第35話



「あとは帰るだけだけど……」


「そんなに嫌なら、電話したら? 私以外の女のところに行かないでって」


「なんで私が!」


「面倒くさいわね……このお姫様は……」


 結局私と愛生は、最後まで岬君達のデートを半日見張っていた。

 なんで見張っていたのかと聞かれれば、ただ単純に気になったからと答えるが、本当のところはそれだけではない。


「こ、このあと……ホテルとか行かないわよね!?」


「岬君がそういうところに女の子を誘えると思う?」


「女の子がそういうタイプかもしれないでしょ!?」


「付き合ってもいないのに、デートの最後でそれは無いわよ」


「だって! あの子テニサーの子よ! どうせヤッてるわよ! 毎日毎晩!」


「その偏見はやめなさい」


 これ以上あの二人が一緒に居るのを見ているのが、私は辛かった。

 だから………。


「岬君を呼び出すわ」


「いやいや、何をさらっととんでもない事をしようとしてるのよ、尾行してたのバレるわよ?」


「し、仕方ないでしょ! なんか変な女子高生のストーカーに、隣には淫乱女よ! このままじゃ岬君何をされるかわからないわ!」


「淫乱女ってところは御子の妄想でしょうが……」


 私はスマホを取り出し、岬君の番号に電話を掛ける。 岬君は直ぐに電話に出た。


『もしもし?』


「今すぐ家に帰りなさい!」


『はい? いきなりなんですか?』


「良いから、今すぐ家に帰りなさい! 今すぐに! じゃないと……大変な事になるわよ……」


『何ですか急に……俺、今友達と居るんですけど……』


「良いから戻りなさい! さもないと……」


『なんですか?』


「岬君の部屋の本棚の後ろに隠してある本をサークル

内の女性陣で回し読みするわよ!」


『な、なんで隠し場所を!? わ、分かりました! 帰ります! 帰りますから!』


 そう言って岬君は電話を切った。

 私の視線の先に居る岬君は、一緒に居る女の子に何やら説明をして自分の家の方向に走って行った。


「よし!」


「ちなみに、どんな内容だったの?」


「岬君は年上巨乳が好物みたい」


「その上には多分、優しいが付くんでしょうね」


「さて、岬君も帰った事だし、私たちも帰りましょうか」


「一日付き合ったんだから、何か奢りなさいよ」


「はいはい、わかったわよ」


 私と愛生も目的を終えて、自宅に帰ろうとする。

 これにて一件落着……かと思えたのだが、あの女子高生は一体なんだったのかが気になる。

 

「そういえば、あの岬君を付けてた女子高生って何だったのかしら?」


「さぁ? もう居ないけど、なんか御子と同じ匂いがするのを感じたわ……」


「一緒にしないでよ! 私のあくまで監視だもの!」


「物は言い様ね……」


 私と愛生はそんな話しをしながら、自分の家に向かって歩いて行く。





「先輩……大丈夫かな?」


 私は先輩の尾行をやめて、家に帰宅する途中だった。 いい加減に家に帰らないと親に色々と言われそうだったので、私は渋々尾行を中断した。

 あの後、先輩は普通に帰ったのだろうか?

 もしかして、二人であの後もどこかに行っていないだろうか?

 考えるのは先輩の事ばっかりだ。


「はぁ……」


 ため息を吐きながら、私はもう一つの心配ごとの方も考える。

 あの女性二人組は何だったのだろうか?

 ずっと先輩の後を付けていたけど……。

 

「先輩の大学の人かな? でも、普通は見かけたら声を掛けるだろうし……」


 もしかしてストーカーなのだろうか?

