一匹のサラマンダー対数百の竜騎兵隊 【後編】
(凄い威力だなぁ……)
自分の放った火矢(ファイヤーボルト)を喰らってボンボン墜落してゆく新生シュターゼン国自慢の竜騎兵(ドラゴンライダー)隊。
そんな可哀そうな彼らをを見上げてそう思った今の俺は、真っ赤で小さなトカゲ形態のサラマンダー。
(にしても最初は地龍の幼体に苦戦してたけど、なんか最近どんどん強くなってね?)
ここに至るまで、そういえば色んな事があったように思い出す。
森の中で必死にモンスターと戦ったり、谷底のローパーの群れを蹂躙したり、ユウ団長と決闘したり、イフリートを二体も倒したり、杏奈とニムに出会ったり。
もしかするとそんな経験がゲームみたく蓄積して、だんだんと強くなってるんじゃないかと思った。
なんとなくそんな自信の自覚があって、今俺は真っ先に戦場に駆けつけて、百機以上竜騎兵を一人で……もとい、一匹で相手取っているのだが。
マリオンの侵攻軍は”残り五体のイフリートが守護する巨大空中要塞サラマンダ―”と”百戦錬磨の竜騎兵隊”を戦力の中心に据えていた。
数では圧倒的に不利なピクシー解放戦が正面切ってマリオン軍と戦うのは不利。
解放戦線が相手にできるのは雑兵に加えて、おそらく突っ込んでくるだろうイフリートを押しとどめるのみ。
だからこそ俺は、まず先鋒として進軍してくる”竜騎兵隊”を一匹で相手取ることにしていたのだった。
(せっかく的(まと)が沢山あるいい機会だ! もっと今の自分の実力をたしかめないとね!)
俺は空気を思い切り吸い込んだ。
喉の奥で紅蓮の炎が激しく燃え上がり、あふれ出そうとしてくる。
そして炎がファイヤーブレスとして飛び出そうとした瞬間、パクンと口を思い切り閉じて、炎を飲み込んだ。
身体の中へ逆流した炎は背中から、無数の火矢(ファイヤーボルト)となって飛び出してゆく。
高速で空を疾駆する火矢を見て、竜騎兵達は上下左右、様々な角度へ旋回し、火矢を免れようと回避行動を取る。
だけど飛竜とそれにまたがる竜騎兵の熱を探知して狙いを定める”熱探知”のスキル。
そしてその熱を追って、延々と追い続ける”熱追尾”のスキル。
その両方を重ね掛けた火矢(ファイヤーボルト)は、ホーミングミサイルのように必死に逃げ惑う竜騎兵を撃墜まで追い回していた。
やがて朝焼けの空がすっかり爆炎で黒く染まり、一時の静寂が訪れる。
そんな中、黒煙を割って、一騎の竜騎兵が急降下を仕掛けてきた。
動きはどの竜騎兵よりも俊敏でキレがあるようにみえる。
多分この人は赤い〇星、みたいなエースな人。
(楽しませてくれよぉ! ファイヤーボルト!)
しかし俺の吐き出した火矢で、シャ〇やノ〇スみたいなエースはあっさりと撃墜されてしまった。
(落ちた……マジかよ……)
ちょっと楽しめるかと思っただけに残念だった。
そんなことより、少し力を使いすぎたためか、腹が減った!
俺はひゅるりと炎に巻かれながら墜落する飛竜へ向けて、ブーストジャンプを使って一気に接近した。
そして消えかかっていた炎を一口パクリ。
パク、モグモグ、むぎゅむぎゅ
(ちょっ独特の匂いがあるけど、肉質が良くて、旨みも豊富な……これはラムチョップ! にんにくたっぷなり甘辛いたれに付けて頬張って、コーラで流し込めば、どんなに最高か! 北の大地へ行きたいぜ! ひゃっほーい!)
