第41話 命、大戦果
汽車を降りてから、バスに乗り目的地である基地に着いた。ひとまずここで待機し、各々の戦場へ向かうことになっている。門をくぐり、兵舎の階段で偶然、治郎と会った。
「ただいま」
「お帰り。しっかり親孝行してきたか?」
「おう。もう会えないかもしれないからなあ」
「そうだな……」
一足先に治郎は戻っていた。彼は休暇中、自らが通っていた孤児院で身寄りのない子供達の面倒を見ていたそうだ。面倒見の良い彼は子供達から愛され、治郎兄ちゃんの愛称で呼ばれている。
「早く戦争が終わってほしいものだ」
治郎の夢は今も変わらず、孤児院を建てることだ。戦争が終わればすぐに建てれるよう、自ら建築学を学んでいるほどだ。
「集合!」
集合の合図が鳴り、俺達は大部屋へ向かった。休暇を終え、まるで死ぬ準備が整ったかのような顔ぶれの男達が所狭しと大部屋に入って来た。
「先日、特攻により大戦果を挙げた」
上官が大声で話した。辺りはざわつき、俺と治郎も戸惑っていた。ある兵士が質問をした。
「特攻とはいかなるものでしょうか?」
「そのままの意味だ。爆弾を抱えた飛行機で敵に突撃する」
「それでは……」
「そうだ。搭乗員は必ず死ぬ」
重い空気が部屋を包み込み、死ぬ準備を終えた男達でさえ戸惑いを隠せてはいなかった。その時、いかにも若く、おそらく最年少であろう者が言った。
「特攻を志願致します」
なんと勇敢な者だろうか、必ず死ぬ作戦に真っ先に志願した彼を皆の視線が捉えた。
「他に居ないか?」
上官が言葉を発した後、沈黙が時を支配していた。必ず死ぬ作戦に志願するなど、並大抵の者にできるはずがない。いや、強靭な精神力を持っている者でさえ、できないだろう。
「他に居ないか?」
再び上官が言う。
「私も志願致します」
「私も」
「私も」
沈黙をかき消すほどに、志願し始めた。恐怖のあまり足が震えている志願者も居る中、俺は志願することができなかった。
結局この日、十名が志願した。特攻隊員の選考には規定があるらしく大まかに言うと、親一人子一人の者、長男、妻の居る者は特攻隊員になることができないらしい。しかし、このような規定はすぐに無くなることなど誰の目にも明らかだった。
「志願者達よ、光栄に思う。俺も必ず後に続く。では、解散!」
部屋から出て行く臆病者か腰抜けか、それとも正常者の背中は小さく見えた。反対に志願者の背中は大きく、神々しくも感じられた。彼らを心から尊敬するとともに、謝っていた。
すまない、すまない、と……
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