本隊
卿はやはり体調が優れず、しばらく姿を見せなかった。
数日後、どうやらさきの〝敵〟の本隊が、砦境にいる。それを戦士らの一団で討伐に行く、ということが城内で決まったらしい。ヒュリカもその中に入っている。
ミシンは王間へ呼ばれた。その話だろうことはわかっていた。
ケトゥ卿は、最初に会ったときと変わらぬ様子で、玉座にかけていた。
ミシンは少し安心して、跪く。
「ミシン殿。砦境に〝敵〟の一隊がいること、聞き及んでおるかな? 実はこれを討つ戦士の数が少し足りぬ。そこで、そなたらの中から、今回は二人でよいので戦力を貸してほしいのじゃ」
「はっ」
いよいよ、卿直々の命だ。ミシンは勿論、自身が行くものと決め込んでいた。
「では、よろしく頼むぞ――」
「えっ」
卿が呼んだのは、ミシンの後ろに侍る二人の騎士の名だった。
「何故……」
いちばん実戦経験のあるミジーソはわかる。しかし、先日、自分は〝敵〟を倒した。それに、自分は聖騎士なのだ。ミシンは納得がいかなかった。
このことは事前に、卿がミシンの世話役でもあるミジーソに話をしていたのだった。
ミジーソは、考えたが、ミルメコレヨンに事を打ち明け、彼に来てもらうよう言いミルメコレヨンも承諾した。
「ミジーソ。何故、あなたが……あのときの――」
気持ちをわかってくれていたのではなかったのか。そうミシンはこの場で言いたかった。
「ミシン殿。これはまだ本戦ではないのだ。〝敵〟の本隊と言っても、先日ここに入り込んだやつらと同じ〝敵〟の本隊だから、少しばかり数が多いだけで、大したことはないとのことなのだ」
そこへ、ミルメコレヨンが「あなたでも倒せたんだ」と小さく付け加える。
「な、ならそれこそ、僕が……!」
「そのようなことに、聖騎士たるあんたが直々に出向くこともあるまい」
ミルメコレヨンはしれっとしてミシンの方を向くこともなく言う。
「そうです。ミシン殿は我らの主。卿は二人でいいと行っているのじゃからここはどうか」
ミジーソは諭すように言う。ミルメコレヨンはともかく、ミジーソに言われたとしても、ミシンは引き下がりたくなかった。
「ふふぅ。卿の前で身内の喧嘩というのもみっともないですぞ」
誰の発言のせいだ。ミシンはミルメコレヨンを睨むが、ミルメコレヨンは目を閉じて軽く笑むだけでそこに侍ったままだ。
ミシンは腹立たしさを抑えられないが、これ以上、卿の御前で言い合うわけにもいかず、卿に向き直り非礼を詫びた。
そこへ、別件で呼ばれたのかわからないが、ヒュリカも来たために余計ミシンは居たたまれない気持ちになった。
卿も、ミシンを宥めて言う。
「なにミシン殿。今回はさほどと言うことはないのだよ、二日三日で戻ってくることであるし」
ヒュリカは、少し離れたところに侍り、何も言わずにそれを聞いている。
ヒュリカ。きみは何も言ってくれないのか。あのとき、一緒に戦うことを言ってくれたじゃないか。ミシンはそう目で彼女に訴えるが、そもそも状況がわかっていないヒュリカは、小首を傾げているだけだ。
「のう、ここは、この二人は境界での実戦経験もあることじゃから」
勿論、卿にそう言われれば従うしかないことはわかっている。でもミシンは最後に聞いたところに「えっ」と思わず声をあげた。ミルメコレヨンは、境界での戦を知っているというのか。ミシンはその後は言葉もなく卿に頷き、二人の騎士を従えその場を後にした。ヒュリカはこれから卿との話があるようで、その場に残った。
ミジーソは、「我々にお任せくだされ」とだけ言い、引き下がっていった。
「私らのいない間にこちらで何かあるようなら、マホーウカ達と協力してやるといいさ」
ミルメコレヨンはそうミシンに言って、「優秀な部下だ」と付け加えた。
そう言えば、その台詞は旅の最初にも聞いたな、とミシンは思い、心の中でどこが! と言ってふてくされてしまう気持ちにならざるを得ないのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます