第6話 どこか様子がおかしい高梨さん

 お茶会イベントは滞りなく終わり、参加者は茶道部員の案内で校舎の外まで出て解散となった。


 俺らはこれから茶道部員の人に取材をする予定なので畳の部屋に残り、今から話を聞くところだ。

 隣ではメモ帳とペンを鞄から出して取材する準備万端だ! とでも言いたげに胸を張る高梨さん。


 どこか楽しそうにしている彼女を見て俺は、彼女は新聞部としての取材活動が好きなんだろうなと思った。



「味美高校新聞部の方ですよね……? 本日はご参加ありがとうございます」


 取材には、先ほど司会進行を務めていた女子生徒と2人目に自己紹介をしていた男子生徒が対応してくれるようだ。


「それじゃあいくつか質問させてもらいますね!」

「はい。えっと、よろしくお願いします」


 2人は緊張した面持ちで答える。

 まあ、初めて会った他校の生徒にこれから取材をされるとなると、おそらく初めての経験だろうし緊張するのはよく分かる。


「あっそんなにかしこまらなくていいよー。 気楽に答えてくれればいいからね♪」


 高梨さんの発言により、茶道部の2人の表情がやや柔らかくなったように感じる。


 これは高梨さんなりの緊張をほぐす方法なのだろう。

 自分からまずため口で話すことによって、相手も気軽に話せる空気を作り出したのだ。



 それから高梨さんは、普段どんな活動をしているのか、また部員の話や今後開催のお茶会の内容や予定などを聞いていた。


 俺は隣で「へー」や「なるほど」など適当に相槌を打ちながら話を聞いていた。

 さっき高梨さんからは、何もしなくていいと言われたが、ただ聞いているだけでは申し訳なく感じてきたので、話を聞いていてふと思い付いたことを質問してみた。


「俺からも質問いいですか?」

「え……? はい。どうぞ」


 今まで黙っていたのに突然話出したことで驚かれたのだろうか? 清水さんに「え?」と言われたことにやや傷ついたが、ノーダメージの振りをして続ける。


「お茶会のイベントってどこかで宣伝してたりするんですか?」


 俺の問いに男子生徒の方が答えてくれる。


「僕達茶道部のサイトがあって、そこでイベントの概要や日程などを載せてます。それに高校の公式サイトからも宣伝してもらったりもしてる感じです」


 男子生徒の話に高梨さんが「そうなの?」と食い付く。


「そのサイトのURL教えてもらってもいいかな? 新聞で紹介するよー」

「はい! ぜひ紹介してください!」


 俺の質問でちょっとは高梨さんに貢献出来たのだろうか? そうだとちょっと嬉しい。



 最後に、いくつか写真を撮らせてもらい取材は終了した。




 茶道部の取材を終えて廊下を適当に歩いていると、隣で歩いていた高梨さんがスッと1歩前に出て俺の方を向いた。


「さてさて。 目的の取材も終わったことだし! 真壁くんのことを調査しに行っちゃいましょうか~♪」

「調べるって言ってもどう調べるんだよ?」

「うーん。 剣道部以外の真壁くんの友人を探して話聞いてみるとか。 かな?」


 まあそうでしょうね。

 調べるからといって図書室に行って文献を探すわけにもいかないし、剣道部は今うちの高校と練習試合中なので部員に話を聞くことも出来ない。

 当然だが、剣道部以外の真壁の知り合いを探しだして話を聞くくらいしか出来ることは無いだろう。


「それよりもさ……」


 高梨さんが今までよりも声のトーンを下げて呟くように聞いてきた。

 うん? ……何だろう?


「真壁くんのこと調べるのには何も言わないんだね」

「…………え?」


 予想してなかった言葉に俺は上手く反応出来ない。

 何も言わない? とはどういうことだ?


「だって颯くん武道場を抜け出すときに躊躇ちゅうちょしてたから、個人的な興味で調査しようとすることには当然のように反対してくると思ってたから」


 うーん……? いまいち高梨さんが言いたいことが分からない。

 確かに抜け出すことに罪悪感は抱いてはいたが、許可をもらっているのなら問題は無いし、既に抜け出てきてしまっているので今更気にしても仕方ない。


 それに…………

 俺はもう1つの理由を彼女に伝えた。


「さっきから高梨さんを見ていると、俺がNOって言ってもどうせ、あーだこーだとそれっぽい理由付けて俺を上手く丸め込んで連れて行こうとするでしょ。 または1人でも調査しに行くよね? それなら俺も真壁のことは気になってるし着いていこうかなと……」


 そこまで言うと高梨さんは少し驚いたような表情を見せ、今まで見せてきた笑顔とは違って、どこか自然に出た笑顔というかなんというか……俺の語彙力が足りない。


 そして高梨さんは優しく微笑み、独り言のようなボリュームで呟く。


「そっか。 颯くんって思ってたより面白かも」


 え? 何それ? どこが面白いんだ!?

 高梨さんが言う面白いの意味が全く分からず聞こうとするが、既に数歩歩き出していた。


「一緒に調査しに行きたいなら早く行くよー!」


 俺が返事を返すのも待たずにスタスタと歩いて行ってしまう。


 ちょっと待ってくれ!

 高梨さん言ってる意味分からないよ!?


 それに今からどこ行くんだよ!?




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