第3話

 からかうように話す彼女に、俺はため息を吐く。

 本当の事を言えば、もうそろそろ俺だって彼女がほしい。

 しかし、大学は大学で別な女性から俺は面倒事を押しつけられており、それどころではない。


「はぁ……合コンでも行ってみるかな」


「え? そんな予定あるんですか?」


「まぁ、人数合わせだけどね」


「やめた方が良いですよー、先輩モテなさそうですし」


「うるせぇ! 俺だってせめて夏休み前までに彼女くらいだな……」


「私が居るじゃないですかぁ〜」


「財布代わりにされるのはごめんだよ。ほら、ついたよ」


「あ、いつの間に……じゃあ先輩、またバイトで」


「はいはい、ちゃんと勉強するんだよ?」


「わかってます、それじゃあ先輩……おやすみなさい」


「おう、おやすみ」


 俺は彼女を送り届け、家に帰宅する。





 私が先輩に興味を持ったのはいつだっただろうか?

 気がついたら、私は先輩を好きになっていた。

 優しくて、頼りになるバイト先の先輩は、多分私には微塵も興味がない。


「先輩のバカ……」


 今日も私はスマホで撮った先輩に向かって不満を漏らす。

 初めてのバイトで困っていた私を助けてくれた先輩。

 それから私は多分、先輩に引かれていったのだろう。

 私はベッドに寝っ転がりながら、先輩にSNSでメッセージを送る。

 別れてからまだ数分しか経っていないのに、私はもう寂しさを感じていた。

 会いたい、声を聞きたい。

 目を瞑っても、考えるのは先輩の事ばかり。


「合コンなんて……行くなよ……ばーか」


 ベッドの上で頬を膨らませながら、私は写真の先輩にささやく。


「先輩……明日もシフトだよね?」


 そんな事を考えながら、私はシフト表を確認する。

 案の定先輩は明日も今日と同じシフトだった。


「……明日は現国かな?」


 ついでに勉強する科目決め、私は制服を脱ぎ着替えを始める。

 部屋着に着替え、私は机に座ってノートを開く。

 一応は受験生、バイトも恋も大切だが勉強も大切だ。

 志望校はもちろん、先輩と同じ大学。

 

「絶対合格する……」


 そして先輩と楽しい大学生活を送りたい。

 それが私の目標だった。





「合コン?」


「あぁ、今度あるんだけどたまには次郎もどうだ?」


 大学での授業を終え、廊下を歩いていた俺に友人がそんな話をしてきた。

 昨日愛実ちゃんに言われた言葉を思い出すと、このお誘いは願ってもないチャンスだった。


「しかもだな、この合コンにはだな……」


「参加する」


「え!? 即答! め、珍しいな……まぁ、ありがたいけど」


「悪いがこれからバイトなんだ、詳細は後で教えてくれ。それじゃ」


「あ! おい!」


 俺は詳細を聞く前にその場を離れる。

 

「あいつ……まったく、まぁ良いか女子高生が来るって聞いて嫌な顔はしないだろ……」


 バイトまでは後二十分。

 自転車でバイト先までは十五分掛かってしまう。


「やばいなぁ、間に合うかな?」


 俺は自転車をこいでバイト先に向かう。

 合コンの話を咄嗟の判断で了承したのは良かったが、相手の詳細を聞かなかったのは失敗だったなと思った。


「まぁ同じ大学生とかだろ」


 俺はそう勝手に思いながら、合コンに着ていく服を考えていた。





「え? 合コンにつきあってほしい?」


「そうなの! お願い!!」


 私は友人からのそんなお願いに少し困っていた。

 聞けば、その子の友人のバイト先の先輩が言ってきた話らしいのだが、この子はどうやらその子はそのバイト先の先輩に気があるらしい。

 同じような恋をしている私は、協力してあげたい気持ちもあったが、合コンと言うものにあまり良いイメージを抱いていなかった。


「うーん、でも……」


「お願いよぉ〜私の恋のために!」


「でも……」


「この間ノート写させてあげたじゃない!」


「うっ……わ、わかったわよ……」


「ありがとぉ〜流石愛実!」


 友人はそう言うと機嫌良く自分の席に戻って行った。

 まさか私が合コンに行くことになるなんてと考えながら、スマホで時間を確認する。


「先輩………そろそろバイトかな?」


 私は早く学校が終わってくれないかと考えながら、私はため息を吐いて時計を見つめる。




「合コン?」


「あぁ、友達に誘われてな、どんな服着ていったら良いんだ?」


「それを僕に言われてもなぁ……」


 厨房で野菜を切りながら、俺は小山君に合コンで何を着ていったら良いのかを尋ねる。

 この小山君、実はなかなかにモテる。

 役者を目指しているだけあって、顔立ちは良いし、何回か合コンにも行った事があるらしいので聞いてみた。


「普通で良いと思うけど?」


「普通がわからないんだよ」


「そこまで気合い入れる必要もないと思うけど?」


「それは顔が良いやつだけだって……」


「そんな事無いと思うけどなぁ……」


「服装のアドバイスくらいくれよ、明日休みだろ?」


「別に良いけど……あっ! 女の子に見せる服なら女の子に選んでもらったら? たとえば愛実ちゃんとか」


「勘弁してくれよ。あの子に合コンに行く服を選んでくれなんて言ったら、笑われる」


「そんな事を言っても、僕よりも的確なアドバイスが出来ると思うけど?」


「良いから頼むよ。それとあの子には内緒で頼むぜ」


「はいはい、わかったよ」


 野菜を切り終え、俺は仕込みを終えて、レジの前に立つ。

 その数分後、狙ったかのように彼女はいつものように笑顔でやってきた。


「はい、ポテトとドリンクね」


「まだ何も言ってないじゃないですか!」


「毎回同じでしょ?」


「そんな事ないですぅ〜!」


「じゃあ、何にする?」


「えっと……カフェオレとナゲットで……」


「あんまり変わってないでしょ」


「良いじゃないですか! 私の勝手です!」


 毎日のように揚げ物なんか食って、この子は太らないのだろうか?

 俺は愛実ちゃんからお金を受け取り、レジを打つ。


「じゃあ、席でまってますねぇ〜」


「はいはい」


 笑顔を見せる愛実ちゃん。

 こんな可愛い子なら、合コンに行っても人気なんだろうな……。

 俺はそんな事を考えながら、冷凍のナゲットを油の中に入れる。

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