ピクシー解放戦線
「精霊様を語るって、俺は正真正銘のサラマンダーなんだがな」
「とぼけるな!」
俺の嘘偽りのない言葉は、ユウの激しい一言で一蹴されてしまった。
彼女は腰へ刀のように括り付けている剣の柄を握りしめ、腰を落とす。
★鑑定結果
【名称】:ユウ=サンダー
【種族】:人間
【属性】:火
【概要】:第三皇女近衛兵団の団長で、同国最強の戦士の一人。ニムへ愛情に近い忠誠心を抱く。
(勢いで鑑定しちゃったけど、軽く個人情報まで知っちゃうのは気持ち悪いな。今度からはなるべくモンスター以外には使わないようにしよっと)
熱感知のスキルが熱源の移動を捉えた。
リザードマンとしての空間認識能力が、周辺の空気の変化を微妙につかみ取る。
体を脇へ逸らして、更に爪を伸ばして腕を突き出した。
”キンッ!”っと甲高い金音が響き、赤い火花が散る。
「ちっ!」
ユウの放った神速の横なぎ抜刀術は、伸ばした長い爪で受け止められていた。
「貴様、マリオンの手のものだろう。まんまと姫様に取り入って計画通りだろうが、これ以上好きにはさせんぞ!」
「だからマリオンってなんなんだよ!」
力いっぱい押し込めば、俺より明らかに細身なユウは後ろにはじけ飛ぶ。
しかし彼女は脚が地面に着いた途端、更に後ろへ”トン トン!”とステップを踏んで下がり、体勢を立て直す。
「言え! 貴様の目的はなんだ! 姫様のお命か! 我が解放戦線の壊滅か!」
再びユウが一気に距離を詰めて切りかかって来た。
「だから何にも目的なんてないつうぅーの!」
俺は熱感知でユウの接近速度を図った。
空間認識能力で剣の有効距離を正確に把握して、鋭い腕の爪でユウの斬撃を受け止める。
殺(や)る気満々のユウと、全く殺(や)気のない俺は延々と刃を交えて、闇を赤い火花で彩り続ける。
やがてユウは再び舌打ちをして、後ろへ飛び退いた。
「仕方あるまい。口を割らぬなら割らせるまで!」
ユウの左手が暗色に輝き、青白い紫電を浮かべる。
その腕で素早く剣の刀身を撫でた。
鋼の刃が青白く発光し、紫電を帯びた。
(これやばいぞ!? マジでやばいやつだぞ!?)
精霊としてなのか、リザードマンとしてなのか、良くは分からないが発光するユウの剣を見て、鱗がカタカタと震え出す。
「さぁ、吐け! でなければ我が魔法剣(マジックブレード)にて腕の一本程度は諦めて貰うぞ!」
「何してるの!?」
すると俺とユウの間へネグリジェ姿のニムが割り込んできた。
「姫様、そこを退いてください。こやつめはマリオンの手先に違いありません!」
「違うって! 炎の精霊サラマンダー様だって! なんでわかんないの!?」
「退いてください、姫様!」
ユウは立ちふさがるニムを前にしても、、魔法剣を下げようとはしなかった。
するとニムは、フッとため息を着く。
そして顔を上げ、ユウを鋭く睨みつけた。
「ユウ、従者の分際でシュターゼン国第三皇女たるこの私に逆らうか? これ以上の狼藉は反逆とみなし、死罪をもって償いとさせる!」
凛然としたニムの声が響いた。
まるで別人のように毅然とし、そして神々しささえ感じさせるその態度は、守られている方の俺でさえも自然と背筋が伸びる。
剣を握るユウの腕からも明らかに力が抜けていた。
「くっ……」
「剣を収めよユウ=サンダー第三近衛騎士団団長! 私にお前を殺させる気か!」
「……」
ユウの剣から青白い輝きが失せ、霧散する。
彼女は渋々と云った様子で剣を鞘へ納め、臨戦態勢を解除するのだった。
「すみませんでした、精霊様! 許してください!」
気が付けばまた元通りの雰囲気に戻ったニムが俺へ深々と頭を下げている。
(ニムって本当に王族なんだな)
彼女の新たな一面を知り、驚きを隠せない俺なのだった。
●●●
「申し訳ないが、俺はこの世界に顕現してまだ日が浅い。なので色々と状況がわからないんだ。君たちが何者で、マリオンとはいったい何者なのか教えてはくれないか?」
宴も終わり、シンと静まり返った天幕(テント)の中で、俺はニムへ問いかける。
「しらじらしい……」
ユウの辛辣な言葉を吐くと、ニムが鋭い睨みを聞かせる。
ユウは舌打ちをして、押し黙った。
「すみません」
「いや、気にしなくていいよ」
「先日申し上げた通り、我々はピクシー解放戦線。祖国であるシュターゼン国を、邪悪マリオンより解放すべく戦っている者です」
そうしてニムは、これまでのことを具に語り始めた。
遡ること一年前、シュターゼン国を支える五大貴族の末席ブルー家の当主マリオンが、魔物を召喚して反乱を起こした。
彼自身もまた邪悪な力を取り込み、魔物のと化す。
そんなマリオンは増大した魔力と魔物を駆使して、シュターゼン国を瞬く間に占領し、更に同国の秘宝であり、守り神の”八体の炎神イフリート”を奪取した。
(あの獣魔神が後七体もいるんだ)
「父母はマリオンに幽閉され、兄様や姉様は私を逃すためにマリオンの手に……だから決めたんです。私はこの危機から国を救うって。王族としての務めだって! 私が精霊様にお会いできたのも、また運命。どうか、どうか、私達にお力を添えを!」
ニムは真剣な眼差しでそう語ると、深々と頭を下げた。
しかし二つ返事ができない俺がいた。
確かに力を貸したい。だが離れ離れになってしまった杏奈も探さなければならない。
(どうするべきか……)
すると突然、天幕へ兵士が息せき切らせて飛び込んでくる。
ユウは兵士を睨むと、
「貴様! 挨拶も無しにここへ飛び込んでくるとは無礼であろう!
「も、申し訳ございません。しかし、速やかに姫様と団長にお伝えしたいことが!――大魔導士殿と炎の巫女様の行方を突き留めました!」
炎の巫女と聞いて、俺はその言葉と杏奈を結び付けた。
「でかした! すぐに計画に入る! 総員を即刻集結させよ!」
ユウの指示が飛び、兵士は天幕を飛び出してゆく。
「俺も是非その話を聞きたい。同席しても構わないな?」
俺がそう云うと、ユウは再び睨み返してくるのだった。
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