第19話



「先輩」


「なに?」


「お腹空きました」


「だから?」


「奢って下さい!」


「……君は俺の事を財布か何かと思ってるの?」


 二人で歩き始めて数分、愛実ちゃんは友達を捜すどころか、祭りを楽しみ始めた。


「良いじゃないですかぁ〜、可愛い女子高生とお祭りに来れてる訳ですし〜」


「へぇー可愛い女子高生ねぇー、どこに居るの?」


「まだ抓られ足りなかったですかぁ〜?」


「そ、そう言いながら足をグリグリするのはやめて……」


 俺は仕方なく愛実ちゃんにチョコバナナを買ってあげる。


「いやぁ〜、いつもすいませんねぇ〜」


「本当にすまないと思ってるのかねぇ……はぁ……」


 俺と愛実ちゃんは、公園のベンチに腰を下ろし、買ってきたチョコバナナを食べながら話しをする。

 俺はチョコバナナではなく、自販機でお茶を買い飲んでいた。


「先輩はサークルの人たちのところに戻らなくて良いんですか?」


「まぁ最悪、温泉宿に戻れば良いだけだし。どうせ九時から飲み会が始まるし」


「良いですねぇー大学生は楽しそうでぇ〜」


「まぁ、高校の頃よりは自由だから楽しいな……愛実ちゃんこそ、みんなのところに早く戻らないと」


「大丈夫ですよ、私は先輩と一緒で楽しいですもん」


「いや、そう言う事じゃなくて……友達心配してるでしょ?」


「うーん、多分そうですね……」


「じゃあ早く探して戻った方が良いんじゃない?」


「あ、大丈夫です。さっき連絡しました」


「え?」


 まさかの返答に俺は愛実ちゃんの方を見る。

 愛実ちゃんは、笑顔でチョコバナナを食べている。

 その食べ方もなんか妙にエロかったりするのだが、今はそんな事を気にしている場合ではない。


「連絡取ったの?」


「はい、当たり前じゃないですか」


「じゃあ、皆がどこに居るかわかる?」


「はい、みんなは型抜きをしているそうです」


「じゃあ、型抜き屋に行けば合流出来るんじゃ……」


「出来ますねぇ」


「行こうか」


「まぁまぁ、そう焦らなくても」


「いや、早く合流しなよ」


「先輩が寂しいって言うから〜」


「言ってねーよ」


 一体この子は何を考えているのだろうか?

 友達と来ているのなら、早く合流して祭りを楽しめば良いのに。


「俺の事は気にしなくて良いから」


「またまたぁ〜、一人になったら泣いちゃうくせにぃ〜」


「泣かねーよ」


 俺はため息を吐きながら、愛実ちゃんにそう答える。

 まぁ、本人がそう言っているなら良いか。

 もしかしたら、あまり好きじゃない友達が居るのかもしれない。


「はぁ……俺が戻るまでな」


「はい! ありがとうございます!」


「ま、俺もちょっと戻りたくないし」


「え、なんでですか?」


「面倒な先輩が居るんだよ。愛実ちゃんみたいな」


「へぇ〜先輩は私の事を面倒だと思ってるんですねー」


「おっと! そう何度もやられない……ってイデェェェェ!!」


 愛実ちゃんからの抓り攻撃を避けたが、代わりに足を踏まれてしまった。

  

「甘いですねぇ〜」


「暴力的な女の子は嫌われるよ?」


「それで? その先輩は私と違って、どんな風に面倒なんですか?」


「スルーかよ……」


 俺は愛実ちゃんに間宮先輩に対しての愚痴を聞いてもらった。

 わがままで後輩の俺を駒のように使ってくる最低な先輩。

 そう俺が愛実ちゃんに言うと、愛実ちゃんは驚いていた。


「へぇ〜そんな人本当に居るんですね」


「そうなんだよ、全く……少し顔が良いからって……」


「へ、へぇ〜か、顔が良いんですか?」


「え? まぁ……顔だけはね」


「そ、そうなんですか……」


「あぁ、でも勘違いしないでくれよ、俺は優しくて大人な女性にしか興味ないから」


「え!? それって完全に私じゃないですか!」


「うん、完全に君とは真逆な女性だね」


 顔を赤くして照れる彼女に、俺は冷静にツッコミを入れる。

 そんな俺に、愛実ちゃんは不満そうに顔を向けてくるが、俺はあえて見ないようにする。






「岬君は!?」


「さぁ? さっきから居ないし……はぐれたみたいね」


「全く! 肝心な時に居ないんだから!」


 私、間宮御子は一緒に来ていた後輩を探していた。

 まったく、集団行動も出来ないなんて、困った後輩だ。


「まぁでも、居なくなったのはアンタが岬君に綿飴を買ってくるように言ったからでしょ?」


「うっ……で、でも! その後追いついて来なかった岬君が悪い!」


 友人の伊島愛生にそう言われ、私は思わず強きでそう言ってしまう。

 今はみんなで焼きそばを買って、祭り会場にある休憩スペースで食べていた。

 先ほどから岬君に連絡を入れているのだが、一切連絡が返って来ない。


「もぉ! なんで出ないのよ!」


「まぁまぁ、愛しい彼が居ないからって騒がないの」


「は、はぁ!? な、何を言ってるのよ愛生!」


「いや、見てれば分かるわよ。アンタは隠してるつもりでしょうけど、岬君以外のサークルメンバーは気がついてるわよ?」


 そう言う愛生の言葉に、他のサークルメンバーも無言でこちらを見てうんうんと首を縦に振る。


「な、ななななんで私が!! あ、あんな!」


「はいはい、全部言わなくても言いたい事は分かるから」


「なんで私があんな普通の男なんか!」


「へぇー、じゃあ何でアンタはさっきから岬君の心配ばっかりしてるの?」


「そ、それは……さ、サークル活動だし! 何かあったら面倒でしょ!」


 そうよ!

 これはサークル活動なのよ! 

 迷子になって、何か事件にでも巻き込まれたら面倒だし!


「はいはい、分かったから。岬君なら大丈夫よ……あ、でも……」


「で、でも?」


「綺麗で優しいお姉さんに誘惑でもされてたら終わりね、どこまでも付いてちゃっいそう」


「そ、そんな物好き居るわけないでしょ」


「岬君優しいし、そう言うところに引かれたお姉さんが、岬君を連れて行っちゃってるかもよ?」


「あ、ありえないわよ……ば、馬鹿じゃないの」


「はいはい、強がるのはやめて探しに行く?」


「………行く。でもこれは仕方なくよ!! そろそろ戻って飲み会始めないといけないからよ!」


「はいはい」


 私は皆にそう言い、仕方なく岬君を探しに向かう。

 連絡も無いし、面倒くさいが仕方なく探しに行くのよ。

 本当に仕方なくだ。

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