ソウルリンク! 誕生、炎の支配者ファイヤードレイク!!


(ソウルリンク!)

「ソウルリンク!」


 俺と女の子の魂からの叫びが響き、周囲を囲む炎が勢いを増す。

 トカゲである俺は炎に包まれ、真っ赤に輝く粒子となって渦の中へ溶け込んでゆく。渦に溶け込み意識がその分だけ拡大した俺は、炎に身を委ねる彼女をそっと抱きしめる。瞬間、俺は彼女を飲み込み更なる拡大へと移った。


「ガオォッ……?」


 巨大な炎の渦となった俺は唖然とする地龍を見下ろす。

すると風が吹いていないにも関わらず、周囲で森を焦がす炎が揺らめき始めた。

 広大な幻想の森を、森に幾つも見える小高い丘を包む紅蓮の炎が寄り集まってゆく。


 炎はまるで別の生き物のようにうねり、立ち昇る。

それは全て炎の渦となった俺へ突き進み、飲み込まれてゆく。

 立ち昇り続ける炎を飲み込むたびに、俺の意識は森のように広大に、山の大きく拡大してゆく。


 そして吸収した炎は”強靭な翼”に、”鎌のような爪を巨大な持つ後ろ脚”に、”鋭い牙を持つ鎌首”へ拡大変化してゆく。


「GAAAA!」


 そして俺は咆哮と共に炎を吹き飛ばし、雄々しく翼を開いた。

 拡大した身体は同時に意識さえも巨大化させ、地表に佇む地龍さえ、鑑定通り幼体と認識できる。

 夜空に雄々しく滞空する大空の覇者。炎の精霊であり、支配者の真の姿。

そう今の俺は――!




★あなたの情報:【ファイヤードレイク形態】


●種族:精霊(火)

●属性スキル:メガフレイム、灼熱耐性、灼熱吸収

●物理スキル:ヒートクロー

●特殊スキル:飛行、属性使役、魂の捕食



(おお! すげぇ! なんかめっちゃ強そうになったぞ!)



 巨大な炎の支配者ファイヤードレイクに変身した俺の鼻からぶわっと鼻息のように炎が噴き出す。


「ガ、ガオォォォーンっ!」


 それを”威嚇”だと思ったのか、地龍は慌てた様子で緑色の光線を吐き出す。

森を焼き、岩をも砕く地龍の破壊光線。

しかしそれが滞空する俺の腹に当たっても弾けては眩しく輝くだけで痛くも痒くも無い。

むしろ光線の持つ”熱”を吸収しているのか、身体がどんどん元気になってゆくような気がする。


(その程度か、お前は!)


 心の叫びはファイヤードレイクの咆哮となって空気を震撼させた。

 木々が揺れ、炎が揺らめき、地が唸る。

 幼い地龍はたじろぎ、身体を強張らせる。

 その時既に、急降下していた俺は、真っ赤に発熱した後ろ脚の爪を繰り出していた。


「ガオォォーン!?」


 ボールやボルトを受けてもビクともしなかった地龍の固い鱗がまるで紙のようにあっさりと溶断させる。

 発熱させることで切断力を高める【ヒートクロー】の威力は絶大だった。


「ガ、ガオォっ……ガオォォォーンっ!」


 地龍は突然、背中をむけた。

 まるで泣き叫ぶ子供のように吠えながら、脱兎の如く駆け出す。

すると猛火に包まれた目下の森が俄かに震えだす。

そして火山の噴火のように目の前の森が爆ぜ、砂柱が上がった。


「グガオォォォ――ンッ!」


 砂と炎をまき散らしながら、滞空する俺に匹敵するほどの巨大な影が現われる。



★鑑定結果


【名称】地龍(アースドラゴン):成体

【種族】ドラゴン

【属性】木

【概要】成長した地龍。出現は天災とも言われ、目撃はすなわち一国の滅亡を意味する。ちなみにこの個体はお母さん。お父さんは食べられた。


(親を呼んだか、ちびっこドラゴンめ! てかやっぱ雄って用が済んだら食べられるのね。カマキリみたいに……)



