第9話

「……」


「どうかしました?」


 後ろに立っていた彼女は、いつもの彼女とは違っていた。

 青のビキニに上には俺と同じようにパーカーを羽織っており、なんというか、女の子と言うよりも女性という感じで、俺は思わずドキッとっしてしまった。


「先輩?」


「あ、ごめん……」


「なんですかぁ〜? 私の水着に見とれちゃいました?」


「いや、馬子にも衣装だなって思って」


「先輩、怒りますよ?」


 そうは言った俺だが、内心はすごく似合っていると思った。

 いつもの学生服では感じなかった大人っぽさがあり、女子高生だと言うことを忘れてしまいそうだった。


「聞いてます?」


「え? あぁ、ごめん全然」


「フン!」


「いっでぇぇぇ!!」


「今のは先輩が悪いです」


「……ご、ごもっともです……」


 俺は愛実ちゃんに、足を踏まれ、その場にうずくまる。

 かなり痛かった。


「んで、何する?」


 俺はまだひりひりする足を引きずって、愛実ちゃんと屋外プールに来ていた。

 パラソルのあるベンチに座り、俺は彼女に尋ねる。


「そうですねぇ……スライダーとか乗っちゃいます?」


「良いけど、二人で?」


「はい!」


「……」


 俺は愛実ちゃんにそう言われ、スライダーの方を見る。

 スライダーに並んでいるのは、ほとんどがカップル。

 しかも二人で滑る場合は、一人がもう一人を股の間に挟み、腰を持って滑るような格好になる。

 そんな格好になれば、彼女とかなり密着してしまうし、先輩としての威厳を無くしてしまう恐れがあった。

 いや、絶対に俺の息子が大人しくしてる訳無いじゃん……。


「一人づつなら……」


「いや、二人で来てるのに、なんで一人で滑る必要が?」


「もっともな意見だけど、あの体勢は恋仲に無い男女がするのは色々とまずい気がする」


「あぁ、先輩興奮して立っちゃいますもんね」


「下品な事を言うんじゃありません」


「もぉ〜バイトの後輩をスケベな目で見るなんて〜。先輩は変態ですねぇ〜」


「本能って怖いよね。何とも思って無くても、女の子ってだけで反応するから」


「いや、何とも思ってなかったら反応しませんよね? 勃起しませんよね?」


「だから、下品な事を言うのはやめなさい」


「先輩の方が下品ですよ? 特に存在が」


「今回は俺が怒ってもいいよね?」


「私は先輩が勃起しても気にしませんから! 行きましょうよ!」


「だから、下品な事を言わないの!!」


 そんな論争が続いた結果……。


「先輩、二十分待ちですって」


「ソウダネー」


 俺は結局愛実ちゃんに負け、一緒にスライダーを滑る事になってしまった。

 正直言うと、俺は自分の息子を抑え込む自信が無い。


「大丈夫ですって、先輩が私の胸を触ってこようが、股間を大きくさせようが、私気にしませんから!」


「気遣いありがとう……でも本人はかなり気にするんだよ」


「おっぱい触れてラッキー! くらいに思ったらどうです?」


「まぁ、好きな子とかならそう思うかもね……」


「えい」


「イダダダダ!! 痛い! 離して! 離して!!」


 俺の言った事が気に入らなかったのか、愛実ちゃんは俺のお腹を思いっきりつねる。

 そんなに怒らなくてもいい気がするんだが……。


「それにしても、なかなか進みませんねぇ〜」


「人も多いしね……それに、上の方は結構高いし、滑るのにも勇気がいるんじゃない?」


「みんな、結構渋ってますもんね」


「女の子の方が渋ってるっぽいね」


 そんな事を話しながら、順番を待っていると、滑り降りた来た大学生と思われる二人組の一人が叫んだ。


「キャー!!」


 俺は何事かと思って、見て見ると、叫んだ女の子が胸を両手で隠していた。

 どうやら滑り落ちて来た衝撃で、水着が取れてしまったらしい。

 慌ててもう一人の女性が、水着を見つけてその子に持って行っていた。


「イデデデ!! な、なにするの!?」


「いやぁ〜、女の子と一緒に来てて、他の女の子をやらしい目で見てるとムカつきますよね?」


「お、俺は別にそんな……」


 なんて事を言いながら、周りを見てみると、他の女連れの男達も腹を抓られたり、足を踏まれたりしていた。

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