第27話

「あんまり遊びに連れ出すべきでないんだろうが……」


 俺は約束の駅前にやってきた。

 愛実ちゃんの姿は直ぐに発見出来た。

 遠目から見ても分かる、今日も昨日に引き続き不機嫌だ。


「えっと……お、お待たせ」


「先輩、やっと来たんですね。女性を待たせるのはどうかと思いますよ?」


「は、はい……」


 いつもの愛実ちゃんなら笑顔で「先輩遅いですぅー」って言って終わりなのだが、今日の愛実ちゃんは何というかしつこい。


「時間にルーズなのはどうかと思います」


「いや、別に時間通りだし、何だったら少し早いくらいだよ?」


「先輩はデートで女性を待たせるんですか?」


「いや、別にデートじゃないし……」


「フン!!」


「ぎゃぁぁぁぁ!! ま、またか……」


 愛実ちゃんは俺の足をヒールの踵で思いっきり踏みつける。

 面積の小さいヒールで踏まれ、俺は足を押さえてうずくまる。


「今はそんな話をしてるんじゃ無いです!」


「きょ、今日の愛実ちゃん……なんだかクレイジー……」


「変な事言ってないで行きますよ!」


「は、はい……」


 なんで俺が怒られてるんだろ?

 俺はまだヒリヒリと痛む足を引きずりながら、愛実ちゃんの後をついて行く。


「ところで、今日は何を見に行くの?」


「今日はこれです」


「あぁ……これか」


 愛実ちゃんが見せてきたのは、スマホの映画サイトだった。

 R15指定の恋愛映画だ。

 確か、結構際どいシーンとかもあったはずだが……。


「こう言うのって、彼氏と見に来るものじゃないの?」


「仕方ないじゃ無いですか、彼氏居ないんですから」


「じゃあ、女友達とかと行ってくれよ……なんか見終わった後に変な雰囲気になりそうじゃんか……」


「なんですか? 先輩は私ごときに欲情するんですか?」


 やっぱり今日の愛実ちゃんは不機嫌だ、何食わぬ顔でそんな事を行ってくる。

 俺も男だ、正直に言えば美少女の愛実ちゃんには普通に欲情するだろう。

 しかし、そんな目先の快感よりも愛実ちゃんとのこの先輩後輩関係の方が大切なので、俺は愛実ちゃんに酷い事をする気はない。

 だから俺は愛実ちゃんを安心させる意味でこう言う。


「そんなのあるわけないだろ?」


「フン!」


「ぎゃぁぁぁぁ!!」


 安心させる意味で言ったのに……。

 俺は再び足を押さえてうずくまる。


「なんか、私に魅力が無いって言われた気分です」


「そ、そんな事言ってないのに……」







 なんでこんなにイライラするのだろう?

 今日は先輩と映画。

 いつもなら楽しくてしょうがないのに、昨日から私は先輩にイライラしっぱなしだ。

 隣を歩く先輩も私に気を使って、怒らせないようにあまり話掛けてこない。

 本当は先輩と色々話したいのに……。

 私がいつものようにしていれば、簡単な話なのだが……。


「愛実ちゃん」


「なんですか?」


 またやってしまった。

 返事が素っ気なさすぎる。

 もっといつもみたいに、可愛さを意識すればよかった!

 そんな事を考えながら、先輩の方を見ると先輩はどこかを指さしていた。


「甘いものでも食べない?」


「急になんですか?」


「いや、調べたら映画の上映時間まであと一時間もあるし、何か食べたりして時間つぶさないかなって……」


 先輩が指さしていたのは、パフェ専門店だった。

 開店したばかりのようで、ちょうど空いている。

 そう言えば、考え無しに先輩を誘ってしまったので、まったく今日の計画を立てていない。

 そして、急に出てきたから朝ご飯も食べて居ない。

 考えていたら急にお腹が減ってきた。


「ほら、先月の給料入ったし、奢るからさ」


 私の機嫌を取るためだろうが、お腹が減っているのも事実なので私は先輩の提案に乗る。


「じゃあ行こっか」


 先輩しゃそう言うと、私の手をとって店の方に歩き始める。


「あっ……」


「ん? どうかした?」


「な、なんでも無いです」


 急に手を取られ、私は驚き声を出してしまった。

 こうして先輩から手を握られたのは始めてだった。

 先ほどまでイライラしていたのに、なぜだろうか、先輩のそんな何気ない行動に、私はドキドキしている。


「先輩のバカ……」


「え!? なんで俺、罵倒されたの?」


 私と先輩はパフェ専門店に入り、窓際の席に座る。

 

「何食べる?」


「一番高いので」


 だから、なんで私はムキになっちゃうのよ!

 そこは気を使いなさいよ、まぁいつも使ってないけど……。


「一番高いのって……このジャンボデラックスボリューミーパフェ? よ、四千円もするし、デカすぎない?」


「じゃあ、イチゴパフェで良いです」


 ほらぁぁぁ!

 先輩も困ってるじゃん私!

 もう良いかげん素直になれよ!

 いつまで意地になってるのよ!


「イチゴね、じゃあ俺はコーヒーにしようか……すいませーん!」


 先輩はウエイターに注文をし、商品が来るのを待つ。


「……」


「……い、良い天気だね」


 沈黙に耐えられなかったのか、先輩が無理矢理話題を引き出す。

 いや、良い天気と言われても「そうですね」って私が言ったら会話終了じゃないですか……。


「そうですね」


「あ、あはは、だよね……」


 ほら終わっちゃった!

 もっと気の利いた事は言えないんですかって話ですよ、まったく!

 仕方ないなぁ……。


「先輩、昨日のあの女の人とはその後どうなんですか?」


「え? いやだから、ただの友達だって」


「フーン」


 ただの友達が話しをしたいなんて言うはず無いでしょ!

 絶対あの人先輩に気があるよ!

 まぁ、私も勘だけど……。


「それに、古瀬と俺じゃ釣り合わないだろ?」


「そうですね、並んだら見劣りしちゃいますもんね」


「うっ……女子高生に言われるときついな……まぁ、事実だけど」


 あぁ、またしょんぼりしちゃった。

 そんな事を言いたい訳じゃないのに……。

 私がそんな事を考えている間に、パフェとコーヒーが運ばれてきた。

 朝からパフェと言うのもどうかと思ったが、目の前に出されると食欲が出てきた。

 私は無言でスプーンを手に取り、黙々とパフェを食べ始める。

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