最強の助っ人?
「いったぁーい!」
痛さのあまり俺は天幕(テント)の中へ悲鳴を響かせた。
「トカゲ!?」
「精霊様!?」
杏奈とニムはトカゲ形態で机の上にちょこんと乗っかる俺へ心配そうな視線を投げかける。
特にトカゲ形態での俺の声が聞こえる杏奈は気が気でない顔をしている。
「なんじゃ、情けない声を出しおって。お主雄じゃろが!」
しかし俺に痛みを与えた大魔導士のお師匠様はぴしゃりとそう言い放った。
お師匠様の手には無残にも切断された、鞭のように長い俺の”尻尾”が摘ままれている。
それをお師匠様はナイフで二枚におろした。
更に手へ魔法で炎を浮かべると、二枚におろした俺の尻尾を炙(あぶ)って乾燥させる。
そうしてミイラのように干からびた尻尾を長いチェーンの着いた小瓶へ収めて、杏奈とニムを手渡した。
「これは精霊様の力かけらじゃ。その瓶から出せば、暫くの間は精霊様の加護を受けられるぞい」
「尻尾、元に戻る……?」
杏奈は凄く心配そうに俺とお師匠様を交互に見渡して聞く。
「大丈夫じゃ。何せ、精霊様はトカゲじゃからな。オッケー」
(オッケーって、俺結構痛かったんだけど……)
だけど、杏奈とニムの生還率を上げるいい方法がある、とお師匠様の提案に真っ先に乗ったのは俺自身。
どうせまた生えて来るなら、まぁ良いかと割り切った。
「それに頼もしい助っ人も呼んでおるぞ。ほれ、シャギ、オウバここへ!」
お師匠様が声を上げると、天幕の中に敷かれた真っ赤なラグに五芒星を描いた魔方陣が二つ浮かび上がった。
それはそれぞれ黒と白の輝きを放って、人の形を作ってゆく。
やがて魔方陣の上に黒と白のドレスのような衣装を着た、顔立ちがそっくりな猫耳娘達が現われた。
「大魔導士様、シャギ=アイス参上しました」
黒い衣装の猫耳娘は丁寧な口調でそう述べ、
「同じくオウバ=アイスもここにっ!」
白の衣装の猫耳娘は少し舌っ足らずな口調で元気よくペコリと頭を下げた。
「おお! あなた方は三年連続、魔法大会で優勝したアイス姉妹! 助っ人で来てくれるだなんて! 光栄です!」
ニムが興奮気味に声を上げると、シャギ&オウバのアイス姉妹は静かに傅いた。
「光栄なのはこちらの方です、第三皇女ニム=シュターゼン殿下」
黒の魔導士シャギは恭しくそう云い、
「姉様の仰る通りでございます殿下。我らが姉妹にとってもシュターゼンは祖国であり帰るべき場所。そのために心血を魔導の力に変え、決戦の地へ赴く覚悟でございます」
白の魔導士オウバは丁寧に決意を語った。
(猫耳娘……まさかリアルで見られる日が来るだなんて! しかも、杏奈とニムと同じくらい無茶苦茶可愛いじゃないか! ひゃっほーい!)
っと、恭しい会話を繰り広げているニムとアイス姉妹をみて、全然違うことを考えていた俺なのだった。
すると背中がつんつんと杏奈に突かれた。
「なに?」
「トカゲこういうの好き?」
「こういうのって?」
「猫耳娘」
どうやら俺の心の声は杏奈に駄々洩れだったようだった。
ちょっとどころか、ものすごく恥ずかしくて、体中が炎のようにカッと熱くなる。
「ふーん……にゃ、にゃん……っ!」
奇妙な杏奈の声が聞こえて、思わず振り返る。
「な、なに急に?」
「トカゲこういうの好きじゃない、にゃん? もしかして耳も必要、にゃん?」
杏奈は顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうにそう聞いてくる。
どうやら俺を喜ばせたくて無理をしているみたいだった。
「猫耳娘は好きだけど、杏奈はそのまんまで良いよ! その方が俺は嬉しい!」
「そ、そう、にゃん?」
「いや、もう良いよ、ホント……」
(これなんかの新しいプレイ? かなりマニアックな……いや、結構こういう妄想はしてたけど)
「貴方が炎の巫女ね?」
気が付くとシャギとオウバが俺たちの前にいた。
「あ、うん……」
杏奈は少し元気なさげに答える。
もしかすると人付き合い自体があまり得意な子ではないのかもしれない。
そんな杏奈へシャギはルビーのように赤い目を細めて、笑顔を浮かべて手を差し出した。
「宜しくシャギ=アイスよ。お会いできて光栄だわ、えっと……」
「ほ、焔 杏奈……」
「杏奈さんね。その衣装素敵ね。良く似合ってるわ」
「普通の制服とマント、です……」
「なんだかね、その衣装凄く親近感湧くのよ。よくわかんないけど。ねぇ、オウバ?」
シャギがそう聞くと、
「はいっ! 今度ゆっくり見せててくださいっ! 作ってみたいんですっ! あっ、オウバ=アイスです! よろしくお願いしますね、杏奈さん!」
オウバも笑みを浮かべてまっすぐ杏奈へ手を伸ばす。
杏奈はどうしたら良いのか良く分からないのか、視線を右往左往させてている。
(杏奈、大丈夫だよ。きっとこの二人、悪い子達じゃなさそうだから。さっ、握手して)
俺がひっそりそう語り掛ける。
杏奈は恐る恐る手を伸ばし、
「よ、よろしく、シャギさん、オウバさん……」
「うん、よろしく、杏奈さん」
「よろしくお願いしますね、杏奈さん! 一緒にシュターゼンをマリオンから救いましょうっ!」
「うん!」
杏奈は更にアイス姉妹の手を強く握り返した。
姉妹も笑顔を浮かべて応える。
どうやらコミュニケーションは上手く行ったようだった。
「ありがとう……私たちの国のために……感謝します」
ニムは静かに頭を下げていた。
そんなニムを見て杏奈は笑みを浮かべる。
「これも勝負」
「えっ?」
「まだ私とニムの勝負終わってない。だから、どっちが活躍できるか勝負!」
「そ、そうだね! 負けないんだから……あ、杏奈なんかに……!」
「私も負けないよ、ニム!」
「おいおい、俺も混ぜてくれよ」
なんだかちょっと焼ける雰囲気な杏奈とニムの様子がうらやましくなった俺はブーストジャンプで杏奈の肩に舞い降りる。
俺と杏奈、そしてニムは交互に視線を交わし合った。
誰からも合図することなく、二人の手と、すっかり再生した俺の尻尾が宙でパチンと打ち合って、甲高い音を響かせた。
「皆様方、出立です。お急ぎを!」
天幕の入り口からユウが叫び、俺達は歩みだす。
(さぁて、俺の力をマリオンたちに見せつけてやりましょうか!!)
俺は体長30センチの身体に宿る、紅蓮の炎を闘志のように燃やす。
ちなみに尻尾は知らないうちに元通りに再生していたのだった。
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