ファイヤーボルト
ペタペタと四つん這いで、不気味な幻想の森を彷徨う俺の今の名前はサラマンダ―。
スピリットの吐きだす白い炎は”熱耐性”のお蔭で暖かいくらいだし、
ゴブリンなんかは”ファイヤーブレス”で一撃。
時折出てくる岩のような障害物は物理と爆破の属性が付いてくる”ファイヤーボール”で吹っ飛ばして、道を切り開く。
(なんか改めて、俺って凄いのに転生したんじゃね?)
最初はサラマンダ―と聞いて、ただのトカゲだったことに不満だったが、今は能力のおかげでどうでも良くなっていた。
(昔なんかの本でサラマンダ―って”火トカゲ”の意味って読んだっけ。そういや某球でモンスターを捕獲してポケットにしまうゲームの初期モンスターの一匹も北米版じゃ、サラマンダ―って名前だったような……)
「グオォーン!」
(ッ!?)
空から低いうなり声が聞こえ、大きな影が頭上を過る。
野生の勘が働いたのか、自然と俺は四肢を強張らせて、警戒を厳にする。
そして時間の感覚を失わせる暗くよどんだ空を見上げた。
俺よりも遥かに巨大な翼を持ったモンスターがそこにいた。
鷹のような頭と翼を持ち、獅子のような強靭な四肢と鋭い爪を持つ、そいつの名は……
★鑑定結果
【名称】:グリフォン
【種族】:幻獣
【属性】:火
【概要】:炎を操る空飛ぶモンスター。火属性を好んで捕食する。
(コメントがまじめだ。しかも最後の一文、かなり物騒……)
「グオォーン!」
グリフォンは猛禽類独特の鋭い眼光を放って飛び立つ。
鋭利な嘴が小さな俺を明らかに狙っている。
(あ、あぶねぇ!)
俺は遮二無二身体を横へごろんと転がした。
グリフォンの嘴は地面を抉り、再び飛び立つ。
間一髪だった。
(今度はこっちの番だ!)
俺は飛び立ったグリフォンへ向けてファイヤーブレスを放つ。
すると急旋回したグリフォンは同じく、ファイヤーブレスを放った。
ぶつかり合った紅蓮の炎は一瞬で周囲の空気から水分を奪い、子葉を焦がす。
同じ炎の力は拮抗して、霧散する。
(これじゃダメか! だったら!)
今度は物理と爆破の効果があるファイヤーボールを放つ。
きっとこれならばブレスに対抗できるはず!
口から放たれた灼熱の塊は砲丸のように飛び、豪速でグリフォンへ向けて突き進む。が、グリフォンにかすりもせず、綺麗な放物線を描いて落下し、下にあった大岩を盛大に破砕した。
(ここまで飛距離が無いだなんて!)
再度のグリフォンの急降下攻撃をかわしつつ、何か他の手段は無いかと考える。そして目に留まったもう一つの攻撃手段。
(ファイヤーブレスは火炎放射、ボールはたぶん”グレネードランチャー”って解釈してもいい。じゃあ、矢(ボルト)ってつく、これだったら!)
丁度、グリフォンは空に舞いあがり体勢を整えたところ。
チャンスは今!
俺は視界に浮かぶ【ファイヤーボルト】を選択した。
ブレスやボールの時と同じく、俺の口は自動的に空気を吸い込み始める。
喉の奥から炎が湧いて、吸い込んだ空気と反応して激しく燃え上がる。
そして炎の輝きが最高潮を迎えた頃、俺は突き出た口を唐突に閉じた。
(ファイヤーボルト!)
窄まった口先から、細く圧縮された”炎の矢”が飛び出した。
「グオォンッ!?」
そして気が付いた瞬間にはもう、グリフォンの立派な鷹の翼を打ち抜き、更に炎上させている。
(やっぱり! ボルトは”ライフル弾”みたいなものか! これだったら!)
まだ飛行能力を奪うまでダメージを与えられなかったグリフォンは、嘴の間から真っ赤な炎のブレスを吐きだす。
俺はそれをごろんと転がって回避する。
回る視界の中でも、不思議とグリフォンとの距離が分かり、視野は正確に奴のもう片方の翼を捉えている。
(落ちろぉぉぉ――!)
「グオォーン!?」
吐きだした炎の矢は無傷だったグリフォンの翼を正確に撃ちぬいた。
両方の翼を撃ちぬかれ、飛行能力を失ったグリフォンの巨体がひゅるりと地面へ落ちる。
「グオッ……!」
前足から思いっきり落ちたグリフォンは立ち上がることができず、身体を振わせているだけ。
多分前足が折れてしまったのだろう。
(なんか可哀そうだけど、ここで放って置いても他のモンスターの餌食になるだけだよね。だったら……)
俺は初めて出会った強敵に畏敬の念を抱きつつ、ファイヤーブレスを放った。
紅蓮の炎はグリフォンを飲みこみむ。
しかし奴は苦しんだ様子も見せず、まるで眠るように穏やかに目を閉じて、炎の中に沈む。
そして奴の冥福を祈りながら、俺は口を開いて噛り付いた。
(ありがとう強敵よ。それではいだたきます!)
パク、モグモグ、ホロホロ
淡白な味わいながら仄かに香る爽やかなハーブのニュアンス。
(なんか上等なフレンチの魚料理を食べているみたいだ! 舌平目のムニエル?食べたことないけど……でも流石は強敵! 上品な味だ! ありがとう!)
強敵を平らげ、満足した俺は再び森の中を彷徨い始める。
(さていい加減こうしてるも飽きたな。これからどうしようかな?)
と、思っている最中、視界に黒煙と真っ赤な炎が見えた。
炎の精霊なだけあって、炎と煙に反応するのか、意識が自然とそこへ注がれる。
木々の向こうが真っ赤に彩られ、闇夜を覆う程の黒煙が立ち上っていた。
(山火事かな? てか、俺のせいじゃないよな……?)
「ガオォォォーン!」
グリフォン以上の空気を震撼させる咆哮が響く。
俺の鱗の肌は音から危険を察知し、神経を研ぎ澄ませる。
「はぁ、はぁ、はぁ! んっ、はぁ……!」
炎の向こうから荒い息遣いが聞こえてくる。
そしてぽよんぽよんとたわわに揺れる胸。決して太くは無く、むっちりとした柔らかそうな体形。
そんな若い女の子は真っ白なセーラー服の上に羽織った真っ赤なマントをひらめかせながら、可愛い顔立ちを歪めて必死にこっちに向かって走ってきていた。
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