第2話
「………いらっしゃいませー」
「いらっしゃいました~」
レジに立った俺は、目の前の満面の笑みの客に向かってため息を吐く。
「えっと……今日シフトじゃないよな?」
「そうですよ? 何言ってんですか? アホですか?」
「じゃあ、何しに来たの……」
「勉強しに決まってるじゃないですか~、私は受験生ですよ~」
そう言って、レジの前に立つ制服姿の愛実ちゃんは胸を張ってどや顔をする。
愛実ちゃんはたまにこうやって店に勉強に来る。
しかも、愛実ちゃんが来た日に、俺がシフトに入っていると必ず帰りに何か奢らされる。
「はぁ……ご注文は?」
「じゃあ、次郎先輩を一人!」
「メニューからお選びください」
「むぅーしょうがないなぁ~」
「しょうがないのかよ……」
愛実ちゃんはポテトと飲み物を注文して、席に座った。
愛実ちゃんの席はいつも決まっている。
レジから見て斜め前の二人席だ。
彼女はいつもそこに座って、勉強をしていた。
たまにレジをすると、彼女と目が合い、その度に彼女は俺の顔を見て笑ってくる。
「次郎君と愛実ちゃんって仲良いよね~」
「それは違うって、あの子が俺をからかって遊んでるだけだよ」
「ふーん……でも、愛実ちゃんって次郎君がシフトに入ってる日しか店に来ないような……」
「気のせいだろ?」
俺は小山にそう言って、仕事に戻った。
愛実ちゃんはやっぱり俺の仕事が終わる時間まで店にいた。
そして俺のシフトの時間が終わると……。
「先輩終わりですか? じゃあ行きますか!」
「行かねーよ」
スタッフルームまで迎えに来て、俺を食事に誘ってくる。
もちろん、俺の奢りである。
「え~、こんな可愛い女の子が、折角食事に誘ってくれてるんですよ!? 行かない手はないでしょ~」
「何回目だと思ってるんだよ」
「うーん……わからないですぅ~」
「今年入って、もう20回以上だっての……ほぼ毎週行ってるんだよ」
「えー、そんなに行ってましたっけー? 私わかりません~?」
「帰る」
「待って待って! 待ってくださいよぉ~。食事は無くても、こんな夜道を女の子が一人なんて危険じゃないですかぁ~」
「いや、愛実ちゃんはなんか大丈夫そう」
「酷い!! 大丈夫じゃないですぅ~! 送って行ってください~」
「はぁ……送っていくだけだぞ?」
「やった! じゃあ、さっそく行きましょう!」
俺は彼女の勢いに負け、仕方なく家まで彼女を送っていくことにした。
そうだったのだが……。
「あ、すいませーん! えっと、ミートドリアとグリルチキンのセットを二つで、あとドリンクバーも二つお願いします」
「あ、俺はそれにサラダバーで」
「はい、かしこまりました」
ファミレスの店員は、お辞儀をして俺と愛実ちゃんの席を離れていく。
「いや、そうじゃねーよ!」
「はい? 急にどうかしました? 持病の発作ですか?」
「そんなものは無い。俺が言ってるのは、なんで飯を食いに来てるんだってことだよ!」
俺は確かに彼女を家に送って帰るつもりだった。
しかし、気が付いたらこのファミレスに入店し、俺と愛実ちゃんは窓際の席に座っていた。
「なんでいつも……」
「まぁまぁ、良いじゃないですか~、目の前には可愛いJKが居るんですよ?」
「え? それってどこにいるの?」
「ぶん殴りますよ?」
「へいへい」
俺は水を飲みながら、愛実ちゃんに適当に返事をする。
スマホを弄りながら、料理が来るのを待っていると、愛実ちゃんがちょっかいを出してくる。
「………」
「せんぱ~い」
「……」
「先輩ってば~」
こつこつと俺の足を自分の足でツンツンと突いてくる。
俺は面倒なので、そんな愛実ちゃんを無視する。
「無視ですか……わかりました、私にも考えがあります」
愛実ちゃんはそう言うと、俺にちょっかい出すのやめ、急に俯き大人しくなった。
静かで良いなと思いながら、俺はスマホを操作する。
「先輩……本当に答えてくれないんですか?」
静かな声で愛実ちゃんは話始める。
もちろん俺は面倒なのでスルーする。
「そうですか……答えてくれないんですね……」
一体何を言っているんだと思いながら、俺はスマホを弄り再び水を飲む。
「うっ……酷いです……じゃあ、お腹の子供はどうするんですか!」
「ぶふっぅぅぅ!!!」
いきなりとんでもない事を言い始めた愛実ちゃんの言葉に、俺は水を噴き出した。
周りを見ると、なんだか他の客が俺の顔を見て、こそこそ何かを喋っている。
「ま、愛実ちゃん……変な冗談はやめてくれない?」
「冗談なんて! 私は本気だったのに!!」
「だからやめて!! 謝るから! 無視したの謝るから!!」
周りの俺を見る目が痛い。
愛実ちゃんは俺が謝った事に満足したのか、悪戯っぽく笑って舌を出す。
「私を無視するからですぅ~」
「勘弁してくれよ……」
俺は頭を抱えながら、ため息を吐いて愛実ちゃんを見る。
愛実ちゃんはニコニコしながら俺を見ていた。
こうして彼女は俺をからかって楽しんでいる。
「まったく……」
俺は彼女と食事をして店を出た。
「先輩ごちでーす」
「結局俺が出すのかよ……」
帰り道、俺は愛実ちゃんを家まで送っていた。
彼女はニコニコ笑いながら俺の隣りをついてきた。
「先輩良かったですねぇ~、こんな可愛いJKとバイト帰りにデートが出来て」
「デート? ただ飯食いに行っただけだろ?」
「強がんないで下さいよぉ~、どうせ彼女居ないんでしょ?」
「……作らないだけだ」
「うふふ~、いつできますかねぇ~?」
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