美味しい飛竜を食べて超ご機嫌な俺は地面に降り立つ。
そんな俺の上空では、生き残った竜騎兵達は乱れた隊列を組みなおしていた。
(少し落としたくらいじゃだめかぁ。逃げてくれりゃ良かったのに……)
さすがに蹂躙し過ぎるのは申し訳ないと思ってはいたが、敵さんはそうもいってられないらしい。
編隊を組みなおした竜騎兵隊は、手にしていた長柄の槍の鋭い穂先を一斉に俺へと向ける。
飛竜が咆哮を上げて、二枚の翼を激しく羽ばたかせた。
(仕方ない。じゃあ、全部落ちて貰おうか!)
*FPが規定値に達しました。「ファイヤートマホーク」解放しますか?
答えは当然YES。
小さなトカゲの身体の奥にある心臓が、ドクンと大きな鼓動を上げた。
全身が燃えるような熱さに包まれる。
新しい属性はスキルは自然と俺に何をすべきかを教え、その行動に移らせる。
(一杯息をすってぇー……!)
ブレスでも、ボルトでも、はまたはボールでもしないくらい、俺は大気を口から取り込んでゆく。
吸い込んだ空気は同時に喉の奥で紅蓮の炎と結びつき、燃焼させ膨らんでゆく。
まるで満腹まで食事をしたようにお腹がパンパンに膨らむ。
そしてそれは俺の小さな口から放たれた。
俺の体長よりも遥かに長く、巨大で真っ赤な火柱。
赤く輝く”巨大な火矢”は周囲を明るく照らし、底部から紅蓮の炎を靡かせながら、白煙と共に飛び立ってゆく。
その様子はさながらロケットかスペースシャトルの打ち上げ風景。
そんな巨大な火矢が、巨体から想像もできない速度でまっすぐとこちらへ迫る竜騎兵隊へ突き進んでゆく。
しかしさすがの竜騎兵隊も俺の発射した巨大な火矢を脅威と感じてか、再び編隊を崩して分散し始める。
巨大な火矢だけあって簡単に目視できるためか、竜騎兵はひらりとかわしてゆく。
それでも元々”熱感知/熱追尾”のスキルが付与されている火矢は突き進み、そして一騎の竜騎兵を捉えた。
青黒い空に浮かぶ明けの明星の輝きが消え失せ、太陽が昇り切る前の僅かな暗黒の世界が真昼のような輝きに包まれた。
激しい光と熱が空を焦がし、竜騎兵を飲み込む。
一騎の竜騎兵にぶつかり炸裂したファイヤトマホークは、その激しい熱と爆発力で、飛行する数えきれない程の竜騎兵を灰へ塵へと変え、跡形も残さない。
(トマホークってそっちの方ね。ミサイルの方ね。てか、こいつの威力も凄すぎる……)
俺は自分自身が発生させた物凄い爆発を見上げ、呆気に取られていた。
そんな空の輝きの中から黒い影が一つ浮かび上がる。
それは体を丸めて落下する鎧姿の人だった。
そいつは地面へスタっと降り立つ。長柄の槍をグルングルンと回転させて、地面を踏みしめ、俺の前に立った。
「良くもやってくれたな、炎の精霊サラマンダー! 我こそは新生シュターゼン国竜騎兵隊隊長ジョーンズ=バックス! いざ尋常に勝負!」
鎧が焼けただれても尚、竜騎兵隊の隊長ジョーンズは激しい闘志を燃やして、小さな俺に対峙していた。
(ここまで俺がやったんだ……だったら最後まで面倒を見るのも俺の義務!)
俺はFPを消費した。
小さなトカゲの身体から何倍もの炎が噴き出し、形を成す。
”形態変化(フォームチェンジ)”を終え、筋骨隆々なコミュニケーション形態のリザードマンに変身した俺は、不毛の大地を強く踏みしめる。
「良かろう。我が名は炎の精霊サラマンダー! 竜騎兵隊隊長ジョーンズ殿、お相手致す!」
「炎の精霊様を語る不届きものよ! 覚悟ぉ!」
槍を構えたジョーンズが飛び出しした。
俺も爪を伸ばし、地面を蹴る。
(槍なんて穂先を落としちゃえば!)
槍の脅威である穂先に狙いを定めて、俺は”きりさく”のスキルを付与させた爪を振り落とした。
瞬間、”キンッ!”と金音が響き、腕の軌道が変わる。
ジョーズンが突き出した槍が俺の爪を上へ弾き、ガラッと胴を晒させる。
(まずい!)
野生の勘が危険を知らせて、俺は遮二無二後ろへと飛んだ。
足元を槍の穂先が”ヒュン”と突き空ぶる。
「おおおおっ! 部下たちの無念、晴らさせていただくぞぉぉぉ!」
しかし着地したときにはもう、ジョーンズは槍の有効距離まで飛び、俺へ向けて鋭い槍の穂先を放っていた。
(さすがは白兵戦を挑んでくるだけはあるか。強いッ! だけど!)
「GAAA!」
俺は激しい咆哮と共に、【ヒートクロー】を発動させて、真っ赤に光り輝いた爪をジョーンズの槍へ向けて思い切り振り落とした。
「なっ――!? ぐわっ!?」
穂先は熱を帯びた爪に溶断され、更にその熱は木で作られた柄を一瞬で激しい炎に包んでジョーンズに手放させる。
「チェーストォー!」
「ぐわあぁぁぁーっ!」
もう一度チョップのようにヒートクローを叩き落し、ジョーンズの鎧に垂直で真っ赤な赤い軌跡を刻みつける。
ジョーンズの身体から一瞬で力が抜け、彼は地面に膝を突いて倒れる。
起き上がる素振りは見られない。勝負は決し、俺は”自分自身の内面の変化”に戸惑いと感じていた。
(竜騎兵隊の時もそうだったけど、力を人間に対して使うことを躊躇わなくなってる。これって俺が人間じゃなくて”炎の精霊”に転生したからか……?)
しかしニムやユウ団長には親しみを感じているし、アイス姉妹は可愛いと思うし、杏奈は何者にも代えがたい存在だって言う気持ちがある。
この戦いに参加するのを決めたのも、ピクシー解放戦線のみんなが頑張っていることを知ったからだし、邪悪なマリオンからシュターゼン国を救いたいっていう強い気持ちもある。
この気持ちさえあれば、俺は未だ人間としての気持ちを持ち続けられる。
俺は沸き起こった変化への恐れを、大切な人達を思い浮かべることで払拭し、未だに赤い輝きを放つ爪を雄々しく掲げた。
「勇猛果敢なる戦士たちよ聞け! 竜騎兵隊は炎の精霊たるこのサラマンダーが全滅させた! 今こそ、シュターゼン国をそなたらの手に取り戻す好機! 皆の者、出陣だぁ!」
荒野に俺の声が響き、後ろから砂塵を巻き上げながら、轟が沸き起こる。
荒野を疾駆する鎧のような甲羅に身を包んだ移動用の巨大な芋虫。
甲虫と呼ばれる戦車のような騎乗用モンスターの上には、全身に隈なく”畝(うね)”が打ち出された【マクシミリアン式鎧】を装備したピクシー解放戦線の兵士達がいて、熱い叫びを上げながら突き進む。
「「うふふ、あはは! さぁ、ショータイムだ! 最初にぶっ殺されたいのはどいつだぁ!」」
猫耳魔導士のアイス姉妹は嬉々とした笑顔を浮かべながら、恐ろし言葉を叫びながら魔力で飛行し、
「杏奈、しっかり捕まってて! はいよー!」
「ひゃう!?」
ニムと杏奈は同じ甲虫に乗って荒野を駆け抜ける。
俺用にあらかじめ用意されていた無人の甲虫が脇を過り、手綱を掴む。
俺は甲虫にまたがり、解放戦線の兵士達ともに荒野を駆け抜ける。
目標――それは新生シュターゼン国が幻想の森を焼いて構築した前線基地。
そして、俺の名前を勝手に使った、空中浮遊要塞サラマンダー!
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