第19話 連日、連日
連日、新聞やラジオでは日本軍の快進撃が報道されていた。無敵の日本軍は未だ負けを知らず、大東亜共栄圏のスローガンのもと、どんどん欧米諸国の植民地を解放している。
「いつまで快進撃が続くかのお」
「そう長くは持たないでしょう。すぐに劣勢に立たされると思います」
「そうじゃのお、今回ばかりはなあ……」
日本の行く末を思うと父と俺の心は冷たく、寒かった。
父と食堂の開店準備をしている所だ。俺は床や机を綺麗に拭き、父は食材のチェックなど、在庫管理をしている。
「賢治、そろそろ開けるか」
「はい」
俺は入り口を開け営業中の札を立てた。
店の前には既に数人が並んでおり、ほとんどが常連の客だ。
「いつものやつちょうだい」
「焼き魚定食ですね」
おじさんは新聞を開き、日本軍の勝利に喜んでいた。この日の記事にはラバウルを占領したと書かれていた。新聞には日本軍の占領地域が書かれていたが、その広大さはとうてい維持できるものとは思えなかった。それほど戦線は拡大していた。
「賢治君もいつかは召集されるかもね」
「そうですね。来たる日が来れば国の為、立派に役目を果たすつもりです」
「まあ長男で留学経験もあるし、よっぽどのことがないと、召集されんと思うけどな」
俺はそんなもの関係ないとわかっていた。今は戦況が良いが、すぐに劣勢に立たされる。その時は長男だろうと関係なく召集されるはずだ。いや、絶対にされる。それなら自分から行ってやろうと思い始めていた。
俺は昔から広大な空を飛んでみたかった。それに、大地をひたすら走り回るのも嫌だったということもあり、数日間悩んだ末海軍に入ろうと決めた。
「俺、海軍に入ります」
「おう」
父はたった一言発しただけで、いつも通り開店準備をしていた。
俺は来週、家を出て海軍に入隊することも父に伝えた。すると、鬼のような鋭い目で父は言った。
「絶対死んだらあかんぞ。何が何でも生き抜いて、戦後の日本のためにその命使うんやぞ。ええか」
「はい。なんとしてでも……」
俺は仕事が終わり晴子さんの家へ向かい、海軍に入隊することを伝えた。
「なんで、賢治さんが……勝ち目はないのですよ?」
「遅かれ早かれいずれ召集されます。それなら自分から志願した方がマシです。大丈夫ですよ、絶対に死にませんから」
「約束ですからね」
不安げな晴子さんを抱きしめ、家に帰った。
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