第I部
第1章 雨の回廊
旅立ち
暗い王の間で、洗礼を受けた。
雨の回廊を通り抜けて、ミシンはケトゥ卿の守る地へ赴くことになる。
境界にある七つの砦の一つだ。
外縁に近い側の四砦は敵の手に落ちており、二つも連絡が途絶えている、という。
境界の戦いにおける、最後の拠点となっている砦だ。
「冴えない顔のミシン。この者を、この年の新しい騎士とする」
王の間には、数人の近臣が床から突き出る影の棒のように、動きもせずに立っている。
暗がりの中でミシンの顔は、喜びに満ちていた。とうとう、騎士になれた。そして、
「恋人のいないミシン。精霊は、この者が童貞であると告げている。よって、ミシンに聖騎士になる資格が与えられる。成人儀まで、そうあらねばならん。また、聖騎士になった後も、己の任務を達するまではそうあらねばならん。誓えるか」
ミシンは王の突き出す剣に誓い、その剣を誓いの証に受け取った。
「王。与えられる任務とは……」
「おまえは、境界に赴くことになる。そこでの戦いは、おまえにとって長い旅の始まりに過ぎないだろう」
王の厳しい口調が、ミシンの耳に残った。
王の表情は暗がりの中、全く見えないものだったが、退出するときにミシンの背中にまで王の鋭い視線が突き刺さっていた。
退出して、抜き身した剣の鋭さも、王の視線を映し出しているようで心安くなかった。
だけどこの鋭さは彼に与えられた緊張でもあった。
小さな剣であったが、重さがあった。
この鋭さと重さを早く自分のものにしなければ。
任地が告げられた後、王は二人の騎士の名を呼ばわっていた。
「ミジーソ。ミルメコレヨン」
影でしか見えなかったが、背中の曲がった大きな年寄りと、背の高いのっぽの男の二人が居並ぶ近臣らの最後尾から歩み出た。
「二人が、おまえの旅に付き従う」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます