第6話
*
夏休みに入った。
大学の夏休みは長い。
俺はそんな夏休みをどう過ごすかと言うと……。
「いらっしゃいませ〜」
もちろんバイト三昧だ。
稼げる時に稼いでおかなければ、遊ぶことも出来ない。
俺は平日はいつもの倍の時間シフトに入っている。
「はぁ……疲れた」
「お疲れ岬君」
「小山君と一緒に上がりなんて、なんだか違和感だな」
「岬君はいつも僕より早く帰って行くからね」
時刻は夜中の12時。
いつも俺は遅くても夜の10時にはバイトを終えてアパートに帰る。
こんな遅くにバイト先に居るのは、長期休みの時だけだ。
「小山君は大変だな、毎日こんな遅くまでバイトして」
「慣れちゃえば大変じゃないよ」
「そういうもんかなぁ? じゃ、俺はさっさと帰るよ」
「あ、待った。よかったら、このチケットいらない?」
「え? これって、プールの入場券?」
「あぁ、最近出来た遊園地とか映画館が入ってる、大型のアミューズメントパークだよ。僕はそう言うの興味ないし、よかったら小山君行ってきてよ」
「いや、俺も興味ないし……それに、これペアチケットだろ? 一緒に行く相手も居ないし……うん、絶対に居ない!」
「なんで二回言ったんだい?」
なぜか知らないが、一緒に行く相手の事で一瞬先輩の事が脳裏を過った。
あの人と一緒にプール?
どんな罰ゲームだよ。
男からはきっと嫉妬の視線を向けられるだろうし、先輩は先輩で俺を顎で使うに決まってる。
そんなチケット、家にだって無いほうが良いに決まってる。
ここは丁重にいらないと言っておこう。
「誰か別な奴に渡してくれよ」
「そっか……じゃあそうするよ。お疲れ様」
「あぁ、お疲れさま」
俺はチケットを返して、家に帰る。
俺の夏休みはバイトばかりしている訳では無い。
しっかりと友人と遊びにも行くし、課題もやっている。
しかし、残念ながら彼女なんて居ないので、ペアチケットなんて宝の持ち腐れだ。
「さて、帰るか」
俺は少し涼しくなった帰り道を自転車で帰って行く。
*
「え? プールの入場チケット?」
「うん、愛実ちゃんいる? 誰かと行っておいでよ」
バイトのシフト終わり、私は小山さんから最近出来た大型アミューズメントパーク内にある、プールの入場チケットを渡された。
「でも、一応私は受験生ですし……」
「息抜きは必要だよ? それに……岬君と行ってきたら?」
「え!? な、何を言ってるんでしゅか!! なんで私がせ、先輩と……」
「大丈夫、僕は誰にも言わないから。好きなんでしょ? 岬君の事」
「え、えっと……は、はい……」
まさか小山さんにバレていたなんて……。
絶対にバレてないと思ったのに、この人は感が鋭いのよね。
「最初は岬君に渡して、愛実ちゃんを誘うように言おうと思ったんだけどね、いらないって言われちゃったから、愛実ちゃん誘ってみたら?」
「せ、先輩とプ、プール……」
「毎日勉強がんばってるんでしょ? たまには生き抜きして来なよ」
「ぷ、プール……水着……せ、先輩とデート……」
「あぁ……自分の世界に入ってるなぁ……」
先輩とプール!
これはデートに誘う言い口実になるのではないだろうか。
しかもお互いに露出の高い水着!
先輩の水着なんて……ちょっと興奮するかも……。
「へへっ……えへへ……」
「おーい、愛実ちゃ〜ん。女の子がしちゃいけない笑い方になってるよぉ〜」
渡しは小山さんからプールのチケットを受け取り、家に帰って来た。
「さて、どうやって先輩を誘うか……」
私はベッドの上で寝ころびながら、チケットを眺めて考えていた。
バイト先でも夏休みのせいもあってか、上がり時間が被ることが少ない。
「うーん、やっぱり電話だよね……」
私はそう言って、スマホを手に取り連絡帳のアプリを開く。
先輩の名前を見つけて私は考える。
なんと言って先輩を誘えば良いのだろう?
いや、普通に「一緒にプールに行きません?」で良いと思うのだが、断られたらショックだ。
絶対に断られない方法を考えなくては……。
私は勉強よりも一生懸命になって、考えた。
どうやったら先輩に断られずに、一緒にプールに行けるか
「よし! こうしよう……」
私は一つの結論にたどり着き、先輩に電話を掛ける。
『もしもし? どうしたの愛実ちゃん?』
「いや〜夏休みに入って女っ気のますます無くなった先輩に、可愛い可愛い私が気を利かせて電話を掛けてあげたんですよぉ〜」
『早速切りたくなってきた……』
「ダメですよ。怒りますよ」
『え? 怒って良いのって俺だよね? なんで俺がガチトーンで怒られてるの……』
「そんな事より先輩、プールに行きたいですよね?」
『いや……俺は別に……』
「私と一緒でも……ですか?」
『うん』
「怒りますよ」
本当にこの人は乙女心を理解していない!
私が勇気を持って、こうして誘っていると言うのに!!
「行きますよね? 私とプール」
『いや、俺は別に行かなくても……』
「行きますよね? ね?」
『そ、そんな圧力を掛けられても……課題とかあるし……大体君は受験生だろ? 勉強しないと……』
「合コンで女子高生に手を出そうとしてたって、パートのおばさん達にばらしますよ?」
『そ、それは卑怯だろ……』
飲食店におけるパートのおばちゃん達は、言わばその店の情報塔だ。
おばちゃん達に話せば、その話しは店のスタッフ全員に広まる。
合コンで女子高生を口説こうとしていたなんて、そんな話しが店で広まれば、先輩は他の女性スタッフから軽蔑の目で見られて、仕事行きづらくなる。
私はそれを利用して、先輩を脅しているのだ。
「さぁどうします?」
『はぁ……分かったよ、行けばいいんだろ?』
「やった! じゃあ、詳細はあとで送りますね!」
『はいはい、じゃあ俺はこれから風呂だから』
「奇遇ですね、私もです」
『あっそ』
「想像しました? 私の入浴シーン」
『全然』
「怒りますよ」
『だから、なんで!?』
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