第17話



 俺の所属している温泉サークルは三年生の先輩が、間宮先輩と伊島先輩を含めて四人。

 そして、俺たち二年生が三人だ。

 ちなみに四年生の先輩たちは、就活が忙しいので今回は不参加だ。

 一年生は三人居るが、あんまり話しをしたことは無い。

 全員でとりあえず一つの部屋に集まり、今回の活動の趣旨が説明される。

 ちなみに現在の会長は、伊島先輩の彼氏でこの部唯一の常識人の桐谷蒼(きりたに そう)先輩。

 そして、この温泉宿の一人息子でもある。


「えっと、今回の目的は毎年年末にやっている、温泉旅行の予行演習というか、親睦会というか……多分そんな感じの名目で、皆で騒ごうっていうイベントだから、一年生は緊張しないで旅行感覚で楽しんで下さい。二年生は一年生にこれからの活動なんかを教えてあげて下さい。三年生は……とりあえず会長である僕の言うことをしっかり聞くように」


「ちょっと待ちなさい蒼。なんで私達年上組がそんな初歩的な注意なの?」


「愛生……君はなんで、うちの宿の仲居の格好なんだい?」


「花嫁修業?」


「母さんの仕業か……良いから早く着替えて来て。今日はサークル活動だろ?」


「お母さんから言われたら断れ無いわよ」


「母さんには僕から言っておくから。それと勲(いさみ)」


「ん? なんだ?」


 桐谷先輩が続いて声を掛けたのは、高部勲(たかべ いさむ)先輩。

 美男美女の多いこのサークルでは珍しい、俺と同じく普通の顔面偏差値をお持ちの先輩だ。

 気さくで話しやすい良い人なのだが、少し問題もある。

 それは……。


「その物騒なバットやバールは何だ?」


「これはあれだ! 今夜この近くで夏祭りがあるって言うから、リア充を撲滅に……」


「没収だ!」


 桐谷先輩はそう言って、高部先輩から凶器を取り上げる。


「おい! なんて事をする! これじゃあ俺は丸腰だ! 戦場に丸腰でなんてとても行けないぞ!」


「安心しろ、ここは日本だ。戦場なんて無い!」


 そう、間宮先輩を始め、この部の人たち(主に三年と四年)は変な人たちが多い。


「どうでも良いけど早くお風呂行きましょう。汗掻いちゃった」


「間宮は自由過ぎ! 何で三年はこんな変わり者ばっかりなんだ……」


 桐谷先輩はため息を吐き肩を落とす。

 会長という立場は大変だ。

 こんな変人達をまとめなくてはいけないのだから。


「はぁ……本当に君たち二年生がまともで良かったよ」


「桐谷先輩は毎回大変ですね」


「あぁ、でも最近間宮は岬に任せておけば良いから楽だよ」


「そこは俺に負担が来ないようにして欲しいものです……」


 俺が肩を落としながら先輩にそう言うと、突然誰かから服をクイクイっと引っ張られた。


「ん? どうしたんすか、先輩」


「喉乾いたから自販機でお茶買ってきて」


「……はいはい」


 服を引っ張って来たのは間宮先輩だった。

 俺は間宮先輩にいつものようにわがままを言われ、仕方なく飲み物を買いに向かう。





 夜、私は浴衣を着て、クラスメイトと約束した場所に向かっていた。

 正直あまり気は進まない。


「はぁ……面倒だな」


 ため息を吐きながら、私は待ち合わせ場所に到着する。

 待ち合わせ場所には、クラスメイトの女の子達が三人集まっていた。


「あ、愛実! 良く来てくれたわねぇ〜」


「本当は来たく無かったわよ……」


「まぁまぁ、どうせ勉強ばっかりしてる夏休みなんでしょ? 少しは息抜きしないと!」


「あんた達は息抜きしすぎよ」


 この子達は受験は大丈夫なのだろうか?

 私も人の事は言えないのだが……。

 祭りの会場で男子達と合流するらしく、私達は四人で祭りの会場に向かう。

 四人とも浴衣姿だからか、かなり視線を感じる。


「流石愛実! みんなアンタを見てるわよ」


「違うわよ、みんな浴衣だから目立つのよ」


「いやいや、あれは愛実を見てるのよ、いい加減自分のルックスの良さに気がつきなさいよ」


「別に良くないわよ……そんなに良かったら、先輩も……」


 そこまでの容姿だったら、先輩なんてイチコロのはずだし……。


「先輩……なんで返信無いんだろ……」


 相変わらず先輩からの返信は無い。

 いつもは遅くても必ず返信を返してくれるのに……。

 私はスマホの画面を見てため息を吐く。


「どうしたの? ため息なんて吐いて」


「別に、なんでも無い。早く行こ」





「はぁ〜良いお湯っすねぇ〜」


「だろ? やっぱり温泉は良いよなぁ……」


 俺達は温泉に入っていた。

 本来の目的である入浴、この時だけはこのサークルに入って良かったと実感する。

 アパートのユニットバスでは、狭すぎて入った気がしない。

 やはり手足を伸ばせる大きな風呂は良い。


「はぁ……先輩は良いですね、実家が温泉なんて」


「やっぱり、大学を卒業したら家を継ぐんですか?」


「うん、そのために経営学部に居るからね」


 俺と博男は桐谷先輩に尋ねる。

 桐谷先輩は家業を継ぐために大学で勉強している。

 将来をしっかり考えている先輩は、一個しか年が違わないのに、なんだかすごく大人に見えた。

 しかし、もう一人の先輩は……。


「おい蒼! 女湯を覗ける覗き穴を作っておけと言っただろ!!」


「そんなの作ったら客が来なくなるだろ」


 高部先輩は全裸で壁際に穴が開いていないかを探している。

 この先輩に関しては、俺よりもなんだか馬鹿に見えてしまう。

 まぁ、口には出さないけど……。


「それよりも、飲み会の前に皆でこの近くでやってる祭りに行きません?」


「祭り? そう言えば、言ってたな……」


「いいなそれ、じゃあ風呂から上がったら皆で行くか」


 夏祭りか……去年は行かなかったから、一年振りだな。

 俺はそんな事を考えながら、体の力を抜いて空を見上げる。

 空は真っ赤な夕焼け空で、蝉の鳴き声が何とも風流だった。

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