 しかし本来は驚愕するべき鑑定結果を見ても、何ら動揺すらせず、むしろ交尾後に喰われた雄を憐れむほどの余裕があった。

 

 視界に閃光が迸り闇夜の空が真昼用のよう明るく照らし出される。

俺は本能のまま強靭な翼を羽ばたかせると、後ろ脚の爪の下を眩しい緑色の閃光が過ぎていった。


 地龍の成体が吐き出した破壊光線は森を焼いて、その先にあった大きな山の頂を軽々と吹っ飛ばして、一口かじったおにぎりのような形に変化させた。



「グガオォォォーン!」



 いとも簡単に避けられたことが頭にきたのか、地龍は激しい咆哮を上げながら緑色の破壊光線を吐き続ける。

俺を滅却しようと激しい熱を持った破壊光線を必死に吐き続けている。

しかし破壊光線に”熱”がある以上、避けるまでも無かった。


 ”激しい熱”を持った破壊光線は滞空する俺へ当たる度に霧散して、エメラルドのような低温の粒子となってはじけ飛ぶ。

光線が持つ熱は全て”灼熱耐性”のスキルで一旦弾かれ、”灼熱吸収”のスキルのお陰で、自動的に俺の力に変換されてゆく。



「GAAAA!!」(いい加減諦めろ、バカ親!)


 文字通りのモンスター親へ目掛けて、散々吸収した熱を力に変えて吐き出す。

口から吐き出されたのは膨大な熱を持つ赤色を超え、白色にまで達した眩い火球。

夜空を流れ落ちる彗星のように眩い輝きが周囲を明るく照らし出す。

発射だけで圧力が巻き起こって、台風のように大木をいとも簡単に根こそぎ散らしてゆく。


(おわっ!?)


 しかしそんな勢いを全く想像していなかった俺は、逆に圧力に負けて空中でよろけてしまった。

 狙いが外れ、彗星のように輝く火球が地龍の遥か前に落下する。


「グガオッ!?」


 だが木々を一瞬で滅却し、その下にあった地面へ深いクレーターを刻み込むほどの火球は、巨大な地龍を紙人形の吹き飛ばし、延焼を続ける森へ叩きつける。


「グ……グガオォォーン! グオォォォーン!」


 すると炎の中で巨大な地龍の成体が遠吠えのような咆哮を上げる。

空気が震え、空がざわつき、二枚の翼は微妙な空気の変化を感じ取る。

そして山々の向こうから、数えきれない程の黒々とした集団が飛来してきた。



★鑑定結果


【名称】:フライスコーピオン

【種族】:昆虫

【属性】:木

【概要】:体長1メートルほどある飛行虫。地龍の尖兵として集団で鋭い針を放つ。



(サソリに羽が生えただけ。そのまんまじゃん!)


