化け物

12日目、ノアは2つ目の集落にいた。

1人で歩いていると、青年に声をかけられる。


「君、ここの村の子じゃないよね。」

「うん。」

「どこから来たの?」

「お山の向こう。」

「1人で来たの?」

「うん。後からルカが来るの。だから2泊するの。」

「泊まる場所、あるの?」

「ないよ。野宿するの。」


青年が渋い顔をする。

そしてノアに手を差し出した。


「僕の家に来ない?」

「いいの?」

「もちろん。」

「ありがとう。」


ノアは青年に連れられて青年の家に行く。


「お兄ちゃん、一人暮らし?」

「妹がいる。もうすぐ帰ってくるよ。」

「そうなんだ。」


それから少しして帰ってきた青年の妹は、ノアを訝しげな目で見た。


「お兄ちゃん、その子誰?」

「ノアと言うそうだ。何でも人を待ってるんだって。だから2日間だけうちに泊めることになった。」

「…ふーん。」


ノアは少女にぺこりと頭を下げた。


「ノアは何を食べたい?」

「お肉!」

「肉かぁ。狩りに行かないとなぁ。」

「食べたいなら自分で行きなさいよ。」

「おい、客に向かってそんなこと…」

「うん。いいよ。」


ノアは少女の言葉に笑って頷いた。

そして青年が止める間もなく日の傾き始めた中、森へ走っていった。


「行っちゃった…」

「何も持たずに行くなんて、相当なバカね。」

「お前なぁ…」


少女がノアの置いていったリュックを勝手に開ける。

そして中に入っていたものを見るなり、悲鳴をあげた。


「な、なにこれ!!」

「血…?」

「あいつ、きっと危ないやつよ。きっと殺される…!ねぇ、追い出して!」

「ま、まだやばいって決まったわけじゃ…」


2人で騒いでいると、何かを落とす音が聞こえた。

2人がそちらを見ると、ノアが口元を真っ赤に染めながら震えていた。

その足元には立派なイノシシが落ちていた。


「それ…返して…返して!」


ノアがパックに手を伸ばすと、少女がノアに向かってリュックを投げつけた。


「っ!」

「化け物!」


ノアがひゅっと息を飲む。

そして何も言わずにリュックを持って駆け出していった。

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