第5話 茶道部の清水さん
「真壁くんの情報を集めるついでに、この学校を一緒に探索してみない?」
「探索……?」
「うん。探索!」
探索って言われてもピンとこない。
別に俺は探索という言葉事態を知らないとかそういう話ではない。
俺らは今、見学という名目で雪ノ丘高校の剣道部の活動を見ているんだぞ?
それなのにどこか他の所へ行ってしまうのは
俺の表情を見てなのか、高梨さんはさっきまでの嬉しそうな顔がやや曇る。
「
「乗り気じゃないというか、どっか行くのは不味いだろ? 見学させてもらってる身なのに」
「あー。それなら大丈夫だよ! 私今許可取って来たもん!」
いつの間に……それでさっき高梨さんは小島先生の元へ行っていたのか。
まあ許可がもらえたのなら、俺も正直少し退屈していたし行ってもいいかもしれない。
「小島先生も午前中は主に基礎練習で暇だろうし、雪ノ丘高校の迷惑にならないなら問題ないって言ってたよ! それに私やることあるし」
「やることって何?」
「そうだね……。 行ってからのお楽しみにしよっか♪」
嫌みが全くない笑みを浮かべる高梨さん。
高梨さんの言う「やることがある」という言葉が気になったこともあり、俺は高梨さんに付いていくことにした。
「えーっと。 ここから入れるかな?」
俺は高梨さんに連れられ、校舎の中に入れる入り口を探していた。
高梨さんが目星をつけたのは生徒が使っているであろう昇降口だ。
ここは止めておいた方がいいと思うんですけど。
「ここから勝手に入るより職員室に許可をまず取りに行った方がいいんじゃないの?」
高梨さんは昇降口を開けようとする。
あのー。 俺の話は無視ですか?
「ふーん。 開かないねー。 やっぱ職員室行こっか!」
休日なので当然のように施錠されている。
だから言ったでしょうに……
職員室へ向かうべく2人で下駄箱を跡にしようとすると、後ろから高校の教師だと思われる女性が声をかけてきた。
「あなたたちそこで何してるの?」
俺は「えっ? あ、その……」としどろもどろになる。
どうするんだよ高梨さん! と言おうと彼女の方を向くのと、それと同時に高梨さんは一歩前に出る。
「私達茶道部に用があるんですけど」
え!? 茶道部!? 何それ……?
何をするのか聞いていなかったので高梨さんの返答に驚きを隠せない。
さっきすることがあるってことと関係するのだろうか?
女性教師は先程まで俺らを不審に思っていたようだが、茶道部という言葉を聞いたところでその表情をガラッと変えた。
「あ! お茶会ですね。茶道部のお茶会に参加するのならば、この裏にある入り口なら鍵が開いているのでそちらからどうぞ」
高梨さんは「そうですか! ありがとうございます!」と言った後、教えてもらった裏口の方へ黙々と歩いて行ったので、とりあえずその跡を追った。
裏口に到着すると、高梨さんは迷わず校内へ入って行く。
俺はそれに置いていかれないように付いていった。
「あのー高梨さん? 今から俺はどこに連れて行かれるの? さっきのあの教師茶道部のお茶会がどうとか言ってたけど……」
「もうバレちゃったし言うしかないね」
高梨さんはポケットからスマホを取り出し操作し始め、あるサイトを開き俺に見せてきた。
「雪ノ丘高校の茶道部では毎月1回一般の人達が参加出来るお茶会体験があるんだよ! 私は今日その茶道部の活動の取材もする予定だから!」
「へー。 それでさっきあの女性教師は、茶道部という言葉を聞いた途端、俺らの警戒が緩んだのか」
高梨さんは腕を前で組み自慢気に語った。
「新聞部を舐めないでよ! 調査する場所の事前調査は取材の基本なんだから! これでお茶会を口実に校内を周り放題……」
この子今、口実って言ったぞ!?
きっと茶道部の取材に行くのを理由にして、校内を自由に歩き回るつもりなのだろうか?
2人で行動し始めてから、度々上手く理由をつけたり、やや強引に物事を進めていく高梨さんの性格が垣間見えるのであった。
「ようこそ雪ノ丘高校茶道部へ! もうしばらくしたら始まりますので、それまでしばらくお待ち下さい」
現在俺らはお茶会が開催される普段茶道部が利用しているのであろう畳のある部屋にいる。うちの高校には茶道部は無いし、学校でこのような畳のある部屋は初めてだったのでちょっと新鮮な気分だ。
辺りを見渡すと年配の方から小学生くらいの子供達もいて、幅広い年代の人達が集まっているのが分かる。
「あのー高梨さん? 取材と言ってたけど具体的に何するんだ?」
「まずは普通にお茶会イベントを楽しむよ! その後私が事前に考えてきた質問と参加して思ったことを聞く予定。あっそうそう! ちゃんと茶道部の人には取材するアポは取ってあるから安心して」
「そうか。それで俺は何かすることある?」
「うーん。特に無いかな……」
俺はただ横で見ていればいいだけのようだ。それなら問題ない。
高梨さんは川崎と違ってちゃんとアポ取ったりしていて用意周到で頼もしい。
しばらくして、茶道部である1人の女子生徒が立ち上がり号令を掛ける。
「それではお集まりの皆さん。 本日は私達茶道部のお茶会イベントにご参加してくださりありがとうございます。 司会の清水です。周りの迷惑になるような大声で喋ったりはしなければ、私語なども自由にしていただいて構わない和やかな会ですので、気軽な気持ちで楽しんでもらえると嬉しいです。 それでは本日お茶会を担当する私達の方から簡単な自己紹介を─」
隣の高梨さんがふいに肩をつついて小声で話しかけてくる。
さっきもやられたけど、それ急にやられるとドキッとするから止めてくれ!
…………嬉しいけど。
「颯くん。 茶道はやったことある?」
「……いや、まったく」
「だよねー! そうだと思った」
「え? 何でそう思ったの?」
「別に、なんとなくだよー」
「なんだよそれ……」
視線を再び茶道部部員の方へ戻すと、先ほど喋っていた女子生徒の自己紹介は終わり、隣の男子生徒が一歩前に出ていた。
「では次に僕は──」
高梨さんに構ってるうちに司会してた子の自己紹介終わっちまったじゃねぇか。
1番可愛い子だから気になってたのに……。
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