にわか雨
「今月で16人…」
「今日こそ…」
誰もがそう呟いてはため息をついた。
「まだ郊外に収まってる分、混乱は小さいからいいけど。」
「中に入られたら悲惨だな。」
「あぁ。」
ルカとアイクは毎日のように郊外の巡回に当たった。
しかしその夜襲われたのは城下町の市場だった。
「ついに中まで来やがった…!」
「どうする…」
誰もが深刻な顔をしていた。
「城の周りに兵士固めるみたいだな。」
「特殊部隊は街の巡回か。」
「そろそろだな。行くか。」
ルカとアイクは雨の降りしきる中、夜の街に出ていった。
「街の中だと足音もするかと思ったんだけど…」
「騒音がすごいな。」
「おや?エリート様じゃないですか。」
「ヨシュカ…あなたの巡回範囲はここじゃないはずですけど。」
「手柄を独り占めされちゃたまらないからな。」
「そうですか。では、職務に戻るので。」
ルカは
アイクが慌ててそのあとを追う。
「時間的にそろそろ出ると思うんだが。」
アイクが時計を見て呟く。
時刻は午前2時を過ぎたところ。
「警戒するに越したことはないから。気をつけて。」
「あぁ。諜報員のルカには気配を感じ取るぐらい余裕だろ?」
「買い被らないでくれ。それにこんな誰が聞いてるか分からないところで言うなよ。一応秘密なんだから。」
「悪かったって。」
日が昇り、巡回の時間を終えて2人で城に戻ると、城の周りで騒ぎが起こっていた。
「隊長、何があったんですか?」
「……遂に、ここで被害者が出た。」
隊長が指し示す先では、兵士が血に塗れて生き絶えていた。
その身体は所々食い千切られた跡が生々しく残っていた。
「こんな城の近くで…」
「も、目撃者は!」
「いない。ちょうど他の隊員が離れた時だったらしい。」
「こんなに周り固めてもダメだなんて…」
誰もがその惨状に絶望した。
遂に非常事態宣言が発令され、深夜の外出は全面的に禁止された。
雨の降る夜には市民は避難所に集められ、その周囲を兵士が囲んだ。
「すごいな…」
「ここまでしないと捕まらないってことだよな。」
「アイク、市民を守るのを最優先しろって命令だ。あんまり避難所から離れないようなルートを選ぼう。」
「そうだな。」
その夜は雨だった。
「いないな、アヴェルス。」
「それどころか、人っ子一人いないから。」
「いても困るけどな。」
「まぁね。」
雑談をしながら歩いていると、ルカの視界の端に白がひらめいた。
ルカが、琥珀色の瞳を走らせると、屋根の上に美しい白い髪の子どもがいた。
その子どもは屋根の上から避難所を見下ろしていた。
「アイク、あそこ。」
ルカが声のトーンを落としてアイクに屋根の上を指し示すと、アイクが目を見開いた。
「ガキじゃねぇか。おい!そこのガキ!何してんだ!」
「…!」
子どもは、ぱっと振り向くと、すぐに走り去った。
「あ!待て!」
ルカがすぐに屋根に飛び乗って子どもを追いかける。
しかし子どもは屋根の上を次から次へと飛び移り、あっという間にルカを引き離した。
そして子どもの消えた先で悲鳴が上がる。
ルカが屋根を飛び降りると、子どもが兵士の腕を食い千切っていた。
そしてルカの姿をみとめると、腕を口にくわえて四足歩行で闇に消えていった。
「ルカ!あのガキは!」
「逃げられた…人とは思えない速さで…」
「おい、お前、あいつの顔見たか?」
アイクが襲われた兵士の腕を縛って止血をしながら尋ねる。
「み、見た!こ、子ども…!」
「後は!」
「真っ赤な目をして…!肌も真っ白で…!」
「…アルビノか?」
「かもしれない。とにかく報告を。」
「ルカ、先に行け。俺はこいつを運ぶ。」
「分かった。」
ルカが走って城に報告に戻る。
「そうか。今回は怪我人だけか。」
「はい。それにアヴェルスの正体も分かりました。」
「なんだと!?それを先に言わないか!」
「すみません。アヴェルスは、アルビノの子どもでした。真っ白な肌に真っ白な髪。そして真っ赤な瞳の。」
「アヴェルスが子どもだと!?」
隊長の驚いた声にルカはゆっくりと頷いた。
「確かに見たんです。しかしあの子どもは人とは思えない速度で走ることが出来ます。現に追い付くどころか、引き離されました。」
「それで捕まらなかったと。」
「はい。申し訳ございません。」
「構わない。…ただ、白い髪の子どもなんてごまんといるぞ…」
「街にいるのは栄養失調で白髪の子です。アヴェルスは本当に綺麗な髪でした。」
「なるほどなぁ…」
証人が3人いると言うことで、証言の信憑性が認められた。
そして髪の白い子どもは教会に集められ、軟禁されることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます