第3章

逃亡

ノアは必死で走り続けていた。

背後からは何人もの追っ手が迫っていた。


「どうしよう…振り切れない…!」


ルカと落ち合うはずの湖は目前に迫っていた。


「今度は…ボクがルカを守るから…!」


ノアは進路を変えて湖から遠ざかるように走った。

木の上に飛び乗り、木に隠れるようにして走るが、追っ手を巻くことは出来なかった。


「主様…助けて…」


ノアは走り続け、目の前に現れた洞窟の中に飛び込んでいった。


「はぁ…はぁ…」


ルカは銃声が鳴り響く中、必死に走り続けた。

エリートと呼ばれただけあって追っ手に追いつかれることはなかったが、午前中に撃たれた肩から血が流れだす。


「くそっ!」


どのくらい走ったか分からない。

辺りが朝日に包まれる頃、目の前に集落が広がった。

ルカはそこに逃げ込むと、状況をすぐに理解した老婦人に家に匿ってもらえた。


「ここに男が来ただろう。」

「さぁ、見てませんねぇ。」

「少し家の中を調べても?」

「構いませんが、兵隊さんの探しているようなものはありませんよ。」


兵士たちは部屋の中を調べてまわったが、何も見つからずに舌打ちしながら家を出ていった。


「…もう大丈夫だよ。」

「助かりました…」


ルカは隠し部屋から出て老婦人に頭を下げた。


「あんた、若いのに何したんだい?」

「アヴェルスって、ご存知ですか?」

「あぁ、人を食らう獣かい?この村でも2人も食われたよ…」

「…そのアヴェルスを、連れ出して一緒に暮らしてたんです。その住処が見つかってしまって…」

「アヴェルスと?」


老婦人が眉をひそめる。


「はい。あの子は食人族の子どもらしくて…でも本来人は食べないんです。最近も、誰も被害には遭ってないでしょう?」

「最近めっきり姿を見せないと聞いているよ。」

「あの子は、血が少しあればいいんです。肉は必要ないんです。でも、雨の日は自我が保てなくなるほど血を欲して、人を襲っていたんです。」


ルカは匿ってもらった分、ノアについて説明した。


「そうかい…それは可哀想に…」

「…あの子は無事に逃げられたでしょうか…」

はぐれたのかい?」

「はい…落ち合う場所までに追っ手を振り切れなくて…」

「…食人族なら、ある程度集落は分かるがねぇ。」

「っ!食人族のこと、分かるんですか!?」

「分かるとも。ここは神様のお山に近い場所だからねぇ。言い伝えやら、噂やらが多いのさ。」


老婦人が懐かしむように目を細める。


「教えて頂けませんか?」

「構わないが…アヴェルスを探さなくていいのかい?雨が降ったら、また自分の意思とは関係なく人を襲うんだろう?」

「…はい。」

「朝方、もう少し下ったところで兵隊さんの鉄砲の音がしたから、そこかもしれないよ。」

「ありがとうございます。いってきます。」

「あぁ、わたしゃお前さんの味方だからね。」


ルカは大きく頷くと、老婦人の指し示す方に向かって走り出した。

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