再臨 ファイヤードレイク!!
「GAAAA!!」
杏奈と同化し巨大なファイヤードレイクに変身した俺は稲妻のような咆哮を上げた。真っ赤な翼を雄々しく広げた羽ばたかせれば、巨体が木々をなぎ倒しながら舞いあがる。
ぐるりと旋回して唖然と俺を見上げる敵兵や、空中浮遊要塞サラマンダ―には背を向けた。翼を再び羽ばたかせ、ニム達が必死に戦っている荒野へ向かって飛んでゆく。
空を舞う俺の巨体が激しい戦闘を繰り広げる荒野へ黒々とした影を落とす。
戦場で戦う兵士も、モンスターも突然現れた巨大な飛竜に驚き見上げる。
それはニム達と激しく戦闘を繰り広げている五体のイフリートも同じだった。
「グオォォォ!」
丁度ニムとの鍔迫り合いに勝利し自由になったイフリートの一体が飛びあがる。
そして俺へ向けて紅蓮の火炎放射を吹きつけた。
しかし炎は俺の脚にぶつかると何事もなかったかのように弾けて消える。
(そんなの効くか! 喰らえ、メガフレイム!)
既に空気と炎の収束を終えていた俺は、更に膨大な魔力を合わせて、喉の奥から火球を吐き出す。赤色を通り越し、眩しい白の輝きを帯びた火球がイフリートを飲み込み込んだ。
「グオォォォーー……ッ!」
巨大な体躯のイフリートは、メガフレイムの直撃を受けて、一瞬で塵に代わる
すると俺の脅威に気付いた残り4体のイフリートがアイス姉妹やお師匠様、ユウ団長との戦闘を切り上げて、立派な足でジャンプして突っこんできた。
俺は翼をはばたかせて、気流の流れを変える。
「グオッ!?」
「ガッ!!」
「ゴオォォォ~ンっ!」
四匹のイフリートはつむじ風に巻き込まれて、はらはらと紙切れのように宙を舞う。
だが気流の中でも翼を持つ、俺は気流に乗って、鮮やかに空を飛ぶ。
翼や、足の爪に発動させた【ヒートクロー】でイフリートを溶断、切断!
仕上げに再びメガフレイムを吐き出す。
四体のイフリートは炎の絶対強者の前で眩しい閃光に包まれる。
これは最高のチャンスだと思った俺は、
「GAAA!」(いっただきまーす!!)
鎌首をグンと伸ばして、溶けて消えて行くイフリートをパクリ。
(うん! 良い肉質! 油分は感じないけど、旨みが凝縮されていて、美味! しかもこの香辛料みたいなスパイシーな香りは最高! エキゾチックで、エスニックなこの風味は――例えるならばケバブ! 美味しぃぃぃ~!!)
「こ、これが本物のサラマンダ―の力……恐ろしいわね、オウバ?」
そんな絶賛お食事中な俺を、黒の猫耳魔導士シャギは目を丸くして見上げ、
「はい、オウバもこれほどとは思いませんでした……でも、これならば!」
「精霊様、杏奈ぁー! 後は精霊様のお名前を語る不届きもの要塞だけだよー! 天罰与えちゃってー!」
ボロボロのニムは、それでも元気よくぴょんぴょん跳ねて、そう叫んでいた。
「GAAA!」(行くよ、杏奈!)
(うん!)
美味しいイフリートを食べてとっても満足な俺は杏奈は気持ちを揃えて咆哮し、再び旋回して飛行する。
(後は要塞を落とすだけ!)
既に俺たちの目前へ空中要塞サラマンダ―は移動してきていた。
要塞の各部に真っ赤な輝きが灯り、数えるのも億劫な程の熱線が、俺へ向けて放たれる。
(へへっ! 俺に熱を使った攻撃なんてダメダメだぜ!)
しかし熱を発する砲弾は、”熱探知”のスキルを持つ俺にとって、回避など造作もないことだった。
二枚の巨大な翼で空を切り、熱線の中を鮮やかに掻い潜る。
(あーでも避けるのめんどくせぇ!)
