第31話

 俺はまずは一番放って置くと怖い間宮先輩のメッセージから開く。

 間宮先輩からのメッセージは一番多い10件だ。


【直ぐ来れる?】


【ねぇ、来れる?】


【バイト?】


【終わったら電話しなさい】


【いつ終わるの?】


【終わったら直ぐ電話!】


【まだ?】


【お腹空いたわ】


【まだ終わらないの?】


【家で待ってるわね】


「いや、なんでだよ!」


 俺は思わずスマホにツッコンでしまった。

 内容がさっぱりわからない。

 とりあえずお腹が減っている事は理解したが、なんで俺の家で待っている事になる!

 てか、このメッセージが送られてきたのが数分前ってことは………もう向かってるのか!?

 バイトだと思ってるなら来るなよ!

 どんだけ腹減ってんだこの人!

 ならファミレスでもコンビニでも行って適当に済ませろよ!

 なんてことを考えながら、俺は急いで着替えをして家に帰る。

 本当に来ていたら大変だし、今日も暑いので外で待っていて、熱中症とかになられても困る。


「はぁ……はぁ……」


 俺は自転車をこいで汗だくになって家に帰る。

 案の定、家の扉の前には間宮先輩が少し汗を掻いて待っていた。


「遅い!」


「いきなり来ないで下さいよ!」


「お腹空いたの! 良いからご飯!」


「アンタは子供か!」


 俺はそんな事を言いながら家のドアを開け、先輩を家に入れる。

 直ぐに冷房をつけて、俺は荷物を置き、先輩を中に入れる。


「ねぇ、ちょっとシャワー貸してくれない? 汗掻いちゃって」


「どうぞ、使い方わかりますよね?」


「大丈夫よ、それと……覗いたら殺すわよ」


「いや、興味無いんで」


「それはそれでムカつくわね」


 先輩が俺の家でシャワーを浴びるなんて、夏休みの今では日常茶飯事だ。

 まぁ、最初は自分の部屋で女性がシャワーを浴びるって考えたら、少しは意識したが流石にもう何も感じない。

 俺はその間に先輩に食わせる昼食を準備しながら、愛実ちゃんと古瀬のメッセージを確認する。

 まずは愛実ちゃん、件数は8件だ。


【先輩! どうしましょう!】


【私の勉強の用眼鏡が有りません!】


「知らん」


 残りの6件は愛実ちゃんの写真だったのだが、探している眼鏡は頭の上に乗っていた。

 色々な角度から自撮りしていたが、正直俺に連絡してくるような内容でもないだろう……。

 俺はそんな事を考えながら、残りの古瀬のメッセージを見始める。


【急に連絡してごめんね】


【今友達と夏服選びに来てるんだけど、どっちが良いと思う?】


 メッセージが来ていたのは一時間ほど前だ、メッセージの後に写真が二枚来ていた。

 写っていたのはスカートだった、オレンジの長めのスカートと青い短めのスカートだった。

 なんで急に俺にそんな事を聞くのだろうかと思いながら、俺は残りのメッセージを読む。


【結局オレンジのにしました、バイト中だった?】


【バイト中だったら、頑張ってね!】


 古瀬の普通の内容のメッセージに俺は思わず和む。 こういうのだよな、普通のメッセージって。

 

「ホント……古瀬だけだな」


 まともな俺の女友達は……。

 

「何か失礼な事考えたでしょ?」


 おっと、そんな事を考えている間に間宮先輩がシャワーを浴びて戻ってきたようだ。


「って、先輩………」


「何よ?」


「なんで俺のスウェット勝手に着てるんですか!」


「他に着る物が無かったからよ、仕方ないでしょ。あ、後洗濯よろしくね」


「自由かっ!!」


 俺の夏休みの大半はこうして先輩に振り回される。





「先輩」


「なんだい」


「私は明日から学校が始まります」


「うん」


「今日で夏休みは終わりです」


「うん」


「なので今から行きますよ」


「どこに?」


「ケーキバイキングに決まってるじゃないですか?」


 バイトが休みの日の朝、俺は愛実ちゃんに呼び出されていた。

 なんでも愛実ちゃんは今日で夏休みが終わりらしい。

「なんでケーキバイキング? 俺が行く必要ないよね?」


「一人で行ったらなんか恥ずかしいじゃないですか」


「男がケーキバイキングって言うのも恥ずかしいけどな」


 何かと思って来て見ればこれである。

 呼び出された時も、俺は行きたくないと言ったのだが、またしても脅されてしまった。


「さぁ! 行きますよ!」


「ちょっと待ちなさい」


「なんですか?」


「勉強はちゃんとしてるの?」


「だからしてますって」


「じゃあ、俺じゃなくて友達とかと行きなよ」


「だって先輩は私の財h……」


「おい、今財布って言いかけたか?」


「気のせいです」


「じゃあ、俺の目を見て言え」


「え! 俺の目を見ろだなんて……恥ずかしい」


「嘘つけ!」


 まぁ、後輩の女の子にお金を支払わせるのもどうかと思うので、いままで俺が全部出していたが、財布とまで言われると少しムカつく。


「俺、今日は帰ってゴロゴロする」


「わー! 謝りますから! 行きましょうって!」


「はぁ……」


 結局俺はいつも愛実ちゃんに負けて、愛実ちゃんのわがままを聞いてしまう。

 

「う~ん! 美味しいですぅ~」


「それは良かったね……」


 ケーキを頬張りながら愛実ちゃんは幸せそうな顔で俺にそう言う。

 こういう無邪気な笑顔をしている分には可愛い子なのだが……。


「先輩」


「どうしたの?」


「来年も夏休みは一緒に遊びましょうね」


「……受験に受かったらね」


「受かるに決まってるじゃないですか」


 自信満々に言う愛実ちゃん。

 もしも愛実ちゃんが大学受験に合格したら、俺はどうなってしまうのだろう?

 間宮先輩と愛実ちゃんの両方を相手出来るだろうか?

 まぁ、愛実ちゃんが大学に入学したとしても、愛実ちゃんは愛実ちゃんで友達を作るか……。


「ま、頑張りな。大学は結構たのし……」


 大学は楽しい、俺はそう言おうとしたのだが、よくよく考えてみるとそうでもない。

 先輩絡みで良く絡まれるし、先輩のせいで彼女出来ないし。

 まぁ、基本的に先輩のせいなのだが……。


「楽しくないわ……」


「え!?」


 思わず溢れた俺の一言に、愛実ちゃんは驚く。


「いやいや、そこは楽しいって言いましょうよ」


「まぁ、普通の人は楽しいんじゃない? 普通の人は……」


「先輩は普通では無いと?」


「周りの人たちが変だからなぁ……」


「それは私も含まれてます?」


「うん……」


「えい」


「ぎゃぁぁぁぁぁ!! そういうところだよ!!」


 突然愛実ちゃんから足を踏まれ、俺は悲鳴を上げる 

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