第38話



「ん! 美味しいなこの料理!」


「確かに美味しいっすねぇ~」


 卓球を終え、現在俺たちは晩飯を食べていた。

 結局卓球は店長が優勝して終了した。

 俺は卓球の後、みんなから「おっぱい星人」と言うあだ名を付けられた。

 正直もう死にたい……。


「先輩、先輩」


「ん? どうした?」


 俺が食事をしているお、急に横から愛実ちゃんが話し掛けてきた。


「はい、あーん」


「え? いや、なんで……」


 愛実ちゃんはそう言いながら、俺の方に箸を向けてくる。


「なんとなくです、食べさせてあげます」


「いや、自分で食えるし」


「まぁまぁ、遠慮せずに」


「いや、良いって」


 俺は無視して食事を続ける。

 そんな俺の態度が気に入らなかったのか、愛実ちゃんは頬を膨らませて、俺に向けていた箸を自分の口元に持って行く。


「折角私が優しくあーんしてあげたのに! 先輩これで一生女の子にあーんして貰えませんよ?」


「そんな未来を俺は信じない」


 そう言いながら俺は食事を続ける。

 一体何がしたいのか……。

 俺がそんな事を思っていると、今度は目の前の席の小山君が、俺にビール瓶を差し出してくる。


「岬君もどう? 美味しいよ」


「あぁ……じゃあ少しだけ」


 俺はコップを手に取り、小山君からビールを注いでもらう。

 自分で言うのもなんだが、俺はお酒は強い方だ。

 記憶もしっかり残るし、あまりフラフラにもならない。

 しかし、あまり飲み過ぎると直ぐに寝てしまう傾向がある。

 俺はビールを一気に飲み干す。


「ぷはぁぁぁ! うめぇな!」


「あんまり酔っ払っちゃダメだよ? 未成年も居るし」


「それは小山君もだろ、それ何本目だよ」


 小山君は既に缶ビール日本と瓶ビール一本を飲んでいる。

 なんでも小山君はビール党らしく、最初から最後までずっとビールらしい。

 ちなみに俺はビールは最初の一杯で終了だ。

 なので二杯目は自動的に缶酎ハイになる。


「先輩、酔っ払って私を襲っちゃダメですよ?」


「安心してよ、酔っ払っても愛実ちゃんは無いから」


「それはどう言う意味ですか?」


「いだだだだ!! ごめん! ごめんって!」


 愛実ちゃんは俺の脇腹を思いっきり抓る。

 一応安心させるために言ったのだが、逆効果だった様子だ。

 とは言っても、俺は本当に酔わない。

 友人と酒を飲みに行っても、少し口か数が多くなる程度だ。

 小山君もそこまで酔っている感じはしない、問題は……。


「てんちょ~じきゅう上げて~」


「ま、真嶋さん……飲み過ぎ……」


 既に酔っ払ってしまっている真嶋さんだ。

 顔を真っ赤にし店長に絡んでいる。

 いつもの真嶋さんでは、絶対にありえない様子だった。

 浴衣も着崩れており、少しセクシーな感じになっている。

 対する店長は、真嶋さんがそんな感じだからか、あまりお酒が進んでいない。


「じきゅうあげろよぉ~この雇われ店長!」


「ま、真嶋さん……酔いすぎだよ」


「ん? よってないよぉ?」


「酔っ払ってますよ、少しお水飲んで下さい」


「ん……おしゃけが良いです……」


「ダメだよ、ほら少し酔いを覚まさないと」


「じゃあ、おそといく……」


「え? 外?」


 真嶋さんは真っ赤な顔でそう言い、店長の袖を掴んでそういう。

 なんと言うか……いつも大人っぽい人が、子供っぽい事を言うと可愛いな……。


「先輩」


「ん?」


「今、真嶋さんの事可愛いとか思いました?」


「もちろん」


「えーい」


「だから脇腹はイダダダダ!!」


 なぜか知らないが脇腹を抓られてしまった。

 俺と愛実ちゃんがそんな事をしている間に、店長は真嶋さんを連れて外に出て行こうとしていた。


「ごめん、ちょっと真嶋さんを介抱してくる」


「ん~てんちょ~早くいこ………」


「わかったから……じゃ、ちょっと行ってくるね」


「了解です」


 店長はそう言うと、真嶋さんを連れて外に行った。

 残った俺たちがは料理を楽しみつつ、雑談をしていた。

 俺は小山君と安達君と酒を飲みながら、バイトの話しをしていた。

 もちろん安達君の飲み物はジュースだ。


「岬さんのポテトの塩加減丁度良いですよね」


「そう言う安達君は塩振り過ぎだって」


「でも、忙しくなると振り過ぎちゃうよね~」


 話しはバイトあるあるだ。

