変幻自在のサラマンダー


 ローパーの数はニムを凌辱……基(もとい)、拘束しているのも含めて5体。

見比べてみると、ニムを拘束している個体はこのローパーのボスなのかいくらか大きかった。


「「「「しゅるわぁ~!」」」」


 四体のローパーが同時に触手を俺へ向けて放つ。

しかし伸ばした鋭い爪と、”切り裂く”のスキルは、腕を振ればあっさりとローパーの触手をあっさりと切り裂く。

するとローパーはすぐさま触手を再生して、再び俺へ伸ばしてくる。

再度爪を伸ばし、”切り裂く”のスキルを付与した腕を振り落とし、応戦する。

またまたローパー触手を再生させ、その度に”切り裂く”のスキルて対応。

その繰り返し。


 このままでは前に進めず、堂々巡りだと判断した。


(ならば!)


 2残っていたFP(ファイヤーポイント)を消費し、形態変化(フォームチェンジ)を選択した。

すると筋骨隆々なリザードマンの身体が激しく燃え上がり、圧縮するように縮んでゆく。


 トカゲ形態に戻った俺はぺたりと四つん這いで地面に降り立った。

まるで巨大化したかのように思えるローパーを円らな瞳で鋭く睨む。


「ふしゅる~!」


 ローパーはまるで舐め腐ったかのような活きを吐く。

棒つくねみたいな本体に浮かぶ巨眼は小さな俺を憐れむように細まっている。


(小さいからって、舐めなよ!)


 俺は一気に空気を吸い込み、喉の奥で火炎を燃えがらせ、吐き出した。

 マグマのような熱を持ち、太陽のように燦然と輝く火球が飛び出る。

さっきまで明らかに俺を舐めていたローパーは驚きで、思い切り瞼を開く。


「「「「きやあぁぁぁ~!!」」」」


 リザードマン形態の”炎の吐息”よりも、はるかに威力の高いファイヤーボールはたった一撃で四体のローパーを爆破させた。

 飛び散ったローパーの肉片は、松明のように激しい炎を巻き上げ、ほの暗い谷底を真っ赤に彩る。

俺はぴょんと炎の中へ飛び込み、イカ焼きの味がするローパーの炎を二つ分平らげた。


 FPを2獲得。

残りの2体は食べる前に燃え尽きてしまう。


(これホント糞仕様だよなぁ……自動で全部獲得できなんだろうか?)


「ぷはっ……! ううっ、ひっく……も、もうやだぁ~……」

「しゅるわぁ~!」


 さすがに遊んではいられないと思ったのか、ボスローパーはニムの口から触手を抜いて、それを下にいる俺へ向けて放つ。

既に気配を感じ取っていた俺はあらかじめ溜めておいた空気と魔力を、すぼめた口先から押し出した。


 ニムのファイヤダートよりも遥かに高威力の火矢(ファイヤーボルト)はボスローパーの太い触手を撃ち抜いた。


「きやあぁぁぁ~!」


 貫通した火矢はニムのすぐ脇にあったボスローパーの目玉に突き刺さって延焼を始め、


「ひいぃ!? ひぃー! 前髪燃えるぅぅぅっー!」


 飛び火した炎がニムの前髪を僅かに焼いて、彼女は悲鳴を上げていた。


(トカゲ形態の火炎は威力が高すぎるか! だったら!)


 俺は口から炎を吐き、ぴょこんと飛んで、ブーストジャンプをする。

そして獲得したばかりのFPを2消費して、再び近接戦に特化した筋骨隆々なリザードマン形態に戻った。


「どおりゃぁー!」

「きやあぁぁぁ~!」


 鋭い爪を振り落とし、ニムを拘束するボスローパーの触手をバラバラに切り裂いた。

解放されたニムと入れ替わるように俺は、ボスローパーの瞼をギリっと掴んで飛びつく。


「GAAAA!」

「きやあぁぁぁ~!」


 至近距離から炎の息吹をボスローパーの目玉へ直接吹きかける。

粘膜が焼かれ、瞬時に乾燥した目玉はまるでドライフルーツのようにしわくちゃになり、目を赤黒くうっ血させる。

相当苦しいのか、ローパーは触手をジタバタとわななかせる。


「さぁ、料理の時間だ。いかしゅうまいのようにしてやる! GAAA!」

「きやあぁぁぁ~~~~!!」


 爪で切り裂き、細かくしてゆく。

細かくなったローパーの肉片へ次々と”炎の吐息”を吹きかけてヌメヌメした粘液を乾燥させて、良く焼いて行く。

巨大なボスローパーは切られ、裂かれ、焼かれてバラバラに分解されてゆく。


 やがて見るも無残なただの良く焼けたおいしそうなブロック状のローパーを炎が消える前にパクリ。

 イカ焼きの味を思う存分堪能する俺なのだった。


(うぷっ。ちょっと食いすぎたかな?)


「えっぐ、ひっく……びえぇぇぇ~怖かったよぉ~!」


 そんな俺へ粘液でべとべとでぬるぬなニムが飛びつきて来た。

あまりに衝撃が強く、食べたものを戻しそうになるが堪える。


「こんな、そんな、えっぐ、ひっく、もうお嫁に行けない……ローパーに! ローパーなんかに! うわあぁぁぁ~ん!」」


 吐きそうな俺などまるで気にせず、ニムはわんわん泣きわめいている。


「だ、大丈夫だ、たぶん」


 とりあえず落ち着けるために、毛先が粘液でかぴかぴになっているニムの頭をそっと撫でてやる。

 衣装や鎧のどこにも穴が空いたり、間に滑り込んだ様子はない。

どうやらあのボスローパーは本当にニムをただぬるぬるとした触手を這わせて弄んでいただけらしい。


 するとニムはハッと、目を見開いて、飛び跳ねるように俺から離れる。

そして地面へ膝を突き、急に土下座をし始めた。


「も、申し訳ございませんでした! そしてありがとうございました!まさか貴方が、サラマンドラさんが炎のサラマンダー精霊様だとは露知らず! ご無礼、お許しください! ありがとうございました! ありがとうございました!」


(この子、凄く忙しい子だなぁ。まぁ、可愛いから許しちゃうけど)


 凄く忙しくて、疲れる子。アンナとはまたベクトルの違うエキセントリックさ。

サラマンダーがニムに抱いた感想がそれだった。



*fpが規定値に達しました。

”コミュニケーション形態で【ヒートクロー】”が使用可能になります”

FPを消費しますか?


(もちろんYES。てか、これっていちいち聞いてくる必要あるのかなぁ……)



★あなたの情報


【名称】:サマランダー(*コミュニケーション形態)

【種族】:リザードマン

【属性】:火

●属性スキル:炎の吐息、熱耐性、ヒートクロー

●物理スキル:切り裂く

●特殊スキル:魂の捕食、火属性強化

●エクストラスキル:ソウルリンク、形態変化(フォームチェンジ)

 FP:1

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