転生したのはトカゲ？ イモリ？ いえ、炎の精霊サラマンダー！――体長３０センチほどですが、無双の活躍しちゃいます！――

最強の炎使いサラマンダー

「GAAA!」

　俺は目前の近衛兵団へ真っ赤に燃え盛るファイヤーブレスを吐き出した。

「な、なんだ、この炎は――ぐわっ！？」

「よ、鎧が溶けているだと！？」

「耐火装備で防ぎきれん、あちちっ！」

　マグマのような激しい熱を持ち、燦然と輝く太陽のような炎は一瞬で近衛兵団を飲み込み、様々な反応を取らせる。しかしそれは一様にして、俺の炎を浴びたことでの、驚愕と恐怖でしかなかった。

（さすが耐火装備！　これだったら思いっきりやっても死ななそうだし、遠慮はいらないね！）

　俺はファイヤーボールの爆発と物理属性で兵団を吹っ飛ばした。

「こ、このぉトカゲごときがぁー！」

　ファイヤーボールの爆炎を掻い潜り、俺よりも遥かに大きな近衛兵が大人げも無く大きなロングソードを握りしめ突撃を仕掛けて来る。

　俺は口先をすぼめ、まるで唾を吐き捨てるように炎を吐いた。

それは小さいながらも溶岩級の熱と、鍛え上げられた金属の刃よりも鋭い鏃（やじり）を持つ、”火矢（ファイヤーボルト）”となって放たれる。

「ぐわっ！？」

「くっ！？」

「つ、剣がっ！？」

　ファイヤーボルトは鋼の刀身を溶断し、近衛兵に動揺させる。

そんな連中へ向かって俺は再度ファイヤーボールを放った。

「「「うわぁぁぁぁ～！！」」」

（おー、よく吹っ飛ぶ。まるでコントのようだ！）

「う、嘘……もしかしてあのトカゲって本当にサラマンダー様！？」

　ようやく起き上がった、ちびっ子女騎士のニムは、あっという間に駆逐された近衛兵団と俺を交互に見渡して驚いている。

「ええい、サラマンダーであるものか！　行け、イフリートドライ！」

　明らかに動揺しているマリオンはわざと大声を出して指示をする。

「グオォォォ！」

　獣魔神のイフリートドライは怒りに満ちた方向と共に業火の火炎を吐き出す。

炎は空気中、地面の水分を一瞬で蒸発させ、白い蒸気が沸き起こる。

熱と乾燥した空気は瞬時に周囲の草木を枯らせ、灰へとかえる。

（ちょっと、熱いなぁ。真夏のベランダくらい？）

　しかしそんな地獄の炎に包まれても、その程度の感想しか浮かばなかった。

「GAAA!」

「グオッ！？」

　ファイヤーボールで火炎放射を打ち消し、イフリートを怯ませる。

獰猛な炎の魔神は再び火炎放射を放とうするが、

（させるか！）

「グオオッ！！」

　再びファイヤーボールをぶつけて怯ませた。

イフリートは頭を振って体勢を立て直し、喉の奥に炎を浮かべる。

「グオオオ―ッ！？」

　三発目のファイヤーボールが炸裂して、イフリートはとうとう盛大に吹っ飛んだ。

（だけど三発もファイヤーボールを当てても怯んだ程度か。さすがは俺と同じ、炎を操る神性。一筋縄じゃいかないってことか）

　突然、俺を黒々とした大きな影が覆った。

「グオォォっ！」

（まずい！？）

　眉間に皺を寄せて、全身から真っ赤な炎を上げて怒っているイフリートは、鋭い爪の生えたマッチョな腕を振り落とす。

　俺は咄嗟に地面へ向けてファイヤーブレスを吐き出し、前後の足をバネにして飛んだ。

　ファイヤーブレスの勢いに乗せて小さな身体がロケット花火のように宙を舞う。

イフリートの爪が勢い余って空ぶり、地面を抉って突き刺さる。

（あいた！）

　しかし俺も遮二無二”ブーストジャンプ”をしたために、背中からポテンと地面へ落ちてしまっていた。

　イフリートは、空へ向かって盛大に晒されている俺のプニプニなお腹を爪で切り裂こうと後ろ脚を蹴って飛ぶ。

（まずい、やられる！？）

「ファイヤショット！」

「ファイヤダート！」

　そう思った時、”弱々しい火球”と”赤く細い炎のダーツ”ーがイフリートへ飛び、犬面に爆発を起こした。

「グオォォォー……？」

　動きを止め不快そうにイフリートは視線を傾ける。

「アンタ、早くサラマンダー様……きゃっ！？」

　ニムの叫びは体当たりを仕掛けてきたイフリートによってかき消される。

「トカゲ！」

　俺は杏奈の手によって拾い上げられたのだった。

「杏奈！　もう大丈夫なの？」

　杏奈は額に冷や汗を浮かべているものの、元気よく首を縦に振った。

「ごめん、トカゲ。もう大丈夫」

「良かった！」

「杏奈、下がるのじゃ！」

　後ろからお師匠様の声が聞こえた。

気づくと木々の間から、次々と耐火装備である全身甲冑（フルプレートアーマー）を装備した、マリオンの近衛兵がぞくぞくと姿を表す。

「杏奈、ちょっとまた行ってくるね！」

「トカゲ！」

　俺は杏奈の手のひらから飛び降り、再びイフリートと近衛兵団と対峙する。

　敵は多勢に無勢。圧倒的な戦力差。

