第2話 笑顔が可愛い高梨さん


「そいつの学校ここから近い雪ノ丘高校なんだけど、その高校の顧問がうちの高校の顧問とちょっとした知り合いでさ、練習試合をやれるか今交渉中らしい! 顧問の話だと来月のゴールデンウィークのどこかでやる計画のようだぜ!」


 なるほど。

 練習試合となればそいつを見ることが出来るな。


 この話を俺にするということは、俺もその練習試合を見ることが出来るのだろうか?

 ただ俺は、その練習試合をわざわざ見に行くほど興味がある訳じゃ無いんだけどな……


 俺がそんなことを考えているのを察してくれたのか、川崎が軽く微笑む。


「剣道に興味がある奴がいるって顧問に伝えれば見学くらいなら許可してくれると思うぜ! はやてが好きなオカルト関係とはちょっと違うのかもしれないが良かったら見に来ないか?」


 違った。 全然察してくれてなかった。

 ここまで言われて興味無いから行かないとは言いにくいだろ。


 川崎の奴、わざと断れないように誘導したのか? いや、こいつのことだ。そんな魂胆はおそらく全くない。

 純粋に俺を誘っているだけなんだろう。


 まあどうせゴールデンウィークは暇だし、1日くらい予定が入っても問題ないか。


 俺は渋々川崎の提案に乗ることにする。


「……ああ頼む。剣道にはまったく興味無いが、その独り言野郎には少し興味あるし」

「ハハッ! 剣道興味無いって剣道が大好きな俺に向かって普通言うか? 前から思ってたけどお前のそういう所好きだぜ!」


 そういう所ってどういう所だ?

 思ったことをオブラートに包んだりせずそのまま言う所のことだろうか?


 誉められている気がまったくしないがもう何でもいいや。

 とにかく俺を早く帰らせてくれ。


「じゃあそういうことでよろしくな! 練習試合の詳細とかは決まり次第また伝えるわ!」


 最後に謎の独り言野郎の名前が真壁まかべ 恭矢きょうやということを聞いて俺は家へと帰った。


 仕方ない。

 せっかく行くならちょっと調べてみるか。




 その日の夜。

 俺は真壁について調べてみた。


 しかし、雪ノ丘高校のホームページに写真と共にアップされていた先週の地区大会で優勝した話題しか出てこない。


 有名人でもない人物を調べても得られる情報なんてたかが知れている。

 何か問題を起こしたのならば、今のご時世Twitter辺りで個人情報が晒されているのだろうが、真壁って奴は別に悪いことをした訳じゃない。当然炎上もしていなければ、バスってもいないのだ。



 それなら調べる角度を変えてみよう。

 俺は普段同じ趣味の友人が運営するオカルト情報をまとめているサイトの質問箱に、今日川崎から聞いた話をアップしてみた。


 しばらくしたら誰か答えてくれるかもしれない。答えてくれるのを願いながら布団に入り眠りに着くのであった。




 翌日。

 学校に行き教室に入ると、窓際後方辺りで話をしていた集団の中にいた川崎が俺に気づいた。

 川崎は親指と人差し指そして中指の3本の指を立てて銃のような形を作り、顔の真横に上げて「ヨッ!」とでも言うように合図をした。


 その仕草が妙に様になっている。俺が同じようにやっても、どうせぎこちなくなって何やってんだ? と突っ込まれる未来しか見えない。


「昨日の話なんだけどさ! ゴールデンウィーク3日目の昭和の日に雪ノ丘高校でやることが決まったぜ!」


「おお。そうか」と俺は答え、昨日軽く真壁のことを調べたが何も得られなかったことを伝えた。


「真壁のこと調べてくれたんだな! 俺も他校の知り合いに真壁のことを聞いたりしたんだが誰も知らないようだった。まっ! 当日のお楽しみってやつだな!」


 川崎はそう言って、無駄に様になっているウインクをして再び集団の中へと戻っていった。






 雪ノ丘高校との練習試合を見学する当日。



 今日まで俺は主にオカルト方面で情報を探っていた。その結果いくつか気になる情報を得られた。


 しかし詳細を調べてみると、川崎の話とは相違点があったり、まったくのガセネタなどがほとんどであり、これといって有益な情報は得られなかったのだ。


 川崎が言ってたように見てからのお楽しみだな。



 現在の時刻は朝9時。

 俺は川崎の家の車に乗せていってもらうことになっていたので、集合場所である川崎の家の前にいた。


 川崎の家は2階建ての一軒家。

 外観は白を基調とした建物で、庭も綺麗に手入れされている。

 築20年のアパート住まいの俺の家とは違う。 まあ特に不満がある訳じゃないけど。


 また、川崎の家から最寄り駅は徒歩5分の所にあるようだ。家の周りには大型スーパーやコンビニなどがいくつかあり、来る途中に大きな書店も見つけた!

 最寄り駅まで行くのに徒歩20分は軽く超える俺の家と比べると立地の良さも明らかに勝っている。



 無性に悲しくなってきたのでもう考えるのは止めよう。



 家の前では川崎の父が車を出す準備をしており、ちょうど剣道の用具を車に積んでいる所だった。


 川崎は俺に気づき声をかけてきたので、そちらに向かおうとすると、車の助手席から1人の女の子が降りて声をかけてきた。


「やっほー! 颯くんもに興味があって来たんだよね?」



 …………誰ですか?



 俺は川崎の方へ向き直すと、川崎はやれやれといった感じに説明をし出した。


「すまんな。コイツも付いて来るんだとよ」

「コイツって言うなし!」

「はいはい」


 誰だか分からないが、川崎の知り合いだということは分かった。


 身長は俺の肩ぐらいだからおそらく155㎝くらいだろうか? 茶髪のショートボブに、服装は俺と同じ味美高校の制服を来ている。


 彼女は俺の方を向き丁寧に自己紹介をしてくれた。こんな俺にもわざわざしてくれるんだから、きっといい子なのだろう。


「私は味美高校3年の高梨 聖恵きよえです! 秀くんに話を聞いて新聞部として取材に来たの。って言っても改めて自己紹介しなくても颯くん知ってるよね! 久しぶりだね♪」


 ……え? 俺彼女のこと知ってるの!?


 目の前にいる女の子が誰なのか全く思い出せずにいると、彼女は「え? ……まさか覚えてないの!?」とでも言わんばかりに呆れた表情を浮かべた。


「えっと、去年2年生のとき1組で一緒のクラスだったよね?」


 ああ、俺は1組だった。

 しかし、同じクラスの女子はほとんど覚えていない。


「しかも前期は私と颯くん同じ美化委員だったよね!?」


 多分美化委員だった気がする。

 しかし、じゃんけんに負けて余ったやつにしたから記憶にない。


「後期は一緒に数学係やったじゃん……」


 そんなに俺彼女と関わりあったの!?


 目の前の女の子は一生懸命今までの俺との関わりを説明してくるが、俺は一切記憶にない。よくそんなに自分でも自覚するほど影が薄い俺のことを覚えているな。

 表情一つ変えない俺の顔を見て、彼女は完全に忘れられていたことに気付き悲しそうな顔をする。


 すまん。悪気は全くないんだ。


「ひどーい! 私はちゃんと覚えてるのに!」


 酷いと言われても覚えていないものは覚えてない。


「はぁー……とりあえず私も今日は一緒に行くから! よろしくね♪」


 そう言い彼女は満面の笑顔で答えた。


 俺はその笑顔を見てあることを思い出す。

 確か、笑顔が可愛いということで去年クラスの男子の中で話題になったことがあったような…………



 高梨さんの笑顔が強く印象に残ったのだ。

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