第30話

「な、なんで涼清に?」


「まぁ、家から近いですし、それにバイトも変えなくて済みますから」


「いやいや、普通は将来を考えて、行きたい学科のある大学とかに行くんじゃ……」


 そう俺が言うと、愛実ちゃんはフフフと笑って上目遣いで言う。


「考えてますよ……就職よりももっと先の事を……」


 意味深な感じでそう話す愛実ちゃん、しかし俺にはなんで涼清を受験するのか、全く分からなかった。

 前に愛実ちゃんからテストの答案を見せてもらった事があったが、愛実ちゃんの成績は本当に良い。

 愛実ちゃんの成績なら、もっと上の大学にも行けそうなのだが……。





「じゃあ、またバイトで」


「はい、今日はありがとうございました!」


 私は先輩に家まで送ってもらい、自宅に帰ってきていた。

 先輩とのデート、最初はあれだったが今回もすごく楽しかった。

 私は部屋に入ると、直ぐに着替えを済ませて先輩にSNSでメッセージを送る。


【今日はありがとうございました! またデートしましょうね!】


 メッセージを送信し、私は顔をにやにやさせながら早く返信が来ないかを待つ。

 先輩は恐らくまだ帰宅途中だから、返信は遅いかもしれない、そう頭の中では分かっていてもやっぱり気になってしまう。

 先輩の返信を今か今かと待っていると、十分ほどでようやく先輩からの返信が返ってきた。


【勉強しなさい】


 そんな素っ気ないメッセージに私は少しムッとしてしまう。

 そんなはこと分かってるけど、もっと他に言い方は無いのだろうか?

 そんなお父さんみたいな言葉を求めていた訳じゃ無いのに。

 私は先輩とその後もメッセージを送りあい、気が付けば時間はもう夜の23時。

 流石に夏休みとは言えど、あまり夜更かしは良くないので、私は寝る準備を始める。


『なんで涼清なの?』


 私は布団に入り目を瞑ると、帰り道で先輩に聞かれた質問を思い出す。

 その質問に対して私は適当に家が近いから、なんて答えたがそれは嘘だ。

 

「本当は先輩が居るからだもん……」


 好きな人が居るから、それだけで私は大学を決めた。

 これだけ言ってしまえば、そんな下らない理由でと怒られてしまいそうだが、別にそんな理由で進学してはいけないなんて理由は無い。

 私は将来は先輩の所に永久就職を希望しているから、先輩の居る大学に通う事が、一番の就職対策になるのだ。


「先輩……」


 私はプールの時に先輩と一緒に撮った写真を見て、思わずニヤケてしまう。

 さっさと告白して付き合いたい。

 しかし、振られた時の事を考えると怖い。

 もう、こんな感じで二人で遊びになんか行けない。

 もうメッセージも気軽に送れない。

 そう考えると、私は怖くて何も出来なかった。

 しかし、このままで良いとも思っていない、だから決めていた。

 今年のクリスマスに先輩に告白しようと……。





 八月最後の週、高校生などは夏休み最後の一週間である。

 しかし、大学生である俺の夏休みはまだまだこれからだ。

 俺は今日も元気にバイトに励んでいた。


「高校生は今週で夏休み終わりだって」


「そうみたいだな」


 夏が終わろうというのに、相変わらず暑い日が続いている今日、俺はバイト先の厨房でハンバーガーを作っていた。


「大学生はあと一ヶ月休みなんだろ?」


「まぁな、おかげでバイト代が溜まる溜まる」


 俺は小山と話をしながら、ハンバーガーの具材をバンズに乗せていく。


「フリーターには関係無いからなぁ〜そういうの」


「やっぱり学校卒業すると、夏って言ってもテンションあがらないのか?」


「うーん、なんていうか……フリーターは結構休みを自由に出来るからね、お金にならないけど、頑張ればいつでも夏休み取れるし」


「そういうもんか……」


 小山君とそんな話をしながら、俺は小山君からポテトの入った袋を受け取り、テイクアウト用の紙袋に入れる。


「そういえば、この前愛実ちゃんと映画行ってきたんだって?」


「え? なんで小山君が知ってるの?」


「愛実ちゃんが嬉しそうに話てたよ? 『先輩とデートしてきました!』って」


「いや、デートじゃないし」


「二人でR15の恋愛映画見てきたんだろ? それはデートだろ?」


「そんな事まで……ただ一緒に映画見て買い物して帰ってきただけだよ」


「いや、それを世間一般ではデートって言うんだよ」


「ただ遊びに行っただけだよ。いいからこの商品持っててくれ」


「へいへい」


 俺は小山君にそう言い店内を見渡す。

 一時期はライバル店の出現でめっきり売り上げが落ちたが、今はもういつも通りだ。

 やっぱり開店したときだけだったようで、徐々にお客さんがうちの店に戻ってきていた。


「古瀬のところも忙しいのかな?」


 俺は大学の友人が働くライバル店の様子を考えながら、手を洗って野菜を切り始める。

 最近、古瀬からもよく連絡が来る。

 内容は毎回どうでも良い内容だ、今日はお昼にどこのお店で何を食べたとか、どこに遊びに行ったとか、雑談的なことがほとんどだ。

 

「暇……なのかな?」


 なんで俺にそんな事を知らせて来るのか……。

 ただ単にメル友が欲しかっただけなのだろうが、愛実ちゃんも結構な頻度でメッセージを送ってくるので、返信が地味に大変だったりする。


「そのうち、メッセージの送り間違いとか有りそうで怖いな……」


 俺はそんな事を考えながら、野菜を切り終える。

 今日のバイトは後数分で終わる、早く家に帰ってのんびりゲームでもしたいのだが、今日も間宮先輩がやってくるのだろうと考えると、俺はなんだか気が重たくなる。


「お疲れです」


「あ、岬君お疲れ〜」


 シフトを終え、俺はパートのおばさんに挨拶をして休憩室に向かう。


「はぁ……疲れた……」


 俺は自分のロッカーを開けて、スマホを取り出す。

 新着メッセージが25件、差出人は間宮先輩はと愛実ちゃん、そして古瀬だ。

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