第2章 ケトゥ卿の地
ケトゥ卿の地
ミシンらはただ小雨の中を歩いていた。
しばらくは景色として感じられるものもなかったが、少しずつ、木々や、岩かと思われるものの形が薄っすら、それから灯りと思しき光が一つ、二つと見え始めるのだった。
「どうやら、我々は無事、回廊を抜けたようですな。ミシン殿」
ミジーソが呟くように口を開く。
「そうか……」
ミシンは頷き、ミルメコレヨンもフム、といったふうに辺りを見回した。
ここはもう外、か。だとすると、ぼんやりと明るく、夜ではないと思われた。
小雨の中に、土地の植生が生い茂っているのが、影法師のように見えてくる。
白く煙る遠くに、ごくかすかに町の影が見える。
見えているのは、城塔か砦か高い建物だろう。
その下に町明かりがある。
距離具合からするに、どうやら今ミシンらがいるのは幾らかの山腹らしい。
そう言えば、回廊の入り口もちょっとした山の頂きにあったのだ。
回廊の出入り口は高いところに設置されているものなのだろう。
緩いくだりを下りきったところに、小さな詰め所があった。
小雨は、霧に変わりつつある。
やはり景色は半ば、影絵のようだ。
詰め所には数人の兵が駐屯していた。
「ようこそ。お待ちしておりました、騎士殿」
兵らの代表者が歓迎の意を述べて、ミシンら一行を出迎えてくれた。
「――ケトゥ卿の地へ」
間違いなくここが、卿の守る土地。
さきほど山腹から見た城下の影が、ケトゥ卿の住まう城とその城下だろう。
ミシンは、今、境界の土を踏んだのだ、との思いに駆られるのだった。
城下までの道は整備が行き届いており、危険もなく、一刻半も歩けば町外れに行き着くという。
兵の一人が、先導してくれることになった。
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