ただ、俺も選ばれなかったらどうしようもないんだけどね」


 この書の人を選ぶ条件が俺が信じている方のリアル派だとすると、俺は条件を満たしているはずだ。


 あとは俺のを強くイメージして開くだけ。



 簡単だ。すぐに終わる。

 選ばれるか選ばれないかの2択だ。


 俺がこの魔導書から得たい呪文は1つ。

 真壁の力を封印する呪文だ。


 この『願望の書』が与えてくれる呪文の中に、そのような呪文が確かあったことを俺は知っている。

 俺がその呪文を取得出来れば、真壁を止めることもきっと容易だろう。


 さて、あとは俺の欲望にこの魔導書が選んでくれるかどうかだ。



『願望の書』は正直だ。

 きっとを与えてくれるはずだ。



 俺は『願望の書』を手に取りゆっくりと中を開いた。








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