敵地突入!
「てめらがシュタ―ゼン国を奪ったおかげでこっちは商売あがったりなんだ! ただで済むと思うなよ! オウバ!」
」
頭から三角の猫耳を生やした黒衣の女魔導師:シャギ=アイスは、魔力で戦場を滑空しながら怒りに満ちた叫びを上げ、
「はい、姉さま! ストームワーム!」
同じく白い猫耳を生やしたシャギの双子の妹で、白衣の魔導師オウバ=アイスは手にした禍々しいロッドを目の前の敵兵へ向けて振り落す。何もなかった空間に突然、渦を巻く風が現れる。
それは大蛇のようにうねりながら、目の前の敵兵を飲み込む。
「フレイムッ!」
そしてシャギが真っ黒な炎を放てば、風の大蛇で燃焼力を増し、敵兵を爆発でふっとばす。
耐火装備を装着している敵兵は鎧を吹き飛ばされ、ほぼ裸同然でばたばたと地面に落ちていった。
「ま、まさか、あいつらはアイス姉妹!?」
「に、にげろ! ぶっ殺されるぞ! 生身じゃミ挽肉(ミンチ)にされるぞ! あの姉妹はやべぇぞ!」
「ひー! でも、猫耳娘ににいろんなところふまれたぃー! はぁはぁ!」
敵兵は様々な感想を口走りながら一目散に逃げてゆく。
すると荒野の向こうから鼻息を荒くした、鬼に見える巨大なモンスター:オーガの集団が迫っていた。
「ちっ、まだ来るか!」
シャギが吐き捨てるようにそう言う云うと、何故かオウバはにこにこ笑みを浮かべて、
「だって国を取り戻して交易路を元に戻さないと姉さま、彼氏に会えないですもんね?」
「なっ――か、彼氏って、べ、別にあいつはその……」
「ふふ、姉さまお顔真っ赤っかですよ? 可愛い」
「う、うるさいわね! ああもう、さっさと片付けるわよ、オウバ!」
「はい、姉さまっ!」
シャギは手に持つ魔力を宿した本へ力を収束させた。
ドレスのような黒衣に紫電が浮かぶ。
「ぶっ飛べ! サンダーッ!」
「私を呼んだかぁぁぁ!」
シャギの放った黒い稲妻と共に、後ろから颯爽と女戦士が飛び出してきた。
忍者のような装いをした彼女はシュタ―ゼン国が誇る最強の戦士が一人「ユウ=サンダー」
彼女は腰元の鞘から剣を抜いて、並走するシャギの黒い稲妻へ刃を触れさせる。
すると刃が稲妻と同じく黒色に輝き、紫電を帯る。
そしてユウはオーガの集団へ稲妻よりも早く飛んで、達した。
「魔法剣(マジックブレード)三ノ太刀、電光雷撃剣!」
文字通りオーガは稲妻のようにジグザグに切りつけた。
オーガは叫ぶ間もなくグラリと倒れだす。
そしてシャギのサンダーを受けて、木っ端みじんに吹き飛ぶのだった。
「サンダー団長、後ろ!」
「――ッ!?」
シャギが叫び、ユウが上を見上げて息をのむ。
上空から飛竜が大口を開けて、ユウへ食らいつこうと急降下してきていた。
しかし飛竜はどこからともなく放たれた眩い輝きを放つ魔力の帯を浴びて、消えた。
唖然とするユウの前へ、年齢不詳だけどスリットの入ったセクシーな衣装の女魔法使いが降り立つ。
「危なかったわね、ユウ。でも、わしが来たからもうオッケー!」
「あ、貴方は一体……?」
「ああ、そっかこの姿は始めてよね。わしよ、わし! 大魔導師! これが本気モードのわしよ!」
「ええ!? 大魔導士様!? うそでしょ!?」
いつもはクールなユウが大声を上げる。
「そういうお主も四十手前でかなり若いじゃないかの、おほほ!」
「う、むぅ……」
と、そんな光景が甲虫に跨った俺の前で展開されていたのだった
魔法大会三年連続優勝のアイス姉妹、シュタ―ゼン国最強の戦士の一人ユウ、そして何故か若返って無茶苦茶セクシーになっている杏奈のお師匠様の大魔導師。四人は次々と敵兵とモンスターを蹴散らし、マクシミリアン式鎧を装着した解放戦線の兵士たちも勢い付いて、敵兵を薙ぎ倒している。
いろんな人たちが犇めき合う荒野にまっすぐな道が形作られ、甲虫に乗ったニムと杏奈。
同じく甲虫に乗って並走するリザ―ドマン形態の俺はその道をまっすぐと突き進む。
すると上空に飛竜とは違う翼を広げた五つの影が見えた。
そいつらはまるでグライダーのように空を滑空し、緩やかに着地した。
獣のような顔つきに、全身から激しい炎を上げる魔物。
撃退した竜騎兵と双璧を成す、マリオン軍の最大戦力。
「「「「「グオォォォッ!!!!!」」」」
一気に五匹も投入された”炎の魔神イフリート”は空気を震わせるほどの激しい咆哮を放つ。
俺たちは甲虫をその場に止めた。
「杏奈! 後はよろしくね!」
ニムがそう叫び、
「うん! ニム!」
「ん?」
「負けないよ、私!!」
「私だって! ちゃんと倒した数、数えててよね、杏奈!」
「わかった、ニム! 気を付けて!」
「杏奈もね!」
ニムは甲虫の甲羅から飛び降りる。
そして首にぶら下げていた小瓶の蓋を開けた。
中に封じられていた俺の尻尾のミイラが瓶の中でぶわっと燃え上がり、ニムを包み込む。着地したニムが腰から二振りのダガ―を抜いて逆手に構えると、刃が真っ赤な輝きを放った。
「シュターゼン国第三皇女ニム=シュターゼン、押して参ります!」
「姫様、お供いたします!」
ニムに続いてユウが飛び出し、
「わしらも行くぞえ! 付いてくるのじゃシャギ、オウバ!」
「「はい、お師匠様!!」」
セクシーな大魔導師と一緒に、アイス姉妹もイフリートへ突き進む。
「皆の者頼んだぞ! このまま一気に行くぞ、杏奈!」
「うん!」
俺と杏奈は甲虫に跨り、五体のイフリートを横切って更に荒野を駆け抜けた。
やがて荒野の果ての森へ滑り込み、草木を掻きわけて突き進む。
そして断崖の上に達すると空に浮かぶ巨大な城と、その下に打ち建てられた無数のテント群が見下ろせた。
ようやく竜騎兵隊の全滅が報告されたのか、マリオン軍のキャンプ地ではあわただしく兵士が往来している。
俺は忌々しく空に浮かぶ城を見上げた。
(アレが空中浮遊要塞サラマンダ―。俺の名前を勝手に使うなんて許せない! 叩き潰してやる!)
