再会

ノアは目を輝かせていた。

45日に及ぶ移動の果てに着いたのは、海の美しい小さな都市国家だった。


「ルカ、ボク、ここで待つよ。ずっと。」


ノアは崖の上から海に沈む夕日を見ながら呟いた。

ルカは同じ夕日をサピエンティアを囲む山の中から眺めていた。


「…見つかる。必ず。」


ルカはそう呟くと、更に歩みを進めた。

山の中にかなり広めの集落を見つけた。


「あれ?お兄ちゃん、誰?」

「ルカと言います。東の方から来ました。ここに白い男の子は来ませんでしたか?」

「うーん…僕らいっつも訓練してるからなぁ。」

「訓練?」

「うん!みんな頑張ってるんだ。ここで一番になったらお城で執事になれるんだ。」

「執事に…?」


ルカは周りを見渡して気付いた。


「…子どもだけ…?みなさん、両親は?」

「いないよ。」

「いないけど、僕らみんなで協力して暮らしてるんだ。」


子どもたちが貧相な野菜を持って料理をしていた。


「すごい…」

「お兄ちゃん、街に行くの?」

「えぇ。待ってる人がいるんです。」

「そっか。会えるといいね。」

「はい。ここから街まで、どのくらいですか?」

「うーん、僕らの足なら歩いて2時間ぐらいかな。あ、でも任務の時は10分。」

「任務?」

「うん。時々お城に呼ばれるんだ。あ、ほらあの道を通るのが1番早いよ。」


子どもが指し示す方は険しい道のりだった。


「馬が通れる道ですか?」

「うーん…分かんない。安全な道ならあっち。でもちょっと遠回り。気を付けてね。」

「はい。ありがとうございます。」


ルカは安全だという道を歩き出した。

夜も馬を引いて歩き続け、明け方になって街についた。


「…ノア、今会いに行きます。」


ルカは呟くと、とりあえず馬を指定された場所に引き渡し、街を歩き回った。

まだ発展途中の国らしく、雑然としていた。


「あの、真っ白い子ども、見ませんでした?」

「白い子ども?あぁ、あの子か。どこに住んでるのか知らないが、よく市場に来てはみんなから施しを受けてるよ。」

「市場ですね。わかりました。ありがとうございます。」


ルカは街の中を歩き回った。

日も傾きだした頃、ノアが寝泊まりしている場所を知っている人を見つけた。


「ノアちゃんなら、あっちにいるよ。今の時間なら崖で夕日を見ているんじゃないかねぇ。」

「ありがとうございます!」


ルカは崖に向かって走り出した。

そして小高い丘を登る。

その先に崖に腰掛けて夕日を眺める真っ白な子どもがいた。

その髪は夕日を反射して紅く輝いていた。


「ノア…」


子どもの肩がピクリと震える。

そしてゆっくりと振り返った子どもはルカをみとめると、すぐに駆け出してルカに飛び付いた。


「ルカぁ〜!!」

「ノア、会えてよかった。」


ルカはノアをしっかりと抱きしめた。


「ルカ、会いたかった…ボク、頑張ったよ。頑張って、走って…」

「あなた、途中から休みほぼ無しで走ったでしょう。」

「あのね、怖くて…ルカがくれたの、見つかっちゃったの。それで化け物って…」

「あなたは化け物なんかじゃありませんよ。」


ノアがルカの胸に額をぐりぐりと押し付ける。


「もう、ずっと一緒にいられる?もう、逃げなくていい?」

「はい。ここでゆっくり暮らしましょう?」

「うん…!」


ルカはノアと崖に腰掛けた。

そして日が沈むまで海を眺めた。


ノアが寝泊まりしていたのは、崖の下にある洞窟の中だった。

1本だけ生えている大きな木のウロから入れるらしく、ノアはそこにもらってきた藁を積んで寝床を作っていた。


「ご飯はどうしてたんですか?」

「市場の人が分けてくれたの。これは売れないからって。」

「そうでしたか…明日は仕事でも探して、ちゃんと稼がないと…」

「うん。…ルカ、噛んでいい?」

「どうぞ。」


ノアがルカの手首に噛みつく。

そして腕を流れ落ちる血を啜った。


「…美味しい。ルカの味だ…」

「パック、持ってたでしょう?」

「うん。でも違うんだ。ルカの味なんだけど…なんか違うの。」


ルカが優しくノアの頭を撫でる。


「ルカ、好き。」


ノアはルカの腕の中に収まったまま眠った。

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