 あの常連が最近来ないとか、新作のハンバーガーがどうとか内容はそんな感じだ。


「それより岬君」


「ん? 何?」


 俺が三杯目の缶酎ハイに手を掛けたのと同時に、小山君が聞いてくる。


「愛実ちゃんの事は本当になんとも思ってないの?」


「へ? なんで?」


「そうっすよ、仲も良いし付き合えば良いのに」


「いや、なんて言うか……愛実ちゃんは妹みたいな感じだしなぁ……」


 愛実ちゃんは女子高生同士で話しをしていて、一切こちらには気がついていない。

 俺は酒のせいで少しテンションが高く、思っている事を包み隠さず話す。


「確かにさ、愛実ちゃんは可愛いし……おっぱいも………」


「流石はおっぱい星人」


「安達君黙れ」


「すんません」


「えっと、話しを戻すけど……愛実ちゃんは可愛いよ、でも俺のこの可愛いは、恋愛感情の好きじゃないんだよ」


「そうなのかい?」


「あぁ、なんて言うか……実家の妹を見ているようっていうか……」


「わかった! つまり岬君はシスコンなんだね!」


「どうしてそうなる?」


 どうやら小山君は、酔い始めているようだ。

 俺はそんな小山君を放って、愛実ちゃんの方を見る。 大きな瞳に綺麗な肌、胸は大き過ぎず小さくも無い。 手足もほっそりしていて、俺が同い年だったら確実に好きになっていたと思う。


「あの子はそのうち彼氏が出来るよ」


「だろうね、モテるし」


「この前もお客さんにナンパされてたっすよね?」


 出会ったばかりの頃は少し苦手なタイプだった。

 しかし、話しをしていくうちに仲良くなっていき、今では一緒に買い物に行く程の仲だ。


「ホント……可愛いよな」


 遠くで笑う彼女を見ながら、俺はぼそりと呟く。

 そんな時だった、部屋の扉が急に開き、店長が帰ってきた。

 背中には真嶋せんを背負っている。


「真嶋さん酔っ払って寝ちゃってから、女性陣の部屋につれて行きたいんだけど、鍵開けて貰って良いかな?」


「あ、じゃあ私が」


 店長からそう言われ、椎名さんが立ち上がり、店長と共に部屋を出て行く。


「岬君、飲み物買ってきてくれないか?」


「え? 有るだろいっぱい」


 小山君の頼みに、俺は机いっぱいに置かれた酒とジュースの山を指さす。


「いや、お茶を買ってくるのを忘れちゃってね、買ってきてくれる?」


「あぁ、まぁいいか……ちょっと待ってて」


「ありがとう」


 俺は小山君に言われ、財布を持って部屋を出る。





「愛実ちゃん、愛実ちゃん」


「はい? なんですか小山さん」


 私が心桜ちゃんと話しをしていると、突然小山さんから話し掛けられた。

 

「今、岬君が飲み物を買いにコンビニまで行ったから、追いかけてきな」


「え? 本当ですか」


「うん、二人きりになるチャンスだよ?」


 小山さんにそう言われ、私は勢いよく立ち上がった。

「い、行ってきます!」


「うん、気おつけてねぇ~」


 私は小山さんに見送られ、先輩を追いかけて部屋を出た。

 先輩と二人きり!

 小山先輩ナイス!

 私はこの旅行中、先輩と二人きりになる瞬間を何度も狙っていた。

 お昼に二人きりになった時も良い雰囲気になれたが、夜に二人きりと言うのは、雰囲気が全然違う。

 

「あ、いた!」


 少し歩いて私は先輩を発見した。

 

「先輩!」


「うぉ! ま、愛実ちゃん? どうしたの?」


 私は先輩の背中を叩き、先輩に声を掛ける。

 先輩は先ほどからお酒を飲んでおり、少しお酒の匂いがした。


「私もコンビニ行きますぅ~」


「あぁ、そういうことね……夜だから足下気を付けるんだよ」


「私は先輩に危険を感じちゃいます」


「なんで?」


「酔っ払った先輩が、私を襲っちゃわないか……」


「安心してよ、絶対無いから」


「むぅ……」


 私は頬を膨らます。

 別に私は先輩になら襲われても良い。

 確かにお酒の勢いとかは嫌だが、お酒が入っているのに、絶対無いとまで言われるのはなんだかムカつく。

「本当に絶対襲いませんか?」


「襲わないって」


「じゃあ、こんな事してもですか?」


「うわっ!」


 私は先輩の背中に抱きつき、自分の胸を先輩の背中に押し当てる。

 正直結構恥ずかしい。

 でも、少しでも先輩に私を意識して欲しい。

 しかし……。


「歩きにくいからやめて」


「先輩、ちゃんと付いてます?」


「何が?」


 本当にこの人は何なのだろう?

