崩壊

「ルカ!見て見て!」

「貝殻…これ、どうしたんですか?」

「お姉ちゃんがくれたの!」

「お姉ちゃん?」

「そう。青い髪のお姉ちゃん!持ってると、願い事が叶うんだって。」

「なるほど…願いは自分で叶えるものだと思いますが…ちなみにノアは何をお願いするんですか?」

「ルカと、ずーーっと一緒にいられますように!」


ノアが貝殻をぎゅっと握りしめる。


「ルカは?」

「明日も、何事もなくノアが笑ってますように、とかですかね。」

「ボクはいつでも笑うよ。」


ノアがルカに笑ってみせる。


「私はノアが笑えば、それでいいです。」

「うん。ボクも、ルカに笑ってほしいな。ルカはあんまり笑わないから。」

「長く諜報部にいましたからね…常に表情を消して生きてました。感情も殺して。常に冷静に。」

「そんなの、つまらないよ。」

「そうですね。」

「うん。ね、ルカ。ボクね、今日も泥棒捕まえたの。」


ノアが今日の出来事を嬉々としてルカに話す。


「ルカ、明日は一緒に遊べる?」

「今のところ依頼はないので、遊べますよ。」

「やった!じゃあね、市場行こ!」

「もちろん。」


次の日、ノアはスキップしながらルカの手をとって市場を歩いていた。


「お、今日は2人揃ってか。」

「うん!」

「あ、ノアだ!遊ぼうぜ!」

「ごめん、今日はルカと遊ぶの〜」

「そっか、じゃ、またな!」

「うん!」


ノアは1年で友達を何人も作った。

中にはアルビノのノアを嫌う人もいたが、ノアの人柄の良さから大抵はよくしてもらえた。


「ノアちゃん、これ持っていきな!余ったんだ。」

「わぁ!カレー!ありがとう!!」


ノアはお裾分けもたくさんもらっていた。

ルカはその様子を微笑ましく見ていた。

今日も漁師の船に乗せてもらい、浅瀬をゆったりと航行する。


「ねぇルカ。ボク、泳ぎたい!」

「…泳げないと聞いているんですが。」

「うっ…主様…い、いいの!泳ぐの!」


ノアが海に飛び込む。

そして波に飲まれていった。


「あ、ちょっと!ノア!!」

「あっ、がはっ…!助けっ…!」

「ノア!?ちょっと待ってろ!今浮き輪を…」


漁師が錨を下ろし、浮き輪を用意する。

ルカはそれより早く海に飛び込み、ノアの元まで泳いでいった。

そしてノアの顔が海面に出るように抱える。


「ノア、大丈夫ですから。」

「ごほっ…!」

「ルカ〜!掴まれー!」


漁師が投げた浮き輪に掴まり、引っ張ってもらう。

そしてノアを船に引き上げてもらうと、自分も甲板へ上がった。


「ノア、無茶しないでください。」

「ごほっ!ごほっ!」

「ノア、これ飲みな。」


漁師が水の入ったコップを差し出す。

ノアはそれをゆっくり飲むと、ぜえぜえと肩で息をした。

そしてルカにもたれかかる。


「怖かった…」

「バカなんですか。泳げないのに海に飛び込まないでくださいよ。」

「ごめんなさい…」

「もっと浅いところで練習してからだな。ははは」

「うぅ…」

「風邪引く前に戻ろう。うちでシャワーでも浴びてくといいさ。」

「ありがとうございます。」


漁師の家でシャワーを借りて、夕食をご馳走になる。


「そういえばペルグランデのやつが王宮に来てたらしい。また戦争でも始まるのかねぇ。」

「そういえば、ここはペルグランデが唯一負けた国だとか。」

「あぁ、あれはなぁ。どこからともなく現れた龍がペルグランデの奴を追い払ったんだ。それはそれは美しい龍だったらしい。まぁ、じいさんのそのまたじいさんの話らしいが。本当かどうかは分からんな。」

「不思議なこともあるんですね。」

「俺にとっちゃ2人もなかなか不思議だぜ?」


ルカとノアが顔を見合わせる。


「どこからともなく現れてよぉ。一躍街の人気者だぜ?何者なんだ?」

「まぁ、秘密です。」

「そんなこと言わないでさ。ほら、どっから来たんだ?」

「内緒!」


ルカとノアは笑いあった。

そして洞窟に帰り、ゆっくり眠る。

しかし幸せな日々は長くは続かなかった。


「この街にこんなやつらは来なかったか?」

「こいつらがどうかしたのか?」

「凶悪犯罪者だ。」

「ルカもノアも、そんなたいそうなことはしない。」

「どこにいる。」

「知らないな。」


サピエンティアに着いたペルグランデ軍はルカとノアの写真を街にばら撒いた。

そして情報を集めようとした。

しかし誰もが口を揃えて、2人はそんなことはしない、2人の居場所は知らないと言った。


「ルカ!ノア!」

「あ、お肉屋さん!」

「大変だ。ペルグランデの奴らがお前達を探してる。」

「…分かりました。ノア、次はどこ行きます?」

「ルカのいるところ。」

「難しいこと言いますね。」

「だめだ。今国境をサピエンティア兵が塞いでる。逃げ場なしだ。」

「隠れるしかないですね。分かりました。ありがとうございます。」

「大丈夫。誰も2人のことは話してないからな。」


ルカは深々と頭を下げた。


「さっさと吐け!」

「だから知らないと言ってるだろ!国に帰りやがれ!」


市場ではペルグランデ軍と商人たちが揉めていた。

そこにサピエンティアの兵士たちも加わり、緊張が高まっていた。


「サピエンティアの国民たちに告ぐ!この白いやつは人を食らう化け物だ!放置すればそのうちこの国もこいつに食われるぞ!」

「ノアはそんなやつじゃない!!」

「いいのか!次はお前が食われるぞ!」


ルカは街の様子を見に外へ出ていた。


「…酷いな。」

「ルカ…?」


日常は簡単に崩壊した。

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