 いや、でも先輩はストーキングされるようなルックス持ってないし……。


「うーん……ルックスだけじゃないのかな?」


 なんだかあの二人の様子も変だったし、もしかしたら、私の勘違いかもしれない。


「先輩のストーカーなんて居るわけないかぁ~」


 そうだ、あの鈍感で、鈍くて、パッとしない先輩を好きなのなんて私くらいのものだ。

 そうに違いない、そうだと思いたい……でも……。


「あの女の人……絶対先輩に気があるじゃん……」


 先輩と一緒に居たあの女性。

 見ただけでわかる、あの人は多分、先輩に好意を寄せている。

 先輩ばっかり見てたし、服装もメチャクチャ気合い入ってたし……。


「先輩……やっぱりああいう大人の女性が良いのかな?」


 私はため息を吐きながら、自宅へと帰って行った。





 俺と古瀬は駅前から、自宅に帰ろうとしていた。

 しかし、帰る途中で俺のスマホに間宮先輩から電話が来てしまった。

 理由はわからないが、直ぐに帰らなければ、俺のトップシークレットがサークル内の女性陣全員に回し読みされるという、地獄が待っているらしい。


「す、すまん! 古瀬! 俺今日はもう帰らないと!」


「え!? きゅ、急にどうしたの?」


「わ、訳は言えないんだが……このままでは俺の性癖が大多数の人間にバレる!」


「ほ、本当に何があったの?」


「とにかく済まん! 放って置くと何をするかわからない人だから!」


「どんな知り合いなの!?」


「じゃあ、また今度な!」


「あっ!」


 俺はそのまま走って家に帰って行く。

 一体何があるのかわからないが、先輩を放って置くと何をしでかすかわからない、だから俺は急いで家に帰る。

 古瀬には悪い事をしてしまった、今度また謝って置こう。





「行っちゃった……」


 私、古瀬優華は走り去って行った、彼の後ろ姿を見ながらそう呟く。

 今日は凄く良い雰囲気だった、買い物してお茶をして、それに……可愛いって言ってくれたのが、凄く嬉しかった。

 だから、私は少し積極的になって、岬君の事を名前で呼んでもみた。

 最初は恥ずかしかったけど、なんだか距離が近づいた感じがして嬉しかった。

 そして、もう一気に行けるところまで行ってしまおうと思い、自宅に誘ったのだが……。


「行く途中で断られるなんてなぁ……」


 私はがっくりと肩を落として、自宅に帰って行く。

 本当なら、二人で家に帰るはずだったのに、なんだか残念だ。





 古瀬と出かけた翌日、朝っぱらか先輩が押しかけてきた。


「なんですか? 昨日の電話」


「電話? あぁ、大変な事って話し?」


「そうですよ! 俺あの時友達と一緒だったんすよ! 飯に誘われてたのも断って家に帰ったのに、何も無かったし……」


「あっそ」


「あっそ……って……もう、いい加減俺を振り回すのはやめて下さいよ」


「それよりお腹減ったわ、何か食べる物無いかしら?」


「人の話を聞けよ!!」


 その後も先輩は一日、俺の家に居座り続けた。

 しかも心なしか、いつも以上にわがままな感じで。

 結局俺がバイトに行くまで、先輩は家におり、俺がバイトに行くタイミングで帰って行った。

 

「はぁ……なんだか先輩の相手をするだけで疲れるな……」


 俺はそんな事を呟きながら、今度はバイト先に向かって自転車を漕ぐ。

 いつも通り、俺はシフトに入り、厨房でハンバーガーを作っていた。

 しかし、一つだけいつもと違う事があった。

 それは……。


「ねぇ……愛実ちゃん」


「なんですか?」


「なんでさっきから、ずっと俺を見てるの?」


「いえ、特に理由はありません」


「いや、有るよね?」


 ずっと愛実ちゃんが俺の事を見てくるのだ。

 別に睨んで来るわけでも無いし、当たり前だが羨望の眼差しという訳でもない。

 ただジーッと見てくるのだ。

 そうやって、ただジーッと見られるのもなんだか怖い……。


「昨日の買い物はどうだったんですか?」


「え? あぁ、楽しかったよ……」


「ふーん……そうですか」


 相変わらずの様子で愛実ちゃんはそう言うと、ドリンクのカップを手に取り、オーダーのドリンクを作っていく。

 俺も注文されたバーガーを次々と作っていく。

 時間的にも少し忙しくなる時間だ。

 

「ホテルには行ったんですか?」


「ぶっ! な、何を聞いてるんだ君は!」


「あ、行ってないんですね……先輩童貞ですもんね」


「うるせぇ!!」


 忙しい最中に何を言ってくるんだ、この女子高生は……。

 俺は動揺して、思わずハンバーガーのバンズを床に落としてしまった。

 俺は急いで新しいバンズを焼きながら、愛実ちゃんに言う。


「そもそも、そう言う仲じゃないし、昨日は単純に買い物に行っただけだし……」


 まぁ、少し良い雰囲気になったのは事実だが……。

 しかし、何もしていない事も事実。

 やましい気持ちなんて何も無かった……かな?


「あ、でもちょっと変な事はあったかも」


「変って……いやらしい事ですか?」


「違うよ! なんか変な視線をずっと感じてさ……」


「へ!? へ、変な視線?」


「ん? どうしたの? 変な声出して……」


「べ、べべべ別に! な、何でもありませんけど!?」


「そ、そう?」


 あの視線の正体は何だったのだろうか?

 いまだにわからないが、家に帰る頃には無くなっていた。

 もしかして、俺をストーキングするようなもの好きが居たり……しないか……自意識過剰だったな……。

 俺はがっくりと肩を落としながら、焼けたバンズを手に取り、ハンバーガーを作り始める。





 ふぅー、危ない危ない、先輩が私の完璧な尾行に気がついているのかと思ってしまった。

 やはり先輩も視線には気がついていたようだが、流石に誰からの視線かはわからなかったようだ。

 しかし、私以外に居たあの二人組の女性は何だったのだろうか?


「先輩」


「ん? 今度は何?」


「最近学校とかで視線を感じません?」


「え? うーん……いつも感じてるからなぁ……」


「え!?」


 お店が少し暇になったところで、私は先輩に聞いてみた。

 案の定だ、あの人たちは日常的に先輩をストーキングしているストーカーだったんだ!

 

「そ、それって……なんでかわかってます?」


「ん? あぁ、わかってるよ」


 

 え?

 わかってるの?

 わかってて泳がせてるの?

 じゃあ、先輩もまんざらでも無いってこと!?


「ち、ちなみに……その理由は?」


「あぁ、前にも話しただろ? ミスコン優勝者の先輩の小間使いにされてるって……そのせいで結構一緒にいるから……男達の視線がね……」


「あぁ……そういうことですか……」


 なんだ、そういう事か……。

 要はこう言うことだ、美人の隣に居るせいで周りの男性から「なんだ? あの隣に居るぱっとしないのは?」と先輩の方にも視線が飛んでくるから、視線には馴れていると言うことだ。


「大変ですね……色々」


「そうなんだよ……昨日も急に電話が来るし」


「ハッキリ言ったらどうですか? 迷惑ですって」


「言っても聞く耳持たない感じだし、半ば諦めてるよ……」


 先輩は、やっぱりあの二人には気がついていないらしい、もしあの二人が先輩の本物のストーカーだったら……。

 

「先輩」


「何?」


「私、先輩にこれからは優しくします!」


「いままでは優しくなかったんだ……」


「何かあったら、相談して下さい! 力になります!」


「きゅ、急にどうしたの?」 


 こう見えても先輩は、日頃から色々と大変なのかもしれない!

 私が先輩の支えにならなければ!

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