第42話 本土

志願者達は翌日、墓場の一歩手前である基地へ向かって旅立って行った。彼らの見送りに出向いた俺達だが、手を振るばかりで何もすることはできなかった。彼らは見送りに出向いた俺達に笑顔で礼を言い、これからの日本を頼んだぞと言わんばかりに力強く、勇ましい敬礼姿だった。彼らの目に俺達はどのように映るのだろうか?


腰抜けか


卑怯者か


臆病者か


それとも……


「俺達、腰抜けだよなあ」


「ああ……」


俺と治郎はこのやり取りを何回したのだろうか。それほどに罪悪感に満ち溢れていた。あの場で俺もと一言、発せなかった罪は心に深く刻み込まれ永遠に消えることはないだろう。


「時間だな」


「おう」


時間になり大部屋へ向かった。今日、それぞれの戦場が発表される。南方へ向かうのか、中国か、それとも本土か。皆が発表の時を待っていた。


「山本、貴様は本土に残ってもらう」


意外な発表だった。すぐさま、命令に楯突いた。


「何故なのです?自惚れながらこの中で、一番腕があると確信しております。私は前線へ出て一機でも多く敵を撃つために、この身を捧げたく思っております。どうか前線へ行かせてください」


「何を言っとる、馬鹿者が。本土決戦に備えて、貴様のような優秀な者を前線へは送れん。これは命令だ」


「しかし、私」


「命令が聞こえんのか?」


上官に楯突くなど言語道断である。上官の鬼のように鋭い目と怒鳴り声で俺の意見は遮られ、淡々と次の者の配属先が発表された。


「では、健闘を祈る」


多くの者が激戦地へ向けて旅立つのを治郎とともに見送っていた。治郎も俺と同じく腕を買われ、本土への配属が命ぜられた。


「俺達なら多くの敵を落とせるのにな」


「そうだな……

それに前線へ向かった多くの者が新兵じゃないか。本土に手練れを置いておきたい気も理解できるが、これではますますアメリカには敵わないだろうな」


「上官達は本土決戦、本土決戦と言うが、本当にそんな事があるのか俺は疑問だ」


「どういうことだ?」


治郎は不思議げな顔で俺を見る。


「それまで持たないってことさ。本土に敵が来る頃には武器も兵隊もほとんど何も残ってはいないだろう。油不足も深刻じゃないか。これでは到底戦えない」


「ああ、そういうことか」


あと何年日本は持つだろうか。いや、何ヶ月、何日の間違いか。


日本の未来は暗く、俺たちの未来も暗かった。







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