 人が恥ずかしがりながら誘惑していると言うのに、まったくなびかない。

 そんな先輩に私が若干イライラしていると……。


「ほら」


「え? なんですか?」


 先輩は私に手を差し出して来た。


「手、繋ごうよ」


「え? え!? い、いきなりなんですか!」


「いや、夜だし少し坂になってるから、転ばないように」


「あぁ……知ってましたよぉ~」


 いきなり手を繋ごうなんて言うからドキッとしたのに……。

 私は少しガッカリしながら先輩と手を繋ぐ。

 先輩の手は大きくて暖かかった。

 コンビニに向かう道は緩やかな下り坂になっており、少し気を付けないと転んでしまう。

 しかも夜と言うこともあって、足下が見にくい。


「先輩……」


「どうしたの?」


「先輩の手……暖かいですね」


「そうか? 愛実ちゃんの手が冷たいんだよ」


「彼氏とも手なんて繋いだ事ないのに……」


「彼氏居ないんだろ?」


「どうせ独り身ですよぉ~」


「俺もだから気にすんなって」


 コンビニに到着した私たちは、店内に入って目的の物を探す。

 繋がっていた手が離れてしまい、私は少し寂しさを感じた。


「えっと……お茶……お茶……お、あった」


「先輩、私アイス食べたいです」


「はいはい」


 先輩は仕方なさそうな感じで、私の持ってきたアイスを受け取り、そのままレジに持って行く。


「さて、帰ろうか」


「あ! ちょっと待って下さい!」


「ん? どうかした?」


「少し、散歩して帰りませんか?」


「え? あぁ良いけど……」


 このままただ帰るだけでは、何も進展しない。

 なんとしてでも先輩との仲を進展させたい。


「綺麗だよなぁ……」


「ふぇぇぇ! い、いきなりなんですか!?」


「だって綺麗だろ? この夜空」


「へ?」


 いきなり綺麗なんて言うから、私は自分の事だと思って勘違いしてしまった。

 ややこしいのよ!!


「先輩……もし私に彼氏が出来たら……嫌ですか?」


「え?」


 このままでは、何も始まらない!

 ここは少し積極的にならなければダメだ!

 私は先輩の横を歩きながら、そんな事を尋ねる。


「うーん……本音を言うと……ちょっと嫌かな?」


「え!? 本当ですか?」


「なんで嬉しそうなの?」


 この返答は結構嬉しい。

 そうかぁ~、私に彼氏が出来たら嫌なのかぁ~。

 私は口元が緩むのを堪えながら、先輩に尋ねる。


「な、なんでいやなんですか?」


「うーん……遊びとか誘えなくなるだろ? それは少し寂しいかな?」


「そ、そんなに私と遊びたいんですか?」


「まぁ、なんだかんだ言っても楽しいからね……」


「もぉ~先輩ったら~」


「機嫌良いね……」


 そっか~、そんな風に思ってたんだぁ~。

 お酒を飲んでいるせいか、今日の先輩はなんだか素直だ。


「それに、やっぱり可愛い子に彼氏が出来ると嫌かな」


「なんですかぁ~、私の事好きなんですか?」


「うん、好きだよ」


「え? えぇぇぇぇ!? い、今なんと?」


 突然の先輩の告白に私は驚き声を上げる。

 

「あぁ、もちろん友達としてね」


「あぁ……はいはい」


 まぁ、そんな事だろうとは思いましたけどね……。

 先輩と私は川の近くのベンチに座り、コンビニで買った飲み物を飲んでいた。


「ほい、ジュース」


「ありがとうございます」


 私は先輩からジュースを受け取る。

 先輩も自分用に買ったお茶を取り出して、飲み始める。

 私はそんな先輩の横顔をジーッと見ていた。

 私の好きな人、ずっと一緒に居たい人。

 その人は鈍感で、鈍くて、でも優しくて……。

 そんな先輩が私は大好きだ。


「先輩……」


「今度はなんだい?」


 先輩は私の問いかけに、口元を緩めながら尋ねる。

 月明かりに照らされた先輩を見ながら、私は頬が熱くなるのを感じる。

 今日の先輩はなんだかいつも以上に格好良く思えてしまう。

 なぜだろう、別に特別なにかあった訳ではないのに……。

 そんな先輩の顔を見て私は言う。


「月が……綺麗ですね」


「ん? あぁ、確かにそうだね」


「はい……」


 この言葉の意味になんてきっと気がついていないだろう。

 でも、今はそれで良い。

 いつか、私は絶対に先輩の一番になってみせるのだから。

 私はそんな事を思いながら、先輩の腕に抱きつく。


「お、おい……離れてくれよ……」


「嫌ですぅ~離れませ~ん」


「はぁ……いろいろ当たってるんだけど?」


「今日はサービスです」


「あのなぁ……」


「えへへ~」


 こんな日常がいつまでも続けば良いのに。

 願わくば、先輩と付き合う事が出来れば……。




END


 

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