飛行を続けながら、何発もメガフレイムを吐き続ける。
”熱追尾”を帯びたメガフレイムは、砲弾の発射源である砲台を正確に狙って落ちてゆく。
だんだんと熱線の数が減り、要塞からの攻撃が弱まってゆく。
(こいつでとどめだぁ!)
口いっぱいに炎の力を溜め、真っ白に輝く渾身のメガフレイムを吐き出した。
しかしメガフレイムは弾きつつ、まっすぐと突き進む。
これは勝ったと、思っていたが、メガフレイムは要塞に振れた途端、白色の輝きと共にあっさりとはじけ飛んだ。
要塞を全方位で包み込む、真っ赤な亀甲パターン。
(バリアってやつか! くっそー!)
むかついている俺の目の前で、要塞から次々と何かが飛び出し、こちらへ向かって来る。
俺の今日に強靭な二枚の翼を持ち、蛇のように長い首を持つ空の怪物。
騎乗されていない数えきれない程の”飛竜”が雄たけびを上げながら、こっちへ飛んできていた。
さすがに多勢に無勢は骨が折れる。
そう思った俺は雄たけびを上げた。
「ガオォォォーン!」(こおぉぉぉい、グリフォン! イフリィィィ―ト!)
咆哮は”属性使役”のスキルを発動させ、そして地上から無数の獣の唸り声が返ってくる。
「グオォォォーン!」
どこからともなく数えきれない程のグリフォンが、グライダーのように滑空しながら現れる。
炎の眷属であるグリフォンは、遥かに体格で勝る飛竜に恐れることなく嘴でついばみ、果敢にもファイヤーブレスを放つ。
力では到底飛竜には及ばないグリフォン達。
しかし勇敢さと数では勝るグリフォン達は飛竜を翻弄するように飛行し、隙を狙って確実にファイヤーブレスを当て続ける。
そしてそんなグリフォンの間隙を縫って、地表から八つの火球が飛び上がった。
「グオォォォ―ッ!」
八つの炎の魔神が雄たけびを上げ、飛竜を怯ませる。
シュターゼン国が誇る、八体の炎の神性。これまではちょっと憎たらしい顔だと思っていたけど、自分の眷属になった途端、妙に愛らしく見える不思議。
俺に食べられたことで支配下に下った”八体のイフリート”は、最強の白色イフリート”ゼクス”のバフスキル:火属性強化を施され、紅蓮の炎を纏いながら飛竜に喰らい付いた。
イフリートの爪が飛竜の翼を切り裂き、ごつごつの腕が容赦なく空のモンスターを地面へ叩き落す。
飛竜は鋭い牙と火炎放射で応戦するが、喰らい付いた牙はイフリートの筋肉で砕け、火炎放射は何事もなかったのように霧散するだけ。
同じ炎の眷属として負けじと云った具合に、グリフォンも懸命に飛竜を相手取る。
支配者である俺を中心にグリフォンが、イフリートが自在に天を駆け、空中要塞を守る飛竜に立ち向かう。
飛竜も果敢に牙や爪、喉にある火炎袋から炎を吐き出して応戦を仕掛けてきた。
しかし俺たちは”火属性の圧倒的な強者”
魔力が宿った俺達の炎は飛竜の、あくまで器官から可燃性の体液を吐き、そこに着火させるだけの火炎放射をいとも簡単に霧散させる。
俺達の猛攻の前に飛竜はまるで羽虫のように翼を焼かれて飛行能力を失い、次々と墜落してゆく。
やがて全ての飛竜が空の藻屑と消え、空中浮遊要塞サラマンダーだけが残った。
「グオォォォーン!」
「グオォォォ――ッ!」
グリフォンと八体のイフリートが一斉に紅蓮の炎を吐き出し、
「GAAA!」
ダメ押しでその後ろから俺はメガフレイムを放った。
三つの炎の力が一つとなり、巨大な白色火球となった。
それは空気中の水分を、蒸発させ、真っ白な蒸気を上げながら要塞に突き進む。
激しい閃光が空中浮遊要塞を包み込み、その輝きの中で亀甲パターンの衝撃がガラスのように粉々に砕け散った。
俺は思い切り翼を羽ばたかせ、一気に加速する。
矢のように疾駆し、熱探知で要塞の中心である”鐘楼(しゅろう)”の天辺にいる、マリオンの熱を探り当てる。
そして鎌首を突き出し、硬い岩の壁をぶち抜いた。
「ひぃ!?」
驚きで玉座から滑り落ちたマリオンは顔に驚愕を浮かべて、俺を見上げている。
以前会った時のような軽薄さと余裕は全くなく、ただただ俺の存在を恐れているようだった。
奴の周りにいた御付は、冷たいことに主を捨てて、我先にと逃げて行く。
(こいつはニムから国を奪って、杏奈を怖がらせた馬鹿野郎だ。許しておけない!)
