第14話

「暗いですね……」


「そうだね……」


「病院っていうだけあって、なんだか不気味ですね」


「そうだね……」


「……」


「そうだね……」


「私、何も言ってませんけど?」


「そうだね……」


「先輩もしかして……」


 俺は恐怖で、愛実ちゃんの言葉が頭に入って来なかった。

 薄暗い病院の廊下に、気味悪く光る消化管の赤いランプ、至る所にある赤い血痕。

 それらが、俺に更なる恐怖を与えてくる。


「先輩! 先輩!」


「え? あぁ、ごめん……ど、どうしたの?」


「もしかして……怖い?」


「そ、そそそそんなことあるわけないだろう!!」


 ま、まさか!?

 俺の完璧なポーカーフェイスが見破られたとでも言うのか!?

 そんな事を考える俺の脇で、愛実ちゃんはニヤニヤしながら言う。


「フーン……怖かったら手でも握ってあげましょうか?」


「結構だ! ほら、早く行くよ!!」


「もぉ、やせ我慢しちゃって〜」


「してない! さっさと……」


「うらぁぁあぁぁぁあぁぁ!!」


 俺が愛実ちゃんに言い掛けた瞬間、俺目の前に腹に穴の開いた男性のお化けが、不気味な声を上げながら現れた。

 俺はその瞬間、驚き過ぎて声を上げることも出来なかった。


「!?!?!!」


「きゃぁぁぁ!! って、先輩!? 大丈夫ですか!」


「……だ、大丈夫だよ」


「足ガクガクですけど……」


 お化けはすぐにどこかに行ってしまったが、お化けは確かに俺の心に恐怖を刻み込んでいった。

 初っぱなからこんな感じでは、とても最後まで行く自信が無い。

 俺は仕方なく、恥を忍んで愛実ちゃんに頼む。


「ま、愛実ちゃん……」


「はい?」


「怖くない?」


「ま、まぁ怖いですけど、それが楽しくもあるので、大丈夫ですよ?」


「そ、そうか……い、いや……嫌じゃなければなんだけど」


「はい?」


「手……繋いでいこうか?」





「先輩、大丈夫ですか? 怖くないですか?」


「い、良いから早く行くよ!」


「うふふ〜、そんなに急いだら転んじゃいますも〜ん」


「この……楽しんでやがるな……」


 今日の私はすごくついていると思う。

 先輩とプールに来て、一緒にご飯を食べて、しかも先輩から手を繋ごうと言ってきた。

 まぁ、一番最後のは先輩がビビりだからだけど……。


「先輩、なんだか手を繋いで歩いてると……恋人同士見たいですね」


「ここがお化け屋敷じゃなければ、そうも見えただろうね」


「こんなところ他の人に見られたら、私恥ずかしいですぅ〜」


「見てるのはお化けの方々だけだよ……」


 本当に先輩は、お化けがダメなようだ。

 いつものツッコミに切れがないし、言い返すわりには、私の手を離さない。

 先輩と手を繋いで歩くのは初めてだ。

 先輩の手は大きくて、なんだか少しごつごつしていた。

 でも、なんでだろう、ただ手を握っただけなのに、すごくドキドキする。

 このドキドキはきっと、今急に出てきた火の玉のせいで無いことは確かなんだけど……。


「ぎゃぁぁぁ!! 火の玉ぁぁぁ!!」


 隣で驚く先輩。

 先輩は急な火の玉の登場で、思わず私の腕に抱きつく。

 普通は逆なのだろうが、私はなんだか嬉しかった。

 先輩が私を必要としてくれる。

 先輩が私を求めてくれる。

 そう思うと、私の心拍数はどんどん上がっていった。

 ここがお化け屋敷で良かった。

 私の顔は恐らくもう真っ赤だろう、先輩にそれがバレずに済む。


「な、なんでさっきから愛実ちゃんは黙ってるの!?」


「え!? あ、あぁ……私もビックリしちゃって……」


「そ、そっか……た、確かに少し怖いかもね……」


 先輩可愛いなぁ〜、すっごい痩せ我慢してる。

 私の手を掴んで離さない先輩。

 このままゴールなんかしなきゃ良いのに……。

 私がそう思っていても、先輩の考えは逆のようで、先輩はどんどん私の手を引いてコースを進んでいく。

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