雨の回廊へ
雨の回廊は、詩人と魔法使いが長い時をかけて造り上げた魔法の移動通路で、都から最も外れた山の頂にその入り口がある。
雨の回廊までの途を行く三騎。
その後に二人が、騎装していない荷馬を駆って、つけている。
ミジーソは、すでに引退して隠居していた白髭の元騎士。
背が曲がっているが、間近で見てみると現役にも見ないほどの巨躯だった。大斧と、背に弓を下げている。
ミルメコレヨンは素性は知らされていないが、人と上手く合わせることができずに騎士団を除名された騎士だとも、なんらかの罪状を持つ騎士だとも噂される者のようだった。
その話もこれまで聞いたことのある話ではなく、城の者に聞いて初めて知った話、ミルメコレヨンの名も初めて王の間で知った名であった。
年は少なくともミシンより一回り以上は上と思われた。
ついてきている荷馬の二人はこのミルメコレヨンの私的な使いらしく、旅の直前に王に許可を通し連れてきたということだ。
「有能な部下だ。役に立ちましょう」
とだけミルメコレヨンは言い、二人の部下の内一人は伏目のまま軽く会釈し、もう一人はどこか見当外れの方角を向いて頭も下げないままだった。
ミルメコレヨンも含めその後は三人とも何も喋らなかった。
ミルメコレヨンの武器はこの二人が携えている。
年の程は、おそらくミルメコレヨンと同じくらいなのか、しかし主に似てどこかやつれた、病的な印象ではっきりとはしなかった。
ミジーソは気難しそうということはなくただ無口な老人のようで、無駄な口は利かないたちのようであった。
ミジーソについてはそのため幾許かの安心感を持てたが、ミルメコレヨンの方は部下も含め全く心安い印象を持てないでいた。
山間部に入るまでの三日の旅では、食事でさえ、ほとんど誰も口を開くことがなかった。ミシン自身も元々喋る方では全くなかった。
元より、楽しい旅というものではなかった。そうだ。それにしても……
おそらくこの旅の先で何がしかの敵を討つことになる。
なのに、一隊を率いるでもなく、たったの三人の騎士。
二人の使いに関しては戦力になるのかも不明であり、ミシン直属ですらない。
ミジーソとミルメコレヨンに関しては、経歴と、少数精鋭として選ばれたことから騎士としての腕の方は確かなもののはずだが。それでも、国の歴史に戦績の残っているような騎士でもない。
いっそこれなら、ひとりで来れた方が……とまでミシンは思うこともあった。
実際のところ、皆が集団行動を好む方ではなく、むしろ打ち解けないこともあって、行軍外の必要なとき以外は、ひとりでいるということも多かった。
ミルメコレヨンら三人に関しては、まとまって行動していることも多かったが、彼ら内でさえ口数は少なく、部下の一人、マホーウカという男は特にひとりでいることを好むようだった。
ひとりでいるときは、まだ幾らも離れてはいない、都のことを思った。
レチエは、あの優しい魔法の灯かりで、メリーゴーランドを廻しているのだろう。
音楽に包まれて。あの灯かりを思い出すと、優しいというのでもない、安らぎというのでもない、心に、あの都の深い青が浸透する。
そこにただ、あのキイロの灯かりが浮いている。
それが、それだけで、どれだけいいことだろうか。
音楽さえも要らなかった。
音楽はすでのあの灯かりの中に含まれて在るものだった。
それだけが今のミシンの気持ちを安らかにするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます