第24話
*
「あー眠い」
俺は今にも閉じてしまいそうな目蓋を無理矢理開けて、学校の図書館に来ていた。
結局先輩に朝までゲームに付き合わされ、俺は眠気と戦いながら、本ページをめくっていた。
「うーん、ここは遠いし……ここは、イマイチだな」
先輩達が残していった資料を見てみるが、場所が遠かったり、宿泊料金が高かったりと、中々良い物件がない。
「あんまり高い宿は勘弁だしなぁ……」
俺はそんな事を呟きながら、図書館の外に出る。
図書館は飲食禁止のため、俺は外の自販機で飲み物を買い、ベンチでそれを飲んでいた。
「あ、えっと……岬君?」
「ん?」
俺は名前を呼ばれ、ふと声のした方を振り返る。
そこにはテニスウエアを着た、古瀬が居た。
「古瀬じゃないか、昨日は大丈夫だったか?」
「うん、昨日はありがと」
古瀬も飲み物を買いに来たらしく、財布から小銭を出して、自販機に入れる。
「昨日、岬君に水分補給しろって言われたから」
「この季節はな。サークルか?」
「うん、テニサー。あんまりテニスしてないけど」
「それをテニサーっていうのか?」
古瀬はそう言うと、俺の隣に座った。
「岬君は何をしてるの? 今夏休みだよね?」
「あぁ、ちょっと調べ物しに図書館に来てたんだよ」
「調べ物? 何を調べてたの?」
「温泉。今度バイト先の皆で温泉旅行に行くことになったから、どこが良いかなって思って」
「へぇ〜、仲良いんだね」
「まぁな、そっちは開店二日目なのに休んで大丈夫なのか?」
「うん、代わりの人もいっぱい居るし、私は今日休みだから」
「そっか、随分繁盛してたな」
「うん、昨日はお客さんいっぱい来てたね」
「うちの店は閑古鳥が鳴いてたけどな」
「あ、ごめん」
「古瀬が謝ることじゃないだろ?」
「あ、そっか」
ちょっと天然なのか?
まぁ、俺の知り合いの女性達より全然良い子だと思うが。
「じゃあ、俺はこれで」
「え? もう行くの?」
「え? 行っちゃダメか?」
「あ、いや……なんか私が男の人と話をすると、男の人がいつも結構長話をするから……新鮮で」
それは古瀬が可愛いから、どうにかこうにか話しを盛り上げたくて、男の方が頑張っているからだと思うんだが……。
「いや、正直俺たちってそんなに仲良い訳じゃないし、会話続かなくなって気まずくなるより、早めに切り上げた方が良いかなって……あ、すまん! 別に古瀬が嫌いって意味じゃないぞ?」
「うん、分かってるよ。ありがとう」
柔らかい笑顔を俺に向けながら、優しくそういう古瀬。
俺が大学で出会った女性の中で彼女は一番優しい性格かもしれない。
まぁ、いつも会ってるのが、あのわがままお姫様だからな……。
「じゃあ、俺は行くわ」
「あ! 待って!」
「ん? なんだ?」
「昨日のお礼もしたいから、連絡先教えて」
「え? いいよお礼なんて、俺は別に大した事してないし」
「私がしたいの、ダメ?」
そう言いながら、首を傾げる古瀬。
俺はそんな古瀬を見て、素直に可愛いと思ってしまった。
あんなわがままなお姫様や生意気な後輩とは違い、優しい古瀬のそんな仕草に、疲れ切った俺の心は少し癒された。
「ま、まぁ別に良いけど……」
「本当? じゃあ、スマホ出して」
「あ、あぁ」
俺は古瀬と連絡先を交換して別れた。
なんだか、まともな女子大生と連絡先を交換したのは、久しぶりかもしれない。
なんか、俺の周りには変な女子大生しか居ないし……。
「お礼ねぇ〜」
図書館の椅子に座りながら、スマホ画面を見る。
そこには、先ほど連絡先を交換した古瀬の連絡先があった。
別に見返りを求めて助けた訳じゃないし、逆になんだか申し訳なくなってしまう。
「さて、そろそろ行くか」
俺は一通り調べ終え、図書館を後にした。
今日は少しだが、この後バイトがある。
俺はそのままバイト先に向かって、自転車を漕ぐ。
*
「今日も暇ですね」
「そうだね」
店に着いた俺を待っていたのは、昨日と同様に全く人が居ない店内だった。
先にシフトに入っていた愛実ちゃんは、暇すぎて店のチラシを折りをしていた。
「二日続けてこれは……」
「流石にヤバいですよね?」
「でも、店長は相変わらず余裕そうだな」
「ん?」
俺はそう愛実ちゃんに言い、店長の方を見ると、いつもの笑顔で俺と愛実ちゃんに言う。
「大丈夫だよ、新しい店が出来るとそこに人が集中するのは仕方ないことだから」
余裕そうに答える店長。
店長は俺にそう言うと、材料の発注作業に戻って行った。
「まぁ、店長が言うなら大丈夫か」
「でも、暇すぎて時間経つのがすごい遅く感じるんですけど」
「それもそうだな……何かする事でも……」
俺は何かやることはないかと仕事を探す。
そんな時、店の自動ドアの開く音が聞こえた。
「いらっしゃいませー」
反射的に俺がそう言いレジの方を見る。
そこには思いがけない人物が立っていた。
「あれ? 古瀬」
「あ、やっぱりここだったんだ」
レジの前に立っていたのは、私服姿の古瀬だった。
サークルの帰りなのか、大きめの鞄とラケットのケースを肩に掛けていた。
「なんだ? 敵情視察か?」
「違うよ、ただ普通にお茶しに来ただけ、自分のお店は行きにくいから」
「そういう事なら、当店は現在お客様の貸し切りですよ」
「え、本当?」
「誰かさんのバイト先に人を持って行かれちまったからなぁ〜」
「あ、ごめん」
「いや、謝るなって、古瀬が悪い訳じゃない」
「あ! ごめん」
「あー、もういいや。何にする?」
「えっと、おすすめとかある?」
俺は古瀬に店のおすすめを教え、席で待つように言う。
「はぁ……まさか店に来るとはな」
「先輩……」
「ん? どうしたの愛実ちゃん?」
「あの人って、昨日の店員さんですよね?」
「あぁ、そうだけど」
「昨日はそんなに仲良くないって言ってたのに、なんでそんな親しげなんですか?」
「あぁ、実は……」
俺は愛実ちゃんに昨日の出来事と今日の大学での出来事を愛実ちゃんに話した。
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