第53話 願い

「未来の日本はどうなっているんだろうな」


「さあ、わからん。お前はどうなっていて欲しい?」


「皆が幸せに生きていける世界。戦争や貧困に苦しむことなく、笑顔で生きていける世界。治郎は?」


「お前と同じだ。子供達が露頭で迷うことなく成人し立派な大人になれる世界がいいな」


「そのためにはこの戦争どうするべきだと思う?」


「それは……」


治郎は言葉に詰まった。すかさず俺もわからないと答えた。


日本は建国以来敗けたことがない勝ち続けてきた国だ。勝った後の経験ならあるが、敗けた後の経験は誰一人として持っていない。


どこまで許容し、耐え抜くのか。国として人として決して捨てられないものを守り抜くことができるのだろうか。


敗戦国として他国の思いのままに弄ばれるのだけはごめんだ。国の誇りを失うのも嫌だ。先人達が築きあげてきた日本の心を、魂を、野蛮だと軽蔑され戦勝国が望むものに変えられてしまってはたまったものじゃない。


そもそも戦勝国は戦争に勝っただけであり、勝った方が全て正しいとは限らない。例えば、黒人、アジア人差別は世界中で深刻な問題だ。


国際連盟で人種差別撤廃を一番最初に訴えたのは日本だ。人として日本は正しいことをした。しかし、アメリカやイギリスの反対などにより、日本の願いが叶うことはなかった。


日本が戦っている国は世界でも特に差別意識の強い国々だ。皆がそうでないのはわかっている。しかし、多数が差別意識を持っている以上、日本に対する扱いはドイツやイタリアよりも強いはずだ。家畜以下の扱いを受けるかもしれない。


「日本が一番酷い扱いを受けるだろうな」


「仕方ないさ、奴らからみれば俺達は所詮アジア人だからな」


「ほんと馬鹿げた話だ。外見だけで人を判断しやがって」


「そうだな」


日課のようにサイレンが鳴った。


「毎日毎日好き放題飛びやがって」


「今日も死ぬなよ」


「お前もな」


サイレンからものの数分で飛び立った。今日もまだ死ねない。


多数の敵機が見える。空飛ぶ城のような爆撃機に挑むのは小さく古びており、汚れている機体。まるでアメリカ人が想像する日本人のようだ。


爆撃機を狙うも護衛機が必死に食らいついてきて、爆撃機に集中できない。航続距離の短い護衛機はおそらく硫黄島や沖縄から飛び立ったものだろう。


爆撃機からどんどんと引き剥がされる。


この護衛機しぶといな……


今戦っている特徴のある模様をした護衛機はかなりの手練れだ。これほどにまで苦労をしたのは久しぶりだ。右に左にと自由自在に操っている。友軍機が助太刀に来てくれたが、間も無く奴に堕とされてしまった。


結局、奴とは決着がつかず離れてしまった。


今日も俺達は日本の空を飛んでいた。



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