2-2. 川のほとり

 参地区にある教会は、赤い煉瓦で作られた三角屋根の建物だ。私の故郷の真っ白な教会と比べれば幾分小さく見えるけれど、青空によく映える色が美しい。三角屋根のてっぺんに立つ白い正方形が、建物と比べて随分鮮やかだ。


 相談会への同行と言っても、相談室の中にまで入るわけにはいかない。

 だから私は、礼拝堂の中にある相談室に並ぶ人たちの様子を眺めていた。他の地区の教会に入ることも滅多にないから、礼拝堂を眺めていると自分がどの地区の生まれなのかを忘れそうになる。


 赤い礼拝堂には、亜麻色の木で出来た相談室が置かれていた。この中で話されたことは、決して口外されない。例えそれが犯罪でも倫理に反していても、公に晒されることはない。

 アオイがかつて皮膚病患者に出会ったのも、この小さな相談室の中だった。


 クアドラートの四つの地区には、一つずつ教会がある。しかし、普段は無人で聖職者がいない。相談会や説法、讃美歌の練習の時だけ聖職者がやって来て、今のように住民たちが集まってくる。


 参地区での相談会は久しぶりだったらしく、教会の外まで住民が列を作っていた。

 牧師に悩みを打ち明ける高揚感で、連れ立った住民同士で相談事を言い合っている者もいる。後ろめたさからか、ただじっとうつむいて順番を待つ住民もいる。


 礼拝堂の中で、何人かの住民と目が合った。私の瞳の紋に気が付いたのだろうか、気まずそうに目をそらす。

 それが何回か続いたので、私は教会の外に出た。



 太陽がまぶしくて目を細める。視線の先で、赤い川が滔々と流れていた。日中に見ても、その赤は燃えるような赤だ。


 参地区の住民たちに出会った火葬場と同じ川沿いなのだろう。大きな川の流れを視線でなぞれば、向こう岸の肆地区が見えた。

 二つの地区の間には、コンクリートで出来た灰色の橋が渡っている。あれが、826年の司教襲撃未遂事件の現場だ。

 私の足は自然と、その橋のふもとへと向かっていた。


 川岸から見上げると、コンクリートの橋脚が青空を背に立っている。

 確かあの事件では、橋脚の数本の下に火薬が仕込まれていた。橋の真ん中あたりに馬車が差しかかった時、それらが爆発して馬車を破壊したのだった。


 そこまでの被害を受けたのだから、橋は既に作り替えられていると思っていた。しかし、よく見れば橋の補修は部分的のようだ。新しいコンクリートで固められたところと、昔から変わらない部分の色がまだらになって、つぎはぎだらけのように見えた。


 録音機をハンカチで何重にもくるんでポケットに押し込むと、私はワンピースの裾をつまみ上げた。そのまま、川の中にあるいくつかの石を伝って、橋脚の下に飛び移る。

 柱の数本は、部分的に焦げたような黒いすすで汚れたままだ。さすがに橋の床板は補強したらしく、コンクリートの色が明るく見えた。何もかも隠し通すような色合いだった。


 橋を下から見上げたまま、私は826年に思いを馳せた。


 どうして教会の馬車を狙ったのか、どうしてパレードの日に襲ったのか。

 紋なき騎士団による犯行だったことは、しばらくしてからの捜査で発覚したことだったが、その後830年までの四年間、紋なき騎士団を誰も見つけることが出来なかった。


 と言うことは、誰も826年の犯行の動機を知らなかったのではないか?

