不安と希望

ルカが2つ目の集落にたどり着いた。

そしてノアのことを訪ねてまわる。


「すみません。ここに10歳ぐらいの子どもが来ませんでした?」

「見てないなぁ。」


ルカはノアに何かあったのかと不安に押し潰されそうになりながら最後の家の扉を叩いた。

中から少女が出てくる。


「あの、10歳ぐらいの男の子が来ませんでしたか?真っ白い髪の。」

「あ、あんたも化け物なの!?」

「化け物…?ノアは化け物なんかじゃありません。」

「おい、どうしたんだよ。」


奥から青年が出てくる。


「あの、ここにノアが…」

「もしかして、あんたがルカか?」

「はい。ノアは今どこに?」

「2日前にうちに来てそのままどっかいった。それよりあんた、あの化け物の仲間なのか?」

「ノアは化け物なんかじゃない。」


ルカがはっきりと言い切ると、青年が眉をしかめた。


「あいつ、血の入った容器持ってたんだぞ?きっと誰かを殺して…」

「私の血です。」

「は?」

「だから、私の血です。別れる前に渡したんです。よかった。まだ持ってるんですね。それが分かれば十分です。お世話になりました。」


ルカは2人にお礼を述べると、西に向かって走り出した。

そして獣道にパックの残骸が落ちているのを見つけた。


「ノア…」


今まで見つけたパックには日数が書かれていた。

しかし拾い上げたものに日数は書かれていなかった。


「あとどれだけ持つんだ…」


ノアは不安になりつつ森の中を走った。

途中で通る村にノアが泊まった形跡はなく、ルカはノアに追いつくことができるのか疑念を胸に抱きつつ、痛む足に鞭打って走り続けた。

1ヶ月が過ぎる頃、ルカは広い平原に出た。周りには所々に木が生え、馬が駆けていた。


「見つかってくれ…」


放牧民に出会い、1日だけ寝食を共にする。


「ノア?」

「真っ白な子供なんですが…」

「白い子ども?…そういえば3日前に白いのがいたな。もしかしてあいつか?」

「その子、西に向かってました?」

「あぁ、夕日に向かって走ってたな。」

「よかった…ありがとうございます。」

「兄ちゃん、西に向かってんのか?」


ルカが頷く。


「そうか。あそこはいいところだぞ。優秀な王様のお陰で平和でさぁ。港の方は活気があるんだ。」

「それは…楽しみです。」

「おう。ノアに会えるといいな。」

「はい。」


ルカは放牧民に会うたびにノアについて聞いた。

ノアとの差は一向に縮まらない。

それどころか徐々に離されていた。

そんなある日、獣に襲われているキャラバンを見つけた。

急いで駆け寄り、獣を追い払う。


「兄ちゃん!ありがとうな!」

「いえ、このくらい…そうだ、真っ白い子ども、見ませんでした?ノアと言うんですが…」

「真っ白い子ども…」

「それなら3日前にすれ違ったぜ!」

「本当ですか!?」

「そろそろサピエンティアにつく頃じゃないか?」

「サピエンティア?」


ルカは聞き慣れない言葉に首を傾げた。


「知らないのか?サピエンティアはペルグランデに唯一勝利した都市国家だ。海の綺麗なところだよ。ほら、あの山を越えた先がサピエンティア。」

「…サピエンティア。知恵の国、か。」

「賢い王様が治めているんだよ。」

「そうですか…」


終着点が分かったことで安心感が増す。


「兄ちゃん、助けてもらったお礼だ。うちの馬を貸すよ。サピエンティアに着いたらここに引き渡してくれ。」


キャラバンのリーダーが一頭の馬を貸してくれる。

ルカはノアとの生活を思い描きながら西へ馬を走らせた。

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