最狂の剣士

巽 彼方

第1話 爽やかイケメンの川崎

 


 俺は間違っているのかもしれない。


 俺は臆病だ。

 止めることが出来なかった。


 止められなかった理由。

 それはこれを望んでいた自分がいたから。


 俺は思う。

 やはり間違っているのかもしれない。

 間違っているのならやり直せばいいのだ。


 しかし自分では止められず、誰かが止めてくれるのを待っている自分がいる。


 故に俺は臆病だ。






 こうして最狂の剣士が生まれたのだ。













 時は4月の下旬の月曜日。


 休み明けということもあり、教室はいつもよりもどこか賑やかで楽しげだ。

そんな雰囲気の中周りに目もくれず帰りの支度をする。


 俺は味美高校に通う高校3年の黒田くろだ はやて

 科学部に所属しており、普段ならこれから部活の時間なのだが、今日は科学部顧問の岡田先生が出張の関係で休みなのだ。



 席を立ち教室を出ようとすると、突然後ろから声をかけられた。


「颯! 今から家に帰るところだよな? 時間あるならちょっといいか?」


 振り替えるとそこには、身長が180㎝を超える長身に、鍛え上げられた体とどこか爽やかな雰囲気を合わせ持つ、所謂いわゆるモテる体育会系男子がいた。


 彼の名前は川崎かわさき 秀介しゅうすけ

 剣道部に所属している。

 彼の剣道の実力はなかなかのもので、確か去年は県大会に出場したとか言ってたな。

 川崎とは特別仲が良い訳ではないが、会えば適当に話をする程度の知り合いではある。


 しかし、こうして俺に直接声をかけてくるのはとても珍しい。


 ゆえに俺は少し警戒をする。

 ちょっと嫌な予感がするのだ。


「川崎か? ……えっと、俺に何の用?」

「それがよ! ちょっと聞きたいこと、というか頼み事があるんだがいいか?」

「頼み事? めんどいから頼まれたく無いけど、このあと暇だし話だけは聞いてやる」


 すると川崎は俺の隣の席に座り、俺にも座るように促した。

 どうやら少し長くなるかもしれない用件のようだ。


 やっぱ話を聞くのも拒否した方が良かったかもしれない。今更めんどくさくなってきた。


「良かった。颯のことだし話は聞いてくれると思ったよ! 確か颯ってオカルト関係の話とか詳しかったよな?」


「うん、そうだな」と俺は答える。

 川崎が言うように、俺はオカルトや都市伝説などの類いの話が大好きだ。


 最近はネットで知り合った同じような趣味の友達と週1くらいの頻度でそのような話をしたりしている。

 そして今その仲間内の間では、少し古いネタなのだが『きさらぎ駅』の話がブームだ。



 気になったら『きさらぎ駅』でググってみるといいぞ!



 少し話が逸れてしまったので話を戻そう。

 ずいぶん前に俺は、1度だけオカルトや都市伝説的な話が好きだということを言った気がするが、この記憶は確かではない。


 川崎の奴よく覚えていたな。


「それで俺昨日の大会で……あっそうだ。俺が剣道部ってことは知ってるよな?」


 俺は適当に頷き続きを促す。


「その大会で俺は決勝戦までいったんだが、決勝戦での相手が初めて対戦する奴でさ、だいたい地区大会は決勝までくると常連高校の選手か、地区で有名な奴ばかりだから相手のことを知ってることが多いんだけど、昨日の相手は俺含め他の部員、それに顧問の小島すら知らない奴だったんだ」


 剣道はどうなのか知らないが、地区大会の決勝ともなると実力のある常連校や、有名な選手だけになるってことは運動系の部活をしていない俺でも想像できる。


「そうか。 それでそいつがどうした?」

「そいつさ、対戦したとき俺ちょっと不審に思ったんだよ。ただ強いだけなら何とも思わないんだが、そいつ試合中しきりに何か独り言をぶつぶつ呟いててよ。何言ってんだコイツ? と思ってそいつの目を見たときに不気味な違和感を感じた。まるでそいつは対戦相手の俺ではなくと戦っているような不自然さを感じたんだ。そしてそいつ、めちゃくちゃ強くて俺は久しぶりに完敗した」


 試合中に訳の分からない独り言を呟き、県大会に出場するレベルの川崎を倒す実力を持ちながら今まで無名。

 しかも対戦相手の川崎とは違うと戦っているように感じさせる異質さを持ち合わせた奴か。


 ちょっと気になるな。

 めんどくさいと思っていたが、一体そいつがどんな奴なのか一目見てみたい興味が多少沸いてきた。 少しだけどな。


「ふーん。そいつ何校の奴なんだ?」

「お! 颯やっぱ食いついてきたか!」


 食いついたというか、話の流れて的に聞いただけなんだけど……。


「それなら丁度いいぜ! 実は来月そいつの高校と練習試合をすることになりそうなんだよ!」



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