第2話 死んだ
ここはどこだ……
見たことのない景色、感じたことのない感覚に襲われていた。
そうか、これが死ぬってことなのか
俺は自らの死を受け入れ、ふと人生を振り返ってみた。考えてみれば短い人生だったが、それなりに充実していた。後悔はないとは言い切れないが、良い人生だった。心残りがあるとするならば父や母よりも先に死んだこと、晴子さんを残して死んだこと、赤子を残して死んだことぐらいだ。
俺は残された人々は今後どうなるのだろうかということで頭がいっぱいになった。
そう遠くない将来、日本は必ず負ける。おそらく無条件降伏だろう。降伏を受け入れた後、天皇陛下は無事でおられるのか?いつの時代も同じく、女性は性の道具にされ、男性は処刑か強制労働をさせられるのか?
俺の命は日本のために捧げた。もう何もできることはない。今後、日本のために何もできないことが悔しい。
「おーい」
遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。
「おっ、治郎。俺らで空母沈めたな」
「お前流石やったな、俺はその前に死んじまった」
「お前との日々の訓練の賜物や。一矢報いることができてよかった」
「おう」
俺と治郎は死んだ後、無事に再会することができた。周りからは同じ隊の上官や部下の声が聞こえた。
「隊長、空母を沈めました」
「ようやった。ワシは駆逐艦やったわ……」
「僕なんて、遥か手前で撃墜されました」
「僕もです」
俺は隊長や部下に何も言い返すことができず、ただ敬礼をした。声から察するにあの日飛び立った小隊は全員死んだ。戦果は俺達のやった空母と隊長がやった駆逐艦のみだった。これでもこの時期にしては十分すぎる程の戦果だろう……
俺達は約束の場所へ向かった。約束の場所とは先日飛び立った特攻隊員達が決めた、靖国神社で一番大きな桜の木の下だ。
俺は空を飛んでいるかのような不思議な感覚を感じながら靖国神社へ向かっていた。
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