サラマンダーはリザードマン


良く見てみると、この子結構可愛いぞ!?)


 俺の下で意識を失っている、女騎士――ニムは確かに美少女だった。

 肌はもちっとしていて白く、ショートカットの髪はさらりとしていて、質感の良さが伺える。

 胸はちょっと物足りないが、それでも引き締まったウェストラインと、すらっと伸びた肢体は彫像のように美しい。


(杏奈のむっちり系も良いけど、ニムみたいな健康的なスレンダー系も良いなぁ)


「ううん……」


 ニムは緩やかな呻きを上げながらゆっくりと瞼を開ける。

そうしてきょろきょろと辺りを見渡す。


「あ、あれ? 私、なんで……?」

「君は谷底へ落ちたんだ。で、俺が君を助けたわけで……」

「ッ!?」


 突然、ニムは”クワっ”っと目を見開き、サファイヤのような青い瞳へリザードマン姿の俺を写す。


(やっぱさすがに爬虫類人間は怖いのかな……?)


「びえぇ~ん! こわったよぉ~!」

「ぬおっ!?」


 ニムは俺を弾くどころか飛びついて、逆に俺を押し倒してきた。

随分立派に変化した俺の胸板を涙で濡らして、彼女はワンワン「怖かったよぉ!」とか、「落ちて死ぬかと思ったぁ!」とかわめき散らす。


(さっきまで凄く凛としていたのに、随分とギャップのある子だなぁ……)


 しみじみそう思いながら、俺はニムが泣き止むのを待った。


「すみません、ありがとうございました、ぐすん……」


 やがて散々泣き腫らしたニムはちょこんと正座をして、頭を下げた。


「いえいえ。最初は俺のことをみてこわがってるのかなぁっと……」

「? 何故ですか?」

「いやだって、いきなり俺みたいな爬虫類人間が目の前に居たら怖いかと」

「? 怖いって、そんな筈有りませんよ! リザードマン族と云えば強く優しい、紳士的な種族ですし! 私の友達にもたくさんリザードマンがいますし!」


(なるほど。こっちの世界じゃリザードマンなんて当たり前なんだ)


 しかも評価はかなり良いらしい。ならばきちんとそう云う風に振舞わねば。

よこしまな気持ちは慎むべし。俺は、そう、紳士なのだから!


「申し遅れました。私、シュターゼン国第三皇女のニム=シュターゼンと申します。今はピクシー解放戦線で僭越ながら指揮を取らせてもらっています」


 ニムは居住まいを正し深く土下座して、


「この度は助けていただきありがとうございました……えっと、お名前をお聞かせ願えませんか?」

「ああ、失礼。俺はサラマン……」


 と口を閉じる。

どうやら現地人にとって”サラマンダー”とは特別な存在のようだった。

いきなりそう云っても信じて貰え無さそうだし、いらぬ誤解が生まれる可能性がある。


「サラマン?」

「いや、俺は……サラマンドラっていうんだ、あはは!」


 とりあえずそう名乗って置いた。

するとニムの青い瞳がキラキラと輝きだす。


「おお! 良いお名前ですね! 精霊様と同じような力強い響きを感じます」

「うちの両親が精霊様を凄く信奉しててな! 息子の俺に近い名前を付けたらしく! なはは!」

「素晴らしいご両親ですね! いつか今回の御礼をさせてください!」


 でっち上げを勢いで押し切り、高笑いを上げたのは相当効果があったらしい。

ニムは益々キラキラとした興味と喜びの視線を送ってきていて、信じてくれているらしい。

 どうやら事なきを得られたようだった。

本当はこのまま見ているだけで愛らしいニムとの会話を楽しみたいところ。

しかし俺たちの横に湧いた”気配”はそうはさせてくれないらしい。


 俺は感覚に沿って腕を横へ凪ぐ。

すると立派な五指の先から鋭い爪が伸び、闇の中へ鮮やかな軌跡を浮かべる。


「しゅるあぁ~!」


 不気味な声が闇の奥から響いた。

 切り裂かれた”触手”がぽとりと落ち、ミミズのようにうねうね動くが、まったく美味しそうには見えない。

そしてその触手の持ち主がにゅるにゅると姿を現す。


 肉塊に複数の目玉が浮かび、ミミズのような無数の触手をわななかせる気持ち悪いモンスター。



★鑑定結果


【名称】:ローパー

【種族】:魔族

【属性】:闇

【概要】:下等な闇の眷属。触手に掴まれると酷いことをされる。特に女性は……


(なんかやな予感しかしないなぁ……)


 谷底の闇からたくさん現れた気持ち悪いモンスター達をみて、俺はそう思う。


「ローパーの巣でしたか……少し厄介ですね」


 すっかり元気を取り戻したニムは立ち上がり構える。

先ほどとは打って変わって、戦士として気骨が全身から溢れているのだった。


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