救出

ルカが老婦人に教えられた通り山を下っていくと、兵士の姿が見えた。

物音を立てないように近付く。


「…洞窟か…」


兵士たちは何やら話し合うと、洞窟の中に入っていった。

そして銃声が鳴り響く。

ルカはすぐに洞窟に飛び込んでいった。

洞窟はいくつもの分岐があり、薄暗くて迷路のようだった。


「暗いな…」

「誰だ!」

「おっと。」


ルカは兵士を見つけると、すぐに背後に回り込み、首筋に手刀を叩き落とした。


「っ!」


兵士を気絶させ、端に横たえる。

そしてそのまま探索を続ける。

時折響く銃声は反響してどこから聴こえるのか分からなかった。


「いたぞ!」

「いや、あれはアヴェルスじゃない…誰だ!」

「答える義理はないんです。ごめんなさい。」


ルカはナイフを投げて兵士のもつハンドガンを弾き飛ばすと、懐に入り込んで投げ飛ばした。


「アヴェルス、何処にいるんですか。」

「る、ルカ…っ!反逆者!」

「っ!」


もう1人の兵士の撃った銃弾が頰を掠める。


「ぎゃーー!!」


別の場所から悲鳴があがる。


「な、なんなんだ!」

「助けてくれー!!食われる!!」


奥から片腕がなくなった兵士が尻もちをついた状態で必死で後退あとずさりして出てくる。


「…ノアが、いるんですか?」

「う、動くな!」

「うるさい。ノアは人は食べない。退いて。」


ルカは気絶している兵士の銃を拾い上げて、銃を向けてくる兵士の手元を撃ち抜いた。


「ぎゃぁ!!」


兵士が手を押さえてうずくまる。


「ゔゔ……グルル…」


洞窟の奥から唸り声が聞こえてくる。

ルカは声の聞こえる方へ足を踏み入れた。

しばらく歩くと、奥から真っ白なものが飛びかかってきた。

そして首を狙って噛み付こうとしてくる。

ルカはそれを抱きとめると、口を抑えて噛み付かないように引き離す。


「ノア。」

「…っ!」


ノアの動きが止まり、ルカの顔をじっと見つめる。

そしてぶわっと大きな瞳から涙が流れた。


「ルカぁ…!!怖かった…!」

「よく頑張りました。怪我はありませんか?」

「膝擦りむいたぁ!」

「それだけ?」

「うん…」

「よかった。ノアの仲間のこと、知ってる方がいたんです。会いに行きましょう?」

「うん。」


ルカがノアの涙を指で拭ってやる。


「自分で歩けますか?」

「うん。歩けるよ。」

「いい子です。」


ルカが立ち上がって歩きだすと、ノアがその手を握って隣を並んで歩いた。


「ひっ!化け物!」

「おじさん…腕、返す。ボクいらないもん。」


ノアが洞窟の奥を指差す。


「ひぃぃ!」

「言ったでしょう?ノアは、人は食べません。」


ルカはノアの手を引いて来た道を戻っていった。


「ルカ、ボクのこと知ってる人、いた?」

「ノアのことというか、ノアと同じ人たちのことです。」

「ボクと同じ?」

「そう。食人族。」

「ボクは食人族じゃないもん。人食べないもん。」

「主様のお山、ここから近いんじゃないですか?」


ノアの肩がびくりと震える。


「何で…」

「教えてもらったんです。神様のお山の側だと。」


ノアが頰を膨らませる。


「主様のことは教えちゃダメなんだよ!」

「ノアは教えてくれたじゃないですか。」

「うっ…ルカは信じられるもん。」

「ノアのこと、教えてくれませんか?私だって何も知らずに痛い思いするのは嫌なんです。」

「でも主様が…」

「その主様って、白金の髪のお兄さん?」

「え!?何で…!!」


ノアが目を丸くする。


「少し話したんです。その人に頼まれたから、私はノアと逃げたんです。」

「いやだ…ルカ、ボク話したくない…」

「あなたは話さなくてもいい。ただ、一緒に話しは聞いてください。」

「聞きたくない!」


ノアがルカの手を振り解こうともがくが、ルカはノアの手をしっかりと握って離さなかった。


「やだ…!みんなボクたちを嫌うんだ!嫌だ!ルカに嫌われたくない!」

「ノア…」

「嫌だよ…ボクは…化け物なんかじゃ…」

「ノア、それはわかってます。短い間でしたが、一緒に暮らしたでしょう?」

「…うん。」

「大丈夫。嫌ったりしません。」

「でも…嫌だ…怖い…」


ノアは村に着くと、ルカの陰に隠れて歩いた。


「おばあさん、私です。今朝はお世話になりました。」

「あぁ、来たね。その子がアヴェルスかい?」

「はい。本当はノアと言います。あ、私はルカと申します。」


ノアはルカの後ろに隠れて老婦人を警戒するように見ていた。


「2人とも、お上がり。話そう。」

「ありがとうございます。」

「ルカ、ボク嫌だ。お外にいる。」

「…分かりました。気を付けてくださいね。」

「ノアちゃん、それならお庭においで。あそこは外から見えないからね。」

「…うん。」


ルカが裸足のノアを抱き上げて縁側から庭に下ろす。

ノアは庭の池を覗き込んだり、飛んできた鳥を追いかけて遊び始めた。

その様子を縁側に座ってルカと老婦人が眺める。


「さて、何から話そうかねぇ。…あの子は人は食べないと言ったね。」

「はい。主様のお山から来たとか。」

「それなら、あの子は最後のルプスの民なんだね。」

「ルプスの民?」

「そう。食人族も2つの部族がいてね。人を食べないルプスの民と、人を食べるウルラの民がいるのさ。」


そして老婦人は静かに語り出した。

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