 

 一つの疑問符にぶつかった時、足元がふらついた。

 橋脚の根元が川の水で濡れていたらしい。バランスを崩した私は、そのままおかしな格好で赤い川に身を投げてしまった。


 服が重たい。体が動かない。


 水と言えばプールと運河しかない壱地区に生まれ育った私は、自然の意思で流れる水の動きに対して、何の抵抗も出来なかった。

 ただ水を含んだ体が川に沈んでいくのを、妙に冷静な面持ちで眺めるだけだ。


 想像以上に川は深くて、私はゆっくりと底に落ちていく。

 深くなればなるほど、川の流れは緩やかになる。


 目を開いた時、私の眼前には見たことのない景色が広がった。

 透明な赤が私を覆い尽くして、揺れる水面にはぽっかりと、丸い太陽が白く浮かんでいる。

 底は赤い石で埋め尽くされていて、足が着くかつかないかの所で私は浮いていた。


 頭上を小魚が通り過ぎる。

 魚の白い腹が、チラチラと揺れては消える。

 何の音も聞こえず、流れているはずの赤い川は止まっているようだ。


 不思議と怖くはなかった。ただ、実感が沸かない。

 自分の輪郭が溶けて、水と一緒になってしまうような感覚に陥る。


 川の景色に見とれていた刹那、空を割って泡まみれの何かが赤い世界に舞い降りた。

 それは人の形をしていて、私に向かって手を伸ばしたかと思うと、ぎょろりと私を睨みつけて引き上げたのだ。


 赤い川から顔を出せば、グレーの髪の毛がぺたんこになった男が、私に向かって怒鳴りつけた。


「てめェ馬鹿か! 死にてェのか?」

「えっ? あっ! イェル……」

「イェルハルド!」


 イェルハルドは私の腰にしっかりと手を回すと、川の流れをかわしながら岸まで私を連れて泳いだ。

 陸に上がれば、赤い水をたっぷり吸った洋服が随分重たく感じられる。

 ワンピースの裾を絞ると、私の足元に水たまりが出来てしまう。むせた喉の奥から、赤土の乾いた味がした。


「ご、ごめんなさい! 私のせいで、あなたまでびしょ濡れに」

「ンなこたあなんだっていい。てめェ、死んでねェな?」


 上半身裸になって洋服を絞るイェルハルドが、ぶっきらぼうに聞いてくる。

 相変わらず参地区の抑揚は荒々しい音に聞こえるが、どうやら、彼は自分が水びだしになったことに苛立っている訳ではないらしい。

 それよりも、私が川の中にいたことが不可解で仕方がないといった顔をして、グレーの髪を掻き上げる。

 強面な表情の裏側に優しさが垣間見えた気がして、私は安堵した。


「はい、生きてます」

「あのなァ、姉チャン。水ン中ってェのは、ずっといたら死んじまう場所なんだぞ? てめェみてえな壱地区の奴がチャラチャラ行く場所じゃねェ」

「……えっと、エミリアです」

「ア?」

「エミリアです、私の名前……」

「アア、水びだしのエミリアな。覚えた」

「……すみません。ご迷惑おかけしました」

 頭を下げれば、イェルハルドは一度舌打ちをして歩き出した。

「着いて来い、エミリア」

「え?」

「着いて来いって言ってンだろうが」


 その剣幕に押されて着いて行った先には、屋根つきのベンチがあった。

 座っているようにと言われたまま、私は赤い川と橋、そして煉瓦の教会を眺めていた。川から少し離れたせいか、風もなく居心地がいい。


 イェルハルドは戻って来るなり、私の横にどかりと座り込んで何かを差し出してきた。何も入っていないカップだ。


「てめェ、コーヒー飲めるな?」

「あ、はい」

「ちゃんと持ってロ」

 彼は雑に聞こえる口ぶりの割に、ポットから丁寧にコーヒーを注いだ。

「ウチの豆だ」


 温かなコーヒーを口にする。体が冷えていたことを思い出して、私は一度身震いした。

 すると今度は、イェルハルドがタオルを放ってきた。自分だって濡れたままだというのに。


「壱地区の女に着せるような服、ウチにはねェんだよ」

「いえ、その……ありがとうございます」

「昨日の詫びだ。これで全部チャラにしろ」

「昨日のことは、いいんです。イェルハルドさんが悪いわけではないですから」