 闇夜を覆いつくすほどの黒いフライスコーピオンが一斉に俺へ群がって来た。

長い後腹部の先端にある鋼のように鋭い針を次々とと飛ばしてくる。


しかし所詮は炎が弱点属性である木属性の攻撃。

針は固い鱗に阻まれて弾かれ、瞬時に焼け落ちて消えて行く。

それでも目の前にちらつく羽虫は目障りで、更に気流を乱して、俺の滞空を妨げる。

だからこそ俺は、本能に突き動かされ、鎌首を持ち上げて咆哮を響かせた。


そして発動される”属性使役”のスキル。


途端、森の至る所がざわつき、揺れて、何かが次々と空へ舞い上がってくる。


「グオォォォーン!」


 森の中から飛び出してきたのは、立派なライオンの身体に、鷹のような頭と翼を持つモンスター。

初めて出会った強敵にして、今は頼りとなる同じ炎属性の同胞。

フライスコーピオンと同数か、それ以上の数の”グリフォン”が空へ舞い上がる。


 グリフォンの鋭い嘴がフライスコーピオンの硬そうな甲羅を粉々に砕く。

吐き出す炎は逃げ出す地龍の尖兵を真っ赤な炎で燃やし、次々と撃ち落としてゆく。

 フライスコーピオンの群れに塞がれていた視界が開け、文字通り尻尾を巻いて逃げ出す地龍の背中が見えた。

どうやら不利を悟って、逃げ出したらしい


それだけなら未だ、見逃しようはあったのだが。


『森、もっと燃えてる……』


 俺と魂を同調させて中に居る女の子の意識がそう呟く。


 始末が悪いことに地龍は逃げ回りながら咆哮と共に緑の光線を吐き出していた。

きっと煙幕か、何かのつもりなのだろう。

光線は再び木々を焼き、森を炎で包み込む。

 平穏に暮らしていた野生動物も、モンスターも、住処を奪われて必死に逃げ惑っている。


(可哀そうだけど、仕方ない!)


 俺は再び真っ赤な翼を羽ばたかせ、急降下を仕掛けた。

 後ろ足で逃げ惑う地龍の背中をガシッと掴む。


「グガオォォーン!」


 赤く発光する後ろ脚のヒートクローで背中をがっちりつかまれた地龍は、何とか逃れようと身をよじる。

しかし俺が二枚の翼を一回大きく羽ばたかせれば地面から、地龍の強靭な足がふわりと持ち上がる。

そのまま勢いよく後ろ脚を前方へ蹴りだし、爪を外した。

おまけに長い尻尾で地龍を激しく殴打する。


「ガ、ガオォォォーンっ!」


 地龍バットで打たれた野球ボールのように、盛大に空高くへ舞い上がるった。


(距離良し、狙い良し! 勢いでよろけるんなんて同じ間違いはしないぞ!)


 口を開けば、自動的に空気が吸い込まれ始めた。

喉の奥にある火炎が吸い込むたびに勢いを増し、激しく燃え盛る。

多大な空気の吸収は炎を紅蓮から、荘厳な白色へと変化させる。

溜まり切った炎の力は”カッ”っと夜空を真昼のように照らし出した。


(悪いな地龍! これが弱肉強食、野生の、モンスターの掟だ! メガフレイムッ!)


 俺の口から放たれたのは真っ白に輝く光の帯だった。

それは宙を舞う地龍の幼体を飲み込み、固い鱗と牙を滅却し、肉を蒸発させ、骨を肺へ変えて行く。

巨木のように見えた地龍は地龍は鱗一つ残さず、この場から姿を消したのだった。



 俺は本能のまま高度を落とした。

炎に燃え盛る森を木槨に確認し、


「GAAA!」


 咆哮を上げた途端、森を焼く炎が風も無く揺らめき始めた。

炎がまるで俺の咆哮に従うように立ち昇る。

最初は糸のように細く昇った炎は、次々と寄り集まって、やがて巨大な火炎の竜巻となって森から離れた。


 宙に浮かび上がった火炎の竜巻が次々と爆ぜ、細かな火の粉となって夜空を次々と彩る。

 すっかりフライスコーピオンを倒し尽くしたグリフォン達は嬉しそうに翼を羽ばたかせた。

まるでご褒美のおやつを貰ったペットのように、火の粉を嘴(くちばし)でパクリと頬張りながら、グライダーのような滑空を続けている。


 その姿はまるで戦勝を祝う白鳩のようであり、闇夜から降り注ぐ火の粉は花火のように綺麗で鮮やかだった。


(綺麗だなぁ……うえっ!?)


 感激に胸を震わせていた身体が突然ぐらりと傾きだす。

視線を翼へ向けてみると、先端から火の粉のように分解し始め、闇夜を舞い始めていた。



*ソウルリンク終了――解除します。


(マジ、このタイミング!? めっちゃ嫌な予感しかしないんですけど!?)



 俺の心の叫びなどまるで無視して、巨大なファイヤードレイクは分解されてゆく。


「あっ――!」


 そして気づけば女の子はふわりと宙を舞い、トカゲに戻った俺も同じだった。

俺は夢中で女の子の手を掴もうとするが全く届かない。

 今の俺は所詮、体長30センチあるかないかの、トカゲ。

 手はおろか、長い尻尾さえも彼女の指先にすら触れられず。

俺達は互いに弧を描いてひゅるりと森の中へ落ちるのだった。


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