第14話 橋下の告白

「今から約3カ月前。僕がある事情で学校を休みがちな時期があったんだ。その時突然真壁から連絡があった。ただ一言、僕らが今向かっている廃墟に来てくれとね。


 真壁にしては変わった連絡だったから僕は気になって向かったんだ。そこで真壁はあるものを僕に見せてきた。


 それは1冊の本だった。 真っ黒の分厚いカバーに覆われていて、数学のチャート……って分かるかな? それくらいの太さの本で、どこか異様な雰囲気を放つものだった。


 真壁はその本を抱えて僕にこう言った。

「俺、見つけた。《あいつ》にリベンジするための力を! もう負けない」とね。


 最初は何を言っているのか意味が分からなかった。ただ、真壁の言うには心当たりがあった。


 そいつについては今の問題と直接関係は無いから詳細は省くけど、とにかくにとって因縁の相手だったんだ。


 話を戻すけど、僕はその真壁の持っていた本を見せて貰った。そして僕は驚いた。何故かというと、そこに書かれていたのは日本語じゃなくて、僕にはまったく読めない言語で書かれていたから。


 当然真壁も読めないはずだから「この本がどうしたんだ? 何が書いてるか分からないし」って言ってみたら彼は不思議そうな顔をしてこう言った。


「俺も何語か分かんないし読めないけど、涼は何も感じなかったのか!?」と。


 僕には真壁が何が言いたいのか全然分からなかったが、彼が言うにはこの本を開いた瞬間目の前が歪み、言葉では表せない感覚に襲われたようだ。


 物凄い速さと膨大な量の情報に、一瞬気を失いかけたくらいだったらしい。

 そして、気がついたときにはを得ていたと彼は言った」



 次は豊山町、次は豊山町というバスの運転手のアナウンスで橋下の話にすっかり聞き入っていた俺は我に返る。

 橋下が言っていた目的地の停留所だ。


 そのアナウンスに橋下も反応する。


「もう着くのか。ちょっとゆっくり話しすぎたね。話を簡単にまとめると、ある本を読んだ真壁は神秘的な体験をしてを得たっていう話。同じ本を見た僕にはそんな現象は起こらなかった。今もその本は廃墟に閉まってあるんだけど、何度見ても僕には何も起こらないんだ」


「そう……なんだ」


 俺と高梨さんは橋下の現実味がない話を聞いて何も発することが出来ずに、ただ呆然としている。


 俺にはアニメやマンガの世界の話にしか聞こえなかった。そんなファンタジックな話あり得ないだろ! っと言いたい所だが、こんな状況で橋下が嘘をついているとも考えられない。


 それに俺はもう1つ自分の中である感情が芽生えたことを感じた。



 もっと知りたい!

 今の橋下の話には非常に興味がある。という感情だ。


 その本を一目見てみたい。

 橋下の話は、オカルト的などこか謎めいた世界観を好む俺が興味を持つのに十分だった。




 目的地の停留所に到着すると俺らは素早くバスから降り、廃墟まではここから約10分ほど歩くとかかる距離らしいので、走りながら話を再開した。


「信じられないけど、本当に現実に起こったことなんだと私頑張って理解する! だけど、その力を手に入れた真壁くんはどうして今不味い状態なの?」


 確かにそうだ。 力を手に入れた真壁はどういう状況で今緊急事態なのだろう?


「これもまた信じがたい話になるんだけど、真壁が手に入れた力はコントロールすることが相当難しいらしい。 そしてここが不味いポイントなんだけど、その力を使っているとき真壁は…………その、意識がないんだ」


 意識がない……だと!?

 力を使っているとき真壁自身の意思とは違う別の何かが現れるということか?


 それってまさに川崎が言っていた二重人格のような状態に近いと言えるのではないか?


「意識が無いってどんな感じなんだろう?」


 高梨さんの疑問に橋下は何か嫌な記憶を思い出すかのように呟く。


「真壁が言うには力を使おうとした所で記憶が途切れて、気づいたときには周りを破壊した自分だけが残っている状態らしい」


 自分の意識が無いうちに周りを破壊し尽くしてしまう力。それって相当危険だよな。


 俺は橋下が言う緊急事態という意味がやっと分かってきた。


 おそらく川崎との試合の最後に見せたあのあり得ない速さはその力によるものだったのだろう。普通の人間に出せる速さじゃなかったからな。


 しかしそう考えると1つ疑問が浮かんだ。

 真壁は力を使っているとき自分の意識が全くないのなら、試合が終わった後も破壊を続けるのではないのか?


 俺がそのような質問をすると、橋下はこう答える。


「意識がなくなるのは力をすべて使ったときで、使う力を少量にコントロールすれば自分の意識を保ってられるらしい。だけど最近その力が自分の意志を無視してかってに出て来てしまい、まるで何かに自分の体がような感覚だって話をしていたんだ。だから不味いんだよ!」


 橋下は最後声を荒らげるように話し「もうすぐで廃墟に着く」と言って、より一層走るスピードを上げた。


 ここまで来てようやく状況が見えてきた。


 もしかしたら真壁は既にその力をコントロール出来なくなっており、俺らは暴走している真壁を止めなければいけないのかもしれない。


 反則級の異様な力を持った人間を俺らで止められるのか……?

 漠然とした不安を抱きながらも、頭の中でその不安を整理仕切れないまま廃墟に到着した。




 そこは大きな屋敷のような和風建築の面影が残っている建物が2棟あり、所々廃れてはいるが形は残っていた。


 到着してすぐに橋下は、真壁がどこにいるのかが分かっているかのように迷わず右側の大きい方の建物に向かって走っていく。


 そこで高梨さんが声を上げた。


「ちょっと待って! もし力をコントロールできない状態の真壁くんがこの中にいたら、その……橋下くんをどうするつもりなの?」


 橋下はこちらに振り返り既に覚悟を決めたのであろう表情を見せる。


「力ずくでも抑えて真壁の暴走を止めるよ。そして真壁に手に入れた力をしてもらう」

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