「アア。悪ィのは、ゴミみてェな階級だ」


 イェルハルドも、私の隣でコーヒーを飲んだ。

 しばらく何も言わずに、目の前に広がる景色を眺める。


 こんな風に、他の地区の住民と二人きり、参地区の川辺でコーヒーを飲むなんて。もし、アンソニーが知ったらどんな顔をするだろうか。

 そんなことを思っていれば、イェルハルドがタオルで頭を拭きながら聞いてきた。


「てめェ、あんなところで何してた?」

「あ、あの橋が、826年の司教襲撃未遂事件の現場だったなあと思って、様子を見に行ったんです。そしたら、滑ってしまいました」

「馬鹿か」

「あの事件の記録、全然残ってないんです。当時の状況も、被害者の人数も記録がなくて。司教様が被害にあったことだけは、わかったんですが」

「は? てめェあの時いなかったのか」


 その言葉で、私は小さな希望を見つけた気がした。


「イェルハルドさんは、見たんですか?」

「アア、そりゃな」


 それだけ答えると、彼はまたコーヒーを飲んだ。

 横目で見ると、イェルハルドはだいぶ筋肉質だ。胸板の厚さや腕の凹凸が、壱地区ではあまり見かけない、肉体労働者であることを伺わせる。


「私が事前に調べて知っているのは、『司教襲撃未遂事件』は、クアドラートの歴史上初めての、教会への武力攻撃だっていうことです。お祭りの時、当時の司教のパルヴィーンが乗った馬車があの橋に差し掛かった時、爆発が起きたって」

「てめェ、パレード見たこともねェのか?」

「はい。826年でお祭り終わっちゃいましたもんね。当時私、六歳だったので」

「へェ。あんなうるせェモン、見ても見なくてもいいとは思うけどナ」

「そんなに賑やかだったんですか?」


 するとイェルハルドは、橋に視線をやった。


「まァな。空にァ牧師のバイクが飛んでるし、通りには店も出て住民も集まってるし、パレードは聖歌隊も楽器も連れてくるから、うるせェんだよ。そんなモンいたら、どいつもこいつも歌い出すに決まってる」

「確かに、そうですよね」

「だから、橋が爆発した時も、馬鹿が騒いだのかと思ってたンだがな」

「イェルハルドさん、橋にいたんですか?」

「アア、そうだな」


 ため息交じりの言葉は、コーヒーの香りがする。


「あんなモン、初めて見た。馬車がぶっ壊れて、でけェ火が目の前に広がって、住民も牧師も虫みてェに逃げまどってたナ」

「その時、司教様も怪我をしたんですか?」

「あン時はまだ、アイツのことなんザ知らねェ。でも、空からバイクで飛び込んできた牧師が、『それは司教様じゃない、アオイだ』って叫んでたのは、覚えてる。まァ、今あいつが生きてんだから、その後誰かが馬車から引っ張り出したンだろ」


 アオイの名前が初めて記録に残った瞬間だ。普段情報開示に積極的だった教会は、初めての事態を受けて厳しい情報制限を行った。

 もちろん、公式な被害状況の開示はなく、先述の聖職者の発言を受け『馬車に乗っていたのは司教ではなく代理だった』と認めた以外は、教会側の死傷者数や名前について一切公表しなかった。


 馬車に乗っていた者がアオイであることも、なぜパルヴィーンが乗っていなかったのかも、教会からの見解は述べられていない。

 アオイが馬車に乗っていたとするのは、イェルハルドも覚えている、聖職者の言葉だけだ。


「どうして、司教様は馬車に乗ってたんでしょうね。当時、まだ十四歳ですよ」

「俺がンなコト知ってるわけねェだろ」

「それはそうですけど……。記録には残ってなくて」


 目の前に見えるのは、赤い川と橋。今はもうないお祭り。

 パレードの賑やかさなんて、どこにも残っていない。


 私は、川に落ちる寸前に浮かんだ疑問符を思い出した。


「どうして教会の馬車を狙ったんでしょうね」

「パルヴィーンをぶっ殺したかったからじゃねェの?」

「でもそれって、紋なき騎士団の犯行だと発覚したから、わかったことでしょう? 830年までの四年間、紋なき騎士団を見つけることなんかできなかったのに、どうして826年の時点で、この事件に『司教襲撃未遂事件』と名前が付いたんでしょうか」