怒りが炎を呼び起こし、抑えきれない炎は口からあふれ出る。
「国を焼き、民を苦しめ、あまつさえ魔に身を落としたマリオン=ブルーよ。炎を司る精霊として貴様の悪事を見逃す訳にはいかん!」
「あわ、わわわ……!」
凄く偉そうな声が俺の口から洩れ、マリオンはローブの股の間をびしょびしょに濡らしてこちらを見上げた。
俺は視界に浮かぶ”火属性強化”のバフスキルへ魔力を集めた。
途端、俺の身体が真っ赤に光輝き、周囲を真っ赤に照らし出す。
「炎の巫女、焔 杏奈よ! 我が剣となりて、邪悪なものを成敗だぁ! GAAA!」
俺の口から飛び出たのは真っ赤な炎を身にまとい、腕を思い切り後ろに引いた炎の巫女――その名焔 杏奈。
杏奈は尻もちを付いているマリオンへ狙いを定めて、拳を握りしめた。
拳に俺みたいな”真っ赤な蜥蜴”の紋章が浮かび、紅蓮の輝きを放つ。
「私の拳が真っ赤に輝くぅ! マリオン倒せとトカゲが叫ぶッ!」
「ひぃ!」
「ひぃぃぃっさつ、ぱぁぁぁんち!」
「ひぎゃぁぁ~~!!」
杏奈の鮮やかなストレートパンチがマリオンの顔にクリーンヒットした。
もやしのように細いマリオンは思い切り吹き飛んで、玉座を粉々に砕いて項垂れる。
ピクリとも動かない。
熱がまだあるので死んでは無いようだが、完全に気絶している様子だった。
「勝利!」
杏奈はまるでKO勝ちしたボクサーのように拳を掲げて、
「GAAAAA!」
俺はゴングのように咆哮を上げる。
「グオォォォーン!」
「グオォォォ――ッ!」
グリフォンの群れは飛行しながら歓喜の声を上げ、八体のイフリートは崩れ落ちた要塞の城壁の上で勝どきのような咆哮を上げる。
そんな俺達”火属性”の咆哮が戦場に響き渡り、ピクシー解放戦線の士気が更に上がった。
竜騎兵隊、イフリート、空中要塞、そしてリーダーを失ったマリオン軍は次々と撤退を始める。
下の荒野にはピクシー解放戦線の兵士が残った。
「勝ったぞぉ! 我々の勝利だぁー!」
どこかで一人の兵士がそう叫び、それが合図となって荒野の色んな所から勇ましい勝どきが沸き起こる。
「「「炎の巫女万歳! サラマンダ―万歳! オオーーッ!!」」」
誰もが杏奈と俺へ賛辞を叫び、悪い気はしないのだけれど……
(杏奈、これって嬉しいけどちょっと恥ずかしいね……)
こっそり足元の杏奈にそう交信すると、
「勝ったどー! おー! 勝ったどー! おーーッ!! 勝ったどぉぉぉぉーっ!」
杏奈の方は結構ノリノリで叫んでいた。
その度にぽいんぽいんと大きな胸が揺れ、見えている居るのか一部の兵士達が視線を上下させている。
(まっ、いっか。杏奈も喜んでいるし)
俺は再度、雄たけびを上げ勝利を高らかに宣言する。
こうして俺たちは数では圧倒的な差のある戦いに大勝利を収めるのだった!
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