「放て!」
俺がそう叫ぶと森のいろんなところから屈強なドワーフの戦士たちが姿を現す。
彼らは手にした火矢や、溶岩のように燃える火の玉を投石機(スリング)で、目下のキャンプ地へ投げ込んでゆく。
火矢がテントを燃やし、火の玉が炎を上げる。
炎があっという間に広がり、キャンプ地は一瞬で炎に巻かれて、敵兵があわただしく消火活動を始める。
その時、空に浮かぶ城が僅かに傾いた。
城壁の上に設置された砲台が轟を上げながら、明らかに威力がヤバそうな真っ赤な熱線を放ち始める。
すると杏奈は首にぶら下げていた小瓶の蓋を開けて、俺の尻尾のミイラの力を解放した。
「ファイヤーウォール!」
掲げた杖から炎が湧き出て、壁を形作る。
俺のバフスキル:火属性強化、そして俺の尻尾のミイラで更に属性の力が高まった杏奈の壁は全て熱線を弾き返す。
今のところ全ての赤色熱線は杏奈の燃え盛る巨大なファイヤーウォールで弾き解されている。
しかし空中要塞サラマンダーからの猛攻は依然として続く。
「う、くっ……!」
杏奈の額から汗が滴り、苦しそうな呻きを漏らす。
力の根源である俺の尻尾のミイラも輝きの艶を失い、障壁の火勢が弱まり始める。
「トカゲ……?」
杏奈の華奢な方へ、爪の生えた俺の手を添えると、彼女は少し弾んだ声を上げた。
杏奈の熱が手を通して俺に伝わり、全身を巡る炎の力が次第に燃え上がる。
「行くぞ、杏奈ぁ!」
「うんっ!」
俺と杏奈は強く、しっかりと地面を踏みしめた。
杏奈のたわわな胸が盛大にポインと揺れる。
「俺の!」
「私の!」
「「拳が真っ赤に燃えるぅ! 要塞倒せとトカゲが叫ぶぅ! おおおおおお、あああああーっ!!!」」
重なり合った声が心を共鳴させ、それは感情を司る”火属性”の力を更に燃え上がらせた。
艶を失った俺の尻尾のミイラも、杏奈も、そして俺自身も真っ赤に輝き、力が漲る。
瞬間、ファイヤーウォールが断崖一杯に拡大して、激しい炎を上げた。
降り注ぐ赤色熱線が全て弾かれ、空中要塞を地面に固定している鉄のアンカーが砕け散る。
静かに空に鎮座していた空中要塞が、ぐらりと傾いた。
更に溢れたて弾き返された熱線が、敵のキャンプ地へ再び降り注ぐ。
既に炎に巻かれていたキャンプ地は更に激しく燃え上がる。
天幕(テント)群が燃え、可燃性の何かが入った大樽が連鎖で爆発し、次々と火柱を上げた。
断崖の下に見える広大に敷かれた敵の陣地が、大火に包まれた。
怒りの炎に包まれ、真っ赤な地獄と化していた。
そんな状況をみて俺はそろそろ”十分な炎の量”と判断した。
「行くぞ、杏奈!」
「うん!」
「「ソウルリンク!」」
俺と杏奈の声が重なり、炎の戦場に響き渡った。
俺達の魂からの叫びが響き、周囲を囲む炎が勢いを増す。
リザードマンである俺は炎に包まれ、真っ赤に輝く粒子となって渦の中へ溶け込んでゆく。渦に溶け込み意識がその分だけ拡大した俺は、炎に身を委ねる彼女をそっと抱きしめる。瞬間、俺は彼女を飲み込み更なる拡大へと移った。
風が吹いていないにも関わらず、周囲で敵陣を焦がす炎が揺らめき始めた。
炎はまるで別の生き物のようにうねり、立ち昇る。
それは全て炎の渦となった俺へ突き進み、飲み込まれてゆく。
立ち昇り続ける炎を飲み込むたびに、俺の意識は森のように広大に、山の大きく拡大してゆく。
そして吸収した炎は”強靭な翼”に、”鎌のような爪を巨大な持つ後ろ脚”に、”鋭い牙を持つ鎌首”へ拡大変化してゆく。
「GAAAA!」
そして俺は咆哮と共に炎を吹き飛ばし、雄々しく翼を開いた。
雄々しく滞空する大空の覇者。炎の精霊であり、支配者の真の姿。
「GAAAAAAAA!」
予定通り、俺と杏奈は一心同体となって巨大な”ファイヤードレイク”に変身し、飛び立つ!
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