「詳しくは知らねェが、パルヴィーンはお偉い連中に嫌われてたンだろ? 恨み買うのは当たり前だ」



 ──パルヴィーンが襲撃された理由として推測されたのは、その政治姿勢だ。生前の彼は、かなりのタカ派として知られている。


 一番わかりやすい例で言えば、議会のスピーカー使用の却下率の高さ。

 当時はまだ、クアドラートの各地区にスピーカーがあったが、零地区も含め各地区のスピーカーの使用権限は、教会に集約されていた。

 議会で可決された法案やその他事項は、スピーカーからの放送をもってクアドラート住民に承認されたものとされる。


 パルヴィーンは在任中、申請のあったスピーカー使用のおよそ四割を却下した。それらの主な理由は、法案決定までの経路が不明瞭だ、一部の地区に利益が偏り過ぎだといったものだ。


 それまでのクアドラートでは、議会を通ればスピーカーで流せるのは当たり前とされてきたため、パルヴィーンの姿勢はかなり物議を醸した。しかし結局、住民が支持したのはパルヴィーンの方だった。


 長い間、議会の言うことをすんなりと受け入れていた教会が、議会と対等に議論し、時に結果を覆すこともあった。


 そうした状況に鑑みて、司教が恨みを買うのはやむを得ない。住民たちは、どこかでそう認識していた。──



「……でも、やっぱり」

「おい、エミリア」


 急に名前を呼ばれて見れば、イェルハルドの視線の先に、教会からこちらに駆けてくるアオイの姿が見えた。


 アオイは私たちがいるベンチの前に立ち、瞳の紋が零れそうな顔でこちらを見た。

 瞳の鐘が鳴り響きそうな勢いで、私とイェルハルドの間で視線を揺らす。


「わあ! 二人ともどうしたのさ?」

「こいつが、川に落ちやがった」

「ええっ? 何があったんだい」

「あの、橋を見に行ったら、足を滑らせてしまって……」

「そっか。怪我はないかい?」

「大丈夫です。何も」

「ああ、よかった! イェルハルド、ありがとう。エミリアが無事なのは、君のおかげだ。行列も短くなってきたし、君は帰って大丈夫だよ」

「アア、そうさせてもらうぞ」


 すると、イェルハルドはあっさり立ち上がって、そのままバイクにまたがってどこかへ行ってしまった。


 頭から足の先まで水に濡れたままの私は、涼しい顔をしているアオイと顔を見合わせて、急に恥ずかしさを覚えた。


「し! 司教様、すみませんでした。勝手なことをして……」

「正方形の裏側に行かなきゃあ、別にいいさ。でも、さすがに怖かっただろう? 心は大丈夫かい?」

「それがちっとも怖くなくて。……イェルハルドさんの方が、ちょっぴり怖かったです」

「あはは。彼は真面目で優しいからね。君のことを助けたかったんだよ、きっと」

「また改めて、お礼を言いに行きます。タオルもコーヒーも、いただいてばかりなので」

「そうだね。また遊びに来てあげてよ。きっと喜ぶ」


 そこまで言うと、アオイは私のことをぐるりと見渡して笑った。


「本当にびしょ濡れだね。コート、羽織りなよ」


 その言葉に私は思わずのけぞりそうになる。力いっぱい手と首を横に振って、

「こんなことで司教様のコートをお借りするなんて、出来ません!」

 と、コートを既に脱ぎ掛けていたアオイを必死で制した。


「すみません! あの、帰りは馬車で帰るので……」

「え、なんでだい?」

「行きみたいに、司教様のバイクに乗せてもらったら、その……。司教様の御召し物やバイクまで、濡れてしまうので。あ、馬車の代金は新聞社の経費で出しますから」


 私が一通り言うと、アオイは呆れたように眉を下げてから、弾けるように笑った。


「なあんだ! そんなことか!」


 そのままアオイはコートを脱ぎ、こちらに放った。顔を覆ったコートを避けた時、私は息を飲む。

 アオイは川に向かって駆け出していたのだ。

 細い背中が、歌でも歌うかのように楽しそうに舞っている。


 そうかと思うと、アオイはそのままの勢いで川に飛び込んだ。

 赤い川にアオイの体が消えて、波が一度立つ。何事かと思った。


 私は慌てて後を追い、川を覗き込んだ。上から見ると、黒い人影がゆらゆらと揺れている。


「司教様!」


 私が慌てて手を川に突っ込めば、勢いよくアオイが顔を出した。

 その拍子に私は尻もちをついて、水の中から顔を出したアオイと視線が交わった。アオイは、笑っていた。


「これで君と同じだ!」

「え?」

「だから、気にしないでってことさ」


 川から岸に上がりながら、アオイは軽く頭を振った。髪から舞った水が、きらきらと宝石みたいに光って消えていく。

 アオイの細い体に、ぴたりとシャツが張り付いている。元から細身に作られたズボンは、幾分重たそうだ。


 アオイはシャツの裾を軽く絞ってから、歌うように言った。


「そう言えば昔、どこかの川で子どもが溺れてたのを助けて、びしょ濡れのまんまで壱の貴族との会合に行ったら、すごくびっくりされたんだよ」

「そんなことがあったんですか?」

「うん。テイラーにこっぴどく叱られたよ。『あんな格好で行って、よく歌が認可されたね』ってぷんぷん言うんだ」

「歌が認可されたって、どういうことですか?」

「ああ、讃美歌のこと。特に歌詞だね。あれってさ、音楽家じゃあなくって司教とか貴族が考えた言葉なんだよね。それを元に音楽家が歌を作って、多少歌詞を調節する。歌が出来たら、司教と壱の貴族と教会の幹部数名から認可をもらわないと、讃美歌にならないんだ。その認可をもらう打ち合わせに、わたしがびしょ濡れで現れたから、テイラーが怒っちゃって」

「それはそうかもしれませんけど……」


 アオイの話し声が、私の中の動揺を消し去って行く。

 アオイが私に笑いながら手渡したのは、二人でびしょ濡れでいることの滑稽さ。どんな時でも笑っている者が生き残る、アオイがいつか口にした通りのことだ。


「まあ、カミーユならきっと怒らないから大丈夫さ。ほら」


 教会から、カミーユが駆けてくるのが見える。相談会は休憩に入ったのだろうか。


「ご無事ですか?」

「やあ、カミーユ」


 上機嫌なアオイとは裏腹、カミーユは眉をひそめて怪訝そうな顔で私とアオイを見比べている。

 びしょ濡れの私と、同じくびしょ濡れのアオイ。


「イェルハルドさんは、エミリアさんが川に落ちたっておっしゃっていましたが……。司教様はどうされたんですか」

「川に飛び込むとコーヒーが貰えるって聞いてね。ほら、あそこにポットがある。せっかくだから飲んで帰ろう」

「そんなカフェは聞いたことがありませんよ」


 カミーユの返事を聞くより先に、アオイはベンチの方へ駆けて行ってしまう。


 その様子に呆気に取られていれば、隣でカミーユの声がした。


「エミリアさん、僕が言った通りでしょう」

「え?」

「実に困った人なのですよ、司教様は」


 向き直ったカミーユは、溶けたアイスのように笑った。

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