しかし俺に負ける気は毛頭なかった。

むしろ、”背中に感じる熱い感覚”は俺の勝利を確信させていた。

　そして視界の中に浮かぶスキル表示の中。

そこで明滅する”熱感知／追尾”の項目。そして、

（やってみるか！　たぶん、そういうこと！）

　イフリートと近衛兵団が一斉に敵が襲い掛かってくる。

「GAAAAAA!!!」

　俺は怒りの咆哮を上げて空気を吐き出し、再度吸い込む。

喉の奥で炎が空気に触れて激しく燃え上がる。

そしてあと少しで炎が口から飛び出しそうな時、俺はパクンとわざと口を堅く閉ざした。飛び出しそこなった炎は再び身体の中へ戻る。そして――俺の背中から空へ無数の”炎で形作った矢”が撃ちあがった。

　近衛兵も、指揮官のマリオンも、炎の魔神であるイフリートでさえも、撃ちあがった無数の火矢を唖然と見上げている。

「ぐわっ！？」

「なんだ、この炎は――ぎゃっ！」

　空から降り注ぐ真っ赤な火球は耐火装備に身を包む近衛兵を炎で巻く。

どの火球も近衛兵を逃さず、正確に降り注いでゆく。

”熱感知”で正確に相手の位置を捉えて、火矢を放った結果だった。

「た、退避だ！　全員、退避ー！」

「くっ、な、なんだこの炎は追って来て……ひぃーっ！」

　必死に逃げ惑う近衛兵を火矢は”追尾”し続ける。

たとえ森の奥に逃げようと、岩陰へ隠れようと火球はまるで生き物のように近衛兵を追い、命中させる。

　まるで炎の【多弾頭ホーミングミサイル】

しかも高威力のおまけつきのそれは、目の前にいた大軍勢をあっという間に蟻のように散らせた。

（背中が艦艇なんかのミサイル垂直（ヴァーティカル）発射機構（ローンチング システム）みたいになったなぁ）

「グオォォォ―！」

　勇敢なイフリートドライは炎のホーミングを受けつつも、俺を噛み殺そうと地面を蹴って走り出す。

しかしその時に既に、俺は喉の奥で真っ赤な炎を燃やしていた。

（喰らえ！　ファイヤーブレス！）

　目いっぱい貯め込んだ空気は炎を燃焼させて、業火となって突き進む。

更に魔力を多大に込めたそれは、火炎を超え、眩く白い輝きを放つ”熱線”となった。

「グオォォォ――……ッ！！」

　イフリートは熱線に胸を貫かれ、動きを止めた。

途端、巨体が”カッ”と眩しく輝いて、

（うわっ！？）

　イフリートは爆発し、砂塵を巻き上げ、周囲の岩さえも宙に舞わせる爆風を呼び起こす。

当然のことながら、体長３０センチ程度の小さな俺はその爆風に巻き込まれてひゅるり吹き飛ばされてしまった。

　不意に口の中へ僅かにイフリートを焼き尽くした炎が放り込まれたが、さすがにこの状況。

味なんてよくわからなかった。

　そのまま俺は放り出され、谷底へ落っこちて行く。

「わあぁぁぁ～！」

　隣から悲鳴が聞こえて視線を傾けると、ニムが俺と同じように谷底へ向かって落っこちているのが見えた。

　俺とニムは真っ逆さまに谷底へと落ちて行く。

すると暗い谷底できらりと光る鋭利な先端。

　丁度ニムの先には、鋭く先端を尖らせた太くて立派な鍾乳石が生えていた。

（うわっ！？　最悪！）

　幸い俺の落下コースは鍾乳石から大きく外れている。

しかし仲良く落っこちているニムのコースは、まさしく串刺しコース。

（助けなきゃ！　でもどうしたら！？）

　生憎俺は体長数センチほどしかなトカゲ。

残念ながら人間のニムを抱きかかえることなんて出来るはずもない。

　すると視界の隅に新しい一文が浮かんでいることに気が付いた。

＊ｆｐが規定値に達しました。

”コミュニケーション形態”に変身可能になります。

FPを消費しますか？

（もうなんでも良い！　何か今できることがあるなら！）

　俺は無我夢中でYESを選択する。

すると、身体が突然燃え上がった。

上がった炎はブワっと広がり、拡大してゆく。

　手を伸ばせば炎がまるで、本当の俺の腕のようにニムへ向かう。

（これならぁぁぁ！）

　俺は拡大した炎でニムを包み込みんだ。

脚を動かして岩壁を蹴り、すれすれのところで鍾乳石を横へ回避する。

そして彼女を抱きかかえたまま、ゴロゴロ転がり、やがて冷たい地面の上で落ち着く。

「だ、大丈夫か？」

「ううん……」

　俺の下でニムは呻きを上げる。しかしどこもケガをした様子は無かった。

「ん……？　あーいーうー！」

　喉を鳴らして声を出してみる。俺のらしき声は深い谷底に響き渡った。

（まさか！？）

　ペタペタと顔や胴を触り感触を確認。

我が腕を見てみると、相変わらず鱗に覆われ、爪は生えているが、掌はニムの顔を掴めるくらいに拡大していた。

お尻の辺りに力を込めて見れば、ブンと太い尻尾が上下に動く。

＊コミュニケーション形態（リザードマン形態）発動中

　どうやら俺は”小さなトカゲ”から”人間サイズのリザードマン”へ変身していたようだった。