第6話 見つめる
図書館の隅っこに埃が被った国史ではなく、日本史と書かれた本棚を見つけた。
なぜ国史ではなく、日本史なのか?疑問に感じた。
『歴史シリーズ激動の昭和史』という本が目に入った。手に取り本を開けると年表が書かれており、1945年08月15日に終戦の文字があった。俺の出撃日が07月15日、死んだのは終戦の一カ月前だったということを知った。
一ヶ月出撃が遅れていたら、生き延びれたのにな……
これは何だ?
キノコのような形をした雲が写っている写真が大々的にあった。そこには原子爆弾と聞いたことのない名前が書かれている。広島と長崎に落とされたそれは、一瞬にして多くの命を奪った。その破壊力は凄まじく、現在でも主要国は保持しているが、使用せずという状態が続いている。今の所、日本は唯一の被爆国となっている。
非戦闘員を殺さないという条約はどうしたのだろうか?日本は原爆以外にも数々の空襲を受け多くの民間人が殺された。しかし、本を見る限りそれを追求している文字は無かった。
勝てば官軍だもんな
原爆を投下された数日後、日本は無条件降伏したらしい。その時国民は初めて天皇陛下の声を聞き、皆が涙を流した。しかし、降伏後ソ連が攻めてきて、未だに領土は奪われたままだ。占守島の彼らがいなければ、北海道も奪われていただろう。それにシベリアでの強制労働もひどいものだ。大勢の仲間が死んだ。中国や韓国もひどいものだ。多くの日本人女性は性の道具にされた。
俺はここで一旦本を閉じた。衝撃の数々を受け止めるには少し時間がかかる。ふと、横を見るとシワシワのおばあさんが本を手に取った。
『ありがとう特攻隊員〜彼らの輝き〜』
著者 山本晴子
えっ、山本晴子
晴子さんの旧姓は太田だったが、俺と結婚して山本になった。もしやと頭をよぎった。シワシワのおばあさんが本を戻してすぐにその本を手に取った。
間違いない、晴子さんだ
そこには年老いている晴子さんの写真が写っていた。年を取っても美しく、俺の知っている晴子さんのままだった。俺は冒頭に書かれた言葉に涙を堪えきれなかった。
最愛の夫、賢治さんへ送る。貴方達、勇敢な日本軍のおかげで日本は救われた。日本軍の皆様本当にありがとう、ありがとう、ありがとう
冒頭には感謝の言葉が多く綴られていた。紹介文を読むと晴子さんは戦後、特攻隊員遺族の会の代表を務めたそうだ。息子は自衛官になって国のために働いているとも書いてあった。戦後日本軍は解体されたそうだが、自衛隊という組織があるらしい。
あ、あ、ありがとう
滝のように涙が溢れありがとうとしか言えなかった。晴子さんは相当な美人だった。俺と結婚してくれたことは奇跡としか言いようがない。そんな晴子さんだが、戦後多くの誘いがあっただろうに再婚はせず山本のままでいてくれた。それに、息子も立派に育て上げ、今では陸上自衛隊のトップだ。
俺はその本を全て読もうと思った。震える手をなんとか抑えて、涙で見えない目を懸命に開き、読み始めた。
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