第22話



「先輩」


「どうした?」


「暇ですね」


「そうだな」


「珍しいですよね」


「そうだな」


 夏の日の昼、今日も俺はバイトに明け暮れていた。

 しかし、今日はいつものバイトとは少し違っていた。

 その理由は店内にあった。

 昼時だと言うのに、客がまったく居ない。

 平日とはいえ、結構忙しくなるのだが、今日はおかしい、フロアにお客さんがゼロなのだ。


「暇だね」


「あぁ、暇だ」


 本日の昼のメンバーは、俺と小山君と愛実ちゃん、そしてパートのおばさんと店長だ。

 小山君と俺は厨房で何をして良いか分からず、先ほどから雑談をしていた。

 そこに愛実ちゃんも入って来て、現在は三人でお客さんが来るのを待っていた。


「今日なんかあったっけ?」


「いや、イベント事は何も無いと思うけど?」


「なんでお客さん来ないんだろうな?」


 先ほどから掃除をしたり、材料の補充をしたりして暇を潰していたのだが、大体の事が終わってしまい、本格的に暇になってしまった。


「もしかして、これのせいですかね?」


「ん? チラシ?」


「今日からオープンらしいですよ」


 そう言って愛実ちゃんが持ってきたのは、一枚の折り込みチラシだった。

 そのチラシは、新しくオープンするハンバーガーショップの物だった。


「へー、うちの店より安いな……」


「ですよね、しかも量も多そうです」


 店はうちの店からかなり近い上に、駅の近くだ。 

 おまけに料金も全体的に安いし、店の内装なんかもオシャレだ。


「これのせいか」


「どうしましょう! このままじゃ、うちの店潰れちゃいますよ!」


「いやいや、大丈夫だって。そう簡単にうちが潰れるわけ……」


「いや、分からないよ」


 そう言ってきたのは、小山君だった。

 顎に手を当てて、なにやら思い出すように話しを始める。


「こんな話しを聞いた事がある。とあるコンビニの話しだ」


「お、おう」


「その店は、周辺にライバルと言えるお店も無く、何もしなくても客が店に来ていて、売り上げもよかった

らしい」


「あぁ、それで?」


「しかし、ある日近くに新しいコンビニが出来た。名前も聞いた事のない小さな店だったので、そのコンビニはあまり気にしていなかった。しかし、それが運の尽きだった」


「なんでだ?」


「新しく出来た店は、コツコツと営業努力を行い、着実に客数を増やしていっった。一方の昔からあるコンビニは、なんの経営努力もしなかった為、売り上げはどんどん落ちてしまった。そして結果……」


「潰れたと?」


「そうだ、だからこの店舗もうかうかしてられないかもね」


 まぁ、確かにそうかもしれない。

 向こうの店は、オープン記念でポテトが無料で貰えるらしい。

 みんなそれ目的で向こうの店に行っているようだし、こっちも何か手を打たないとまずいんじゃないか?

 なんて事を考える俺だが、バイトがいくら心配してもしょうがない。

 こういうことは、店長や社員の人が何か手を打つだろう。


「ま、そう言っても俺たちが心配する事でもないし、バイトが口を出す問題じゃないだろ?」


「そうだけど……」


「売り上げに影響があった訳でもないし、ヤバくなったら店長が何とかするだろ? じゃ、俺は休憩行くから」


「あ! 先輩ずるい!!」


 俺は二人にそう言って、バックヤードに引っ込んでいく。

 この分なら、俺が一人抜けても大丈夫だろう。

 俺は店長に休憩に入る事を言いに店長室に行く。


「店長、店暇なんで先に休憩入ります」


「ん、あぁ分かったよ」


 店長はいつも通りだった、特別焦った様子もなく、パソコンに向かっていた。


「店長、近くにライバル店が出来たっぽいですけど、余裕そうですね」


「ん? まぁ、あぁ言うのは一時的に話題になるだけだからね、いざとなったらがんばるけど」


「そう言うもんすか?」


「そう言うものだよ。うちだって、長い間ここで頑張ってきたんだ、リピーターだってたくさん居るからね」


 店長はあまり気にしていない様子だった。

 流石店長と言うべきか、こんな時でも落ち着いて言る姿を見ると、やっぱり大人だなと感じる、。





「お疲れ様でした」


 俺はそう言って、店の裏口から出て行った。

 今日のシフトはこれで終了、時刻は夕方の18時で夕焼けが綺麗な時間だ。


「さて、何を食べて帰りましょうか!」


「当たり前のように言うのやめてくれない?」


 そう行ってきたのは、俺の隣を歩く愛実ちゃんだ。

 今日は夏休みに入ってから珍しく、上がりの時間が一緒だった。


「最近行ってないじゃ無いですか〜」


「行ってない代わりに、プールでも祭りでもお金を使わされたけどね」


「じゃあ、今日はあのチラシのお店に行ってみますか! チラシも入ってましたし!」


「結局行くのね……」


 俺は彼女に言われ、噂のハンバーガーショップに向かった。


「うわ……」


「け、結構いますね……」


 夕方だと言うのに店はかなり賑わっていた。

 しかも、やっぱり値段が安い。


「何食べてみる?」


「スタンダードにハンバーガーとポテトですかね?」


「じゃあ、並ぶか」


「はい!」


「……しかし、店員の女の子は結構……可愛いってぇぇ!!」


「あれ〜? 先輩どうかしましたぁ〜?」


「俺……バイト先変えようかな……」


 こっちのバイトの女の子の方が、なんだか優しそうだと思ってしまった。

 注文を終え俺たちは空いている席に座る。


「見た目は普通ですね」


「まぁ、ハンバーガーなんてみんな似たようなもんだろ? 問題は味だが……」


 そう言って、俺と愛実ちゃんはハンバーガーを口に入れる。


「ん! 結構美味しいですね!」


「確かに美味しい……この味でこの値段だったら、結構良いかもな」


「ポテトも揚げたてですね」


「ここのポテトはうちの店のポテトより細いね」


 自分の店の味と比較しながら食べていると、俺はあることに気が付いた。

 

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