第2章
異文化
「ん…ルカ…」
「目が覚めました?」
「うん。」
「よく眠っているようだったので、先に市場行ってました。」
「ボクも行きたかったな…」
「今行ったら捕まりますよ。」
ノアが不服そうに頬を膨らませる。
「ほら、ご飯食べましょう?」
ルカがパンと簡単なサラダを並べる。
ノアがパンをつんつんとつついたり、持ち上げたりして観察し始める。
そして端を少し齧ると、渋い顔をした。
「…ぼそぼそする。ボクこれ嫌い。」
「スープでも用意できればよかったんですが…付けて食べれば、ぼそぼそしませんよ。」
「うん…」
ノアは渋い顔のままサラダに手を伸ばす。
「…葉っぱ…」
ノアはサラダを一口食べると、水で一気に流し込んだ。
「うぇ……苦い……」
「野菜は苦手ですか?」
「うん…不味い…」
「…これは?」
ルカが買ってきた食料の中から干し肉を出すと、ノアの目が輝いた。
「お肉だ!」
「はい、お肉です。」
「食べる!」
「どうぞ。」
ノアはルカから干し肉を受け取ると、思い切り噛み付いた。
しかしなかなか噛みきれないらしく、悪戦苦闘する。
「…硬い。これ、本当にお肉?」
「えぇ、お肉です。不満ですか?」
「ボク、生肉がいい。」
「生ですか…」
「うん、生が1番美味しいよ。ルカも今度食べてみなよ。」
「…すみませんが、私は生肉が苦手なんです。」
「えー。」
ノアが頬を膨らませながら干し肉を齧る。
「…ノアはいつも何を食べてたんですか?」
「んっと…鹿さんとかかな。美味しいよ。」
「鹿ですか…牛とか、豚は?」
「分かんない。」
「後で買ってきます。」
「ボクも行きたい。」
「ダメです。大人しく待ってて。」
「えー。」
ノアは文句を言いつつ大人しく干し肉を食べきった。
「さて、掃除しましょうか。」
「うん。」
ルカが市場で買ってきた箒で小屋の中を隅々まで掃き、ノアが泉から水を汲んできて雑巾で壁を拭く。
所々脆くなっている箇所は森から拾ってきた木材で補強した。
そしてネズミが飛び出してくるたびにノアがネズミを捕まえてはその場で食べ始めた。
「ノア、そこ血だらけ。」
「掃除する!」
しかしノアはネズミが出るたびにそちらに行くため、掃除が全く進まない。
「…ノア。食べるなら外でにしてください。」
「ごめんなさい…」
ノアがしょんぼりした顔でネズミを手に外に出ていく。
ルカがため息をついて再び掃除を始めた。
しばらくすると、ノアの苦しげな声が外から聞こえてきた。
「ノア!大丈夫ですか?」
「ごほっ…ごほっ…!おぇ…っ!」
ノアが苦しげに吐き出したのは大量の毛玉だった。
「はぁ…はぁ…」
「もしかして…食べるの苦手なんですか…?」
「あはは…毛皮、取るの忘れてた…」
「はぁ…ネズミ食べるのは禁止します。」
「ごめんなさい…」
ノアが落ち込んだ顔をする。
ルカはノアの頭をなでると、泉から水を汲んで差し出した。
「ほら、ゆっくり飲んでください。」
「ん…ありがと…」
水を飲むと、ノアはすっかり元気になったようで、綺麗になった小屋の中で走り回り出した。
「ノア、磨いたばかりなので滑らないように…」
「うわぁ!」
ノアが派手に転ぶ。
「うぅ…痛い…」
「だから気を付けろと……」
「ルカぁ…」
「はいはい、おいで。」
ノアがとてとてと歩いてきてルカの腕の中に収まる。
「痛かったぁ…」
「ちょっと見せてください。…あぁ、顎、擦りむいてますね。」
「痛い…」
「まだ薬はないんですよ…とりあえず洗いましょうか。」
「うん…」
ルカがノアを抱き上げて泉に連れていく。
「ちょっと染みるかも。我慢してくださいね。」
「ん……痛っ!」
「我慢。」
軽く傷を洗ってやると、ノアは涙目でルカの服を掴んだ。
「ボク、頑張った。」
「頑張りましたね。えらいえらい。」
ルカがぽんぽんと頭をなでると、ノアはぐりぐりとルカの腕に頭をすりつけた。
「じゃあ私は買い物行ってくるんで、大人しく待っててくださいね。」
「うん…お肉は生がいいな…」
「分かりました。」
ルカはノアを小屋に残して